コラボ2
それから、ボクたちは何個かマシュマロを返していき、気づけば笑い声が絶えなくなっていた。
最初は緊張で声が震えていたのに、ユイと並んで話しているうちに、少しずつ肩の力が抜けていくのを感じる。
:二人の掛け合いおもしろい!
:ノアちゃん、最初よりリラックスしてる?
:ユイちゃんのフォローが神
「ふふ、いい感じに温まってきたね。じゃあ、そろそろマシュマロを終わりにして、二人でゲーム実況を始めようか」
:待ってました!
:ゲーム楽しみ!
:二人の掛け合いで絶対面白くなるやつ
「えっ……い、いきなりゲーム……? だ、大丈夫かな……」
「大丈夫大丈夫。ノアちゃんが下手でも、わたしがなんとか盛り上げるから」
「下手って決めつけないでください!」
思わず声を張り上げると、コメント欄が一斉に笑いに包まれる。
:フラグ立ったw
:ノアちゃんの必死な抗議かわいい
:ユイちゃんの余裕っぷりw
「じゃあ、早速始めよっか。今日やるのは――」
ユイがタイトルを読み上げると、コメント欄がさらに盛り上がった。
――緊張はまだ残っているけれど、不思議と胸の奥は少しだけ高鳴っていた。
「これ! テトラス!」
ユイがタイトルを読み上げた瞬間、コメント欄が一斉にざわめいた。
:あー!落ちものパズルきた!
:初心者でもできるやつw
:ノアちゃん絶対連鎖できないでしょ
「えっ……テ、テトラス……!? む、むずかしいやつじゃ……」
「大丈夫大丈夫。ブロックを積むだけだよ。ほら、簡単でしょ?」
「か、簡単って……! 絶対に簡単じゃないでしょ!」
必死に抗議するボクを見て、ユイはまた楽しそうに笑った。
その笑顔に、コメント欄がさらに盛り上がる。
:ノアちゃんの動揺かわいい
:ユイちゃんの余裕が逆に怖いw
:これは波乱の予感……!
「じゃあ、いくよ。テトラス、スタート!」
画面にカラフルなブロックが落ち始め、ボクの心臓も同じように落ち着かなく跳ねていた。
「えーっと、これをこうして……あっ、間違えた!」
気づいたときには、ブロックが変な隙間を残して積み上がり、慌てて修正しようとするけれど、次のブロックがどんどん落ちてくる。テトラスのようなパズルゲームは、人生で一度もやったことが無く、初めてのことばかりでうまくいかない。
だけど、ユイは今までにしたことがあったのか、スムーズにブロックを回転させては、綺麗にラインを消していく。
「ほら、こうやって隙間を作らないように積むんだよ」
「そ、そんな余裕ないですってば!」
僕が必死にコントローラーを握りしめている横で、ユイの画面はどんどん整っていく。
:ユイちゃん上手すぎw
:ノアちゃんの盤面カオスで草
:この差よ……!
「わ、わわっ!? もう上まで積み上がっちゃう!」
「ふふっ、ノアちゃん、開始三分でゲームオーバーしそうだよ?」
「うぅ……! まだ諦めてませんから!」
必死に抗うけれど、ブロックは無情にも積み重なっていく。
そして、その後はみんなの予想通り、三十秒も立たずにボクは撒けてしまった。
「げ、ゲームオーバー……」
「ふふっ、わたしの勝だね。どう、別のゲームにする? わたしはどっちでもいいけど」
落ち込んでいるボクを見て、ユイが勝ち誇ったように胸を張った。
どうやら、ユイは今のボクの状態を見て、これならば負けることは無いと思っているらしい。
だから、他のゲームに移って、一方的な展開にならないように――そう考えているのだろう。
――でも、配信を見てくれた人を楽しませるには、もっといい方法があるんだよ。それに、負けたままでは、ボク自身も納得できなくて、視聴者のためなら、緊張なんて捨ててしまえるだから。
「もう一回……もう一回させてください!」
思わず声を張り上げると、コメント欄が一斉にざわめいた。
:おお、ノアちゃん本気モード!
:リベンジ宣言きたーー!
:これは盛り上がる予感
さっきの対戦で、このゲームの遊び方は理解できた。
理解さえできれば、あとはブロックを置いていくだけ。
昔から、ボクは物事を理解するのが早いって褒められてきた。天才と呼ばれるほどじゃないけれど――追いつくことくらい、きっとできる。
ユイが驚いたように目を丸くして、そして楽しそうに笑った。
「ふふっ、いいね。その目、さっきまでのノアちゃんとは違う。それなら、今度は手加減なんてしないからね」
挑発するようなユイの笑みに、胸の奥が熱くなる。
負けっぱなしで終わるわけにはいかない。今度こそ、視聴者の前で意地を見せてやるんだ。
:ユイちゃん本気宣言w
:ノアちゃんがんばれー!
:これは神回の予感
「望むところです……! 次は絶対に負けませんから!」
強気に言い切った瞬間、チャット欄がさらに騒めいた
コントローラーを握る手は、まだ震えているけれど、これはさっきまでの緊張じゃない――これは、武者震いなんだ。
「じゃあ……第二戦、スタート!」
再び画面にブロックが落ち始める。
今度は焦らず、形を見極めてから置く。
――大丈夫、もうルールはわかっている。ここからが本当の勝負だ。
「こう、こう……ここはこうして――よし」
さっきまでの混沌とは違い、瞬く間にブロックが揃い、消えていく。それを見て、ユイが思わず声を漏らした。
「……おっ? ノアちゃん、さっきと全然違うじゃん」
:急成長してて草
:これほんとに同じ人?
:ノアちゃん覚醒モードきたーー!
(そりゃ、出来るようになりますよ。だって、見本が目の前にあるんですから)
必死に指を動かしながらも、ユイの動かし方は見逃さない。回転のタイミング、置き方の癖――全部を目に焼き付けて、真似するように積み上げていく。
「よし……ここで、こう!」
「……えっ、ノアちゃんって、天才なの?」
:覚醒どころか進化してるw
:さっきまでのカオスはどこへ
:ユイちゃんも驚いてるの草
違う、ボクは天才じゃない。天才と呼ばれている人は、自他の違いを理解して、その違いを命を懸けて伸ばしている人のことだから。
ボクは、ちょっとだけ物事を理解するのが早い程度。中の上までしかできるようにならないし、そこまで到達するのは早いけど、超えていくのには時間が掛かる。だから、何度も早熟と言われてきた。
でも、配信を面白くするためならば、それだけで十分だ。
「これは、やばいかも……」
隣でユイの呟いている声が聞こえた。
その声音は、冗談めかしているようでいて、ほんの少しだけ本気の色が混じっている。
「ユイさん、焦ってますか?」
「ちょ、ちょっとだけね! でも、まだ負けないから!」
:ユイちゃん動揺してるw
:心理戦w
:ノアちゃんの成長速度バグってる
:これ逆転あるんじゃ……⁉
戦況は五分。
けれど、ここまでが限界だ。これ以上の成長は望めない。本来ならば、まだユイの方が実力が上だけど、ボクの成長に動揺して、本来の実力を出せていない。
だから、この先を分けるのは――技術でも運でもない。
ただ一つ、ミスをした方が負ける。
手に汗がにじんで、緊張で胸が弾けそうになる。でも、それはきっとユイも同じ。
それに、ボクたちの踊りを視聴者に魅せていくんだから、つまらない終わり方なんて――許されない。
そうしていると、ユイが小さなミスをした。
本来なら二列同時に消せていたはずなのに、回転が一瞬遅れてブロックがずれ、結局一列しか消えなかった。
「……あっ」
ユイの小さな声が漏れる。画面には消し残った段差が残り、わずかな綻びが広がっていく。
その瞬間、胸の奥が熱く跳ねた。――チャンスだ。
迷っている暇はない。次のブロックを素早く回転させ、狙いすました場所に落とす。
カチリと音を立てて揃った瞬間、盤面が一気に三列消え、派手な光が走った。
「まずいっ……」
その事実にユイが焦り、指先の動きがほんのわずかに乱れる。
そのせいで、今まで滑らかに積み上がっていたブロックが、わずかな隙間を残して止まった。
「しまった……」
そこから先は、一方的だった。
焦りでユイの指先はわずかに遅れ、積み上げたブロックは次々と隙間を残していく。
その隙間がまた焦りを呼び、悪循環のように盤面が乱れていった。
一方で、ボクの手は止まらない。
ユイの動きを横目で盗みながら、次のブロックを正確に回転させ、狙いすました場所に落とす。
カチリ、カチリと心地よい音とともに、ラインが次々と消えていく。
「うそ……ノアちゃん、ほんとに……!」
ユイの声が震えた。
:逆転劇きたーー!
:ユイちゃんが押されてる⁉
:ノアちゃん覚醒完了w
そして、決着の時が来た。
「……勝った」
思わずこぼれた声は、自分でも驚くほど震えていなかった。
画面には、GAME OVERの文字。ユイの盤面が崩れ落ちていく。
「えっ……ほんとに負けちゃった……?」
:ノアちゃん初勝利おめでとう!
:神回すぎるwww
:ユイちゃんの負け顔かわいい
:リベンジ成功きたー!
コメント欄が今までで一番の爆発を見せる。画面の向こうから伝わってくる熱気に、思わず胸が震えた。
「……ほんとに、負けちゃったんだ」
ユイがそのチャット欄を見て、苦笑しながら肩を落とす。その表情は悔しそうで、目の奥に影が落とされていた。
:ユイちゃんの負け顔レアすぎるw
:ノアちゃんのガッツポーズかわいい
:これは伝説の回になるぞ
「や、やった……! 本当に勝てた……!」
でも、勝利という甘美の酒に酔いしれていたボクは、ユイの瞳に落ちた影に――気づくことができなかった。
「ノアちゃん、おめでとう! 少し休憩する?」
ユイは笑顔を作りながらそう言った。けれど、その声色にはほんのわずかな揺らぎが混じっていた。
チャット欄はまだ熱狂の渦の中で、祝福と驚きの言葉が次々と流れていく。
:ユイちゃん優しいな
:でもちょっと悔しそう?
:この空気感たまらんw
「えへへ……ありがとうございます。それなら、少し休憩していいですか?」
ボクは勝利の余韻に浸りながら、素直に頭を下げた。
勝利の余韻に浸りながら、思わず素直に頭を下げる。
胸の奥はまだ熱く、鼓動は高鳴ったまま――まるで舞台の上で喝采を浴びているような気分だった。
けれど、その無邪気な言葉が、ユイの胸にどんな影を落としたのか。
そのときのボクは、まだ知る由もなかった。




