学び1
「――ということで、今日はユイとノアと一緒にブロクラをやっていくにゃー!」
:いえーい!
:またこの三人だ!
:今日は何をするの?
「今日はブロクラ講義にゃよ。と言っても、PVPやRTAじゃなくて、普通にゲームするための小さなことを練習する程度なのにゃ」
「あ、僕に関しては、前に習ったことが出来ているか確認してもらおうっていう側面もあります」
:なるほどな
:いいじゃん
:RTAやPVPは難しいからな
前の会議を経て、僕たちはブロクラでルミナ先輩に挑戦することが決まった。
だから、このゲームについて、練習しなくてはいけなくて、ニヤさんに頼んだのだ。
ニヤさんも、ルミナ先輩に勝つためにRTAを練習しないといけなかったんだけど、「問題ないにゃよ。他人に教えることも、にゃーのためになることにゃから」と言って、すぐに承諾してくれた。
ニヤさんの言葉は軽やかだったけれど、その裏にある気遣いははっきりと伝わってきた。ニヤさんほどの腕前なら、他人に教えることで新しく得られるものなんて、もうほとんど残っていないはずだ。それでも自分のためになると言ってくれたのは、僕たちを安心させるためだろう。
「今日は、何をするんですか?」
「ドラゴンを倒すことぐらいでいいんじゃないかにゃ? ただ、難易度をハードにすることで、ある程度の難しさがあるはずなのにゃ」
「ノアちゃんってこのゲームを始めてからまだ一か月くらいしかったっていないんですけど……。まぁ、ノアちゃんなら問題ないか」
:そういや、ノアって前の配信で、ドラゴンを四十分くらいで倒していたよな
:RTA勢と比べるとまだまだだけど、始めて一か月くらいでそれはすごい
:……たぶん、俺よりうまいな
そうして、僕たちはドラゴンを倒すための準備を続けていった。
最初の内は慣れてなかったクラフトも、今では一瞬で出来るようになっており、しっかり上達していることを、視聴者の人たちに知らせることが出来ている。
:速すぎだろ……
:あれだけ練習してたからな
:普通にゲームしてるだけの人と、常にうまくなるために努力している人の差を痛感したわ
まぁ、それはそうだろう。普通にこのゲームを楽しんでいるだけだと、クラフトする速度はあまり速くならないだろう。意識している人と、意識していない人の差。それは、明確に表れる。
そして、その最たるものの例が、ルミナ先輩とそれ以外の人々の差なのかもしれない。
「そう言えば、RTAってどれくらいの知名度があるんですか?」
地獄に向けて準備していると、ユイがニヤさんに問いかけた。
「あー、それはにゃーには判断できないにゃね」
「え? そうなんですか?」
「そうにゃよ。割と初期からRTAについて知識があったせいで、客観的な評価が出来ないのにゃ」
:確かに、インターネットってそういう所があるからな
:それは仕方がない
:俺たちも、ニヤやルミナのおかげで知ってるくらいだし
「初期からっていつくらいから知ってるんですか?」
「日本でRTAをしている人が三人しかいない時から知っているにゃ。……というか、好きなYouTuberがRTAを始めたのがきっかけにゃね」
「え、そんな昔から?」
「そうにゃよ。それに、その人がきっかけでRTAを始めた人が結構いたはずにゃから、RTAの始祖と言っても過言ではないのにゃ。今では、個人のチャンネル登録者が百五十万人に到達していたはずにゃから」
想像をはるかに超えている話が出て来た。そんなに凄い人がいたなんて。
「そう言えば、数か月くらい前に、京〇大学でRTA勢の上位の人たちがイベントをやっていたにゃね」
「え? それって本当の話ですか?」
「そうにゃよ。そういう意味では、結構知名度があるんじゃないかにゃ?」
:へー、そうなんだ
:大学でイベントってすごくない?
:時代変わったなぁ
そんな雑談を続けながら、僕たちは現世でしなくてはいけないことを終わらして、地獄へと向かい始めた。
「ゲートを作るのも上手くなったにゃねー」
「私より上手い……」
そうして、僕たちは地獄へたどり着いた。視界いっぱいに広がる赤黒い世界。溶岩の海が地平線まで続き、遠くでガストの鳴き声が響いている。
でも、初めてここに来た時とは違って、少しも動揺しなかった。
「慣れって、少しだけ切ないですよね……」
「そうにゃねー。初心の自分が懐かしくなるのにゃ」
「……ノアちゃんは、まだ十六歳だよね?」
:ノアが達観してる
:気持ちはわからなくもない
:でも、十六歳でそれは早いよ
「うーん。あっ、いいこと思いついたのにゃ。今から要塞に向かうから、走って付いてくるにゃよ」
ニヤさんはそう言って、走り出した。
僕たちも、ニヤさんに何とか追いつこうとして走るけど、どんどん距離が離れていって、一向に追いつけない。互いの走る速さは同じはずなのに、この距離の差は、一体何なのだろうか?
「え? なんで、そんなに速いんですか?」
そう尋ねると、ニヤさんは僕たちの方を振り返って、にやりと笑った。
「ちょっとした工夫の差にゃよ。少しでも走る距離が縮まるようにルート選択したり、ブロックに引っ掛からないようにジャンプをするタイミングを工夫したり、ブロックを使って道の高さを二マスにすることによって頭をぶつけた加速したりしているのにゃ」
「そ、そんな細かいことも考えているんですか?」
「もちろんにゃよ。クラフト速度と同じように、こうやって走るだけでも小さな意識の差で明確な差が生まれてくるのにゃ。それに、あのルミナ先輩だって、きっとこんなことをしているのにゃよ」
そう言われると、僕は言葉を失った。
――小さな意識の差。それが積み重なって、圧倒的な差になる。
少なくても、ルミナ先輩と僕たちの差の一部にはそれがあり、このままでは相手にならないことを示していた。
「なるほどね。ノアちゃん、これは何度も練習しないといけなそうだね」
「ユイ、ちょっと楽しそう」
「ふふっ。仕方がないでしょ。だって、あのルミナ先輩に近づくための道筋が見えて来たんだから」
確かに、味方を変えたら、これはルミナ先輩に近づくためのきっかけになるだろう。だから、こんなところで立ち止まっている時間なんてない。
「そうだね。僕たちも出来るようにならないと」
「にゃはは! その調子なのにゃ!」
:この三人組のこういう所はいいよね
:前向きで見てて気持ちいい
「じゃあ、さっそく試してみるのにゃ。この地獄には、マグマとかが合って、危険がいっぱいにゃけど、ノアたちなら乗り越えれると信じているにゃ」
そうして、再び僕たちは走り出した。
今度は、一歩一歩どのように走るのかを意識して。ただ、これは案外難しかった。それは、視野の広さと並列処理を求められるからであり、何かについて意識すると、周りの敵などに襲われてしまうことが多々あったからだ。
ちょっとでも妥協していいのなら、結構簡単にできるのだが、ルミナ先輩に勝つためには、妥協なんて一ミリも許されない。
「にゃはは! 結構ボロボロになったにゃね」
「……ハードですからね。一発で大量が半分削られたりしましたから」
「それでも、一度も死なずにたどり着いたのは凄いことにゃよ」
そうして、僕たちは要塞にたどり着いた。
装備を着ていないせいで、かなりボロボロだけど、まぁ何とかなるだろう。
:頑張ったな
:問題はここから!
「じゃ、要塞に入っていくにゃよ」
「わ、わかりました!」
:緊張してきた…
:死なないで!
:ここからが本番だな
こうして、僕たちの要塞攻略が始まる。
それ自体には、対して緊張していないけど、気を抜くことはできない。
だって、ニヤさんという最高の見本から、技術を盗むことができる貴重な時間なのだから。
(ここからが本当の試練だ。ルミナ先輩に近づくための一歩を、絶対に掴んでみせる)




