表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS転生したぼっちJK、陰キャの僕がVtuber事務所で仲間と成長していく話  作者: 月星 星成
最愛の君へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/120

準備

「やぁやぁ、三期生のみんな、よく来てくれたね」


 ユイとニヤさんとコラボして、しばらくたった休日の昼。僕たち三期生は、事務所に呼ばれて、全員が会議室に集まっていた。

 目の前にいるのは、相変わらず何を考えているのか分からない一期生のベオ・オーリス――つまり、莉緒さんだ。

 

「前置きとかどうでもいいんで、さっさと要件を言ってください」

「ゆ、ユイが相変わらず冷たいにゃ……」

 

 うん、相変わらずユイは莉緒さんに対して冷たいな……。

 でも、莉緒さんが作った和菓子をおいしそうに食べながら言ったら、説得力なんて何もないよ。


「アハハッ! 零は本当に変わらないね」


 莉緒さんはそう言って、机の上に置かれた資料を軽く叩いた。

 

「さて――今日は、三期生のみんなにとって大事な話があるんだ」

 

 その声色はいつもの飄々とした調子なのに、不思議と空気が引き締まる。マサさんとユイトさんが和菓子から手を離し、ニヤさんが姿勢を正して、ユイは……まだ和菓子を口に運んでいたけど、視線を逸らさずに莉緒さんの言葉を待っていた。


「前にも少し触れたと思うけど、七月に行われるNeoverse全体コラボの件だよ。ようやく具体的な内容が決まったから、今日はその説明をするから」


 資料のページをめくる音が、静まり返った会議室に響く。

 莉緒さんは一拍置いてから、さらりと告げた。


「この企画のテーマは、天才への挑戦。つまり、一人一回ずつ、それぞれ一つの分野で、あの一期生ルミナ・セレスティアに挑戦してもらおうと思っているんだ」


 その名前が出た瞬間、場の空気が変わった。マサさんは思わず息を呑み、ユイトさんは資料に目を落としたまま固まる。ニヤさんは小さく「……ルミナさんに挑戦?」と呟き、ユイは和菓子を噛みしめながらも、ほんの少しだけ眉をひそめた。


「それは、僕たちだけでですか?」


 僕は思わず、そう尋ねてしまう。


「ああ、言葉が足りなかったね。挑戦するのは三期生だけじゃない、二期生も挑戦するし、一期生のティアはもちろん、ボクだって挑戦するんだから」


 莉緒さんは飄々とした笑みを浮かべながら、さらりと言った。

 要するに――ルミナ先輩 VS Neoverseその他メンバー。その構図が頭に浮かんだ瞬間、会議室の空気はさらに重くなる。


 一見すると、これは余裕そうに思えるかもしれない。けれど、相手はあのルミナ先輩なのだ。ルミナ先輩は天才で、前にプロが作ったローストビーフよりも美味しいローストビーフを作ってみせた。しかも、料理に限らず、歌でも、ダンスでも、ゲームでも、知識でも――その道のプロを上回る実力を持っている。

 そんな人物に挑戦するなんて、結果はわかりきっている。勝てるはずがない。


(莉緒さんは、いったいどうするつもりなんだろう?)


 こんな無謀な挑戦、やる前から結果が分かりきっているから、視聴者の人たちは本当に楽しめるのだろうか?


「でも、安心して。君たちがどのようなことを思っているのかは理解しているから」


 莉緒さんは、いつもの飄々とした笑みを浮かべながらも、声の調子を少し落とした。

 

「確かに、ルミナに挑んで勝てる人なんて、そうそういない。だから、挑戦する分野は君たちが決めていいし、何なら、二対一という形をとってもらっても構わない。むしろ、ボクはそれを推奨するよ」


 その言葉に、会議室の空気がわずかに揺らぐ。

 確かに、それならば勝てる可能性は出てくるだろう。いくらルミナ先輩が凄くても、人間一人の力は限界があるのだから。

 ただ、それでもルミナ先輩の圧倒的な才能を前にすれば、勝てる保証なんてどこにもない。


「なぁ、それで勝てると思うか?」


 マサさんが、そんなことを口にした。

 それは、ここにいるみんなが思っていることでもあり、言いずらい空気の中で僕たちの意見を代弁したようなものだった。

 けれど、一人……その意見とは全く違うことを口にした人がいた。


「でも、にゃーは挑戦してみたいのにゃ」


 その言葉が会議室に響いた瞬間、重苦しい空気が少し揺らいだ。

 マサさんは驚いたようにニヤさんを見つめ、ユイトさんは思わず顔を上げる。


「前にルミナ先輩とコラボした時、実力の差を痛感したにゃ。けれど、壁があるなら、にゃーの持つすべてを使って乗り越えてみたいのにゃ」

「そうですね。私も同感です。それに――ルミナ先輩に勝ったら、実質莉緒さんに勝ったも同然ですよね?」


 ニヤさんに続き、ユイもそう言った。ユイはルミナ先輩と莉緒さんに子供の時から関りがあって、その二人に勝ってみたいという気持ちはより強いのだろう。


「アハハッ! それは、ボクがルミナより下って言うことかな?」

「さぁ、自分で考えてみたらどうです?」

「アハッ! 零のそういうところ、昔からちっとも変わらないね。そういう所が面白くて好きなんだ」


 ユイと莉緒さんの間に、わずかな火花のようなものが散った。挑戦心と飄々とした余裕――正反対の二人のやり取りに、会議室の空気が少しずつ緩んでいく。


「……なぁ、何でこんなことになっているんだ?」

「たぶん、先月のコラボが原因だと思いますけど……」

「ユイってこういうところあるよな。普段は俺らの中で一番まっとうなのに」

「まぁ、にゃーも割と負けず嫌いだから、何も言えないのにゃ」


 僕たちは、莉緒さんとユイの会話に、呆れ半分感心半分で耳を傾けていた。


「結局、俺ら全員そうなんだろ。勝てないって分かってても、挑戦したいって気持ちがある」

「……そうですね。挑戦しないまま終わるのは、きっと一番悔しいです」

「なら、我らのするべきことは決まったな」


 マサさんの言葉に、僕たちは自然と視線を交わした。

 

「莉緒さん、僕たちも挑戦することに決めました」


 そう言うと、莉緒さんは一瞬だけ目を細め、そしてすぐにいつもの飄々とした笑みを浮かべた。


「アハハッ! いいね。じゃ、残りの時間は、誰とどのようにして挑戦するのか決めといて。コラボのタイミングは夏休みに合わせたいから、七月の下旬。結構時間があるように見えて、案外時間は無いから、時間は有意義に使いなよ」


 そう言って、莉緒さんは立ち上がり、会議室の外へと歩き出す。

 その歩みは、悠然とした風のように軽やかだった。


「じゃ、頑張りなよ。……ああ、本番に備えて練習したいのなら、この事務所を好きに使っていいからさ。またね」


 会議室の扉が閉まり、静けさが戻った。

 さっきまで漂っていた緊張は、莉緒さんの余裕ある背中と共に消え、代わりに小さな熱が残されていた。


「それじゃあ、これからどうするのか決めようか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ