第9話
「……これはこのダンジョンの地図ですか?」
「その通り。これは私が長年かけて少しずつ更新していったこのダンジョンの地図さ」
「……!」
コトリがティオの前に現れた立体映像の地図を見ながら聞くと、よほどの自信作なのかティオは胸を張って答える。ちなみにティオが胸を張った時、彼女の豊かな乳房が豪快に揺れて思わずアレスの目がそちらに奪われたのだが、幸いなことに地図に意識が集中しているコトリとティオはアレスの様子に気づいていなかった。
「………」
ティオの前に現れたダンジョンの地図はまるで光の輪っかのようであった。コトリは輪っかの部分、ティオがこれまで探索をして更新してきた部分をしばらく見つめた後、次に輪っかの内側、まだ地図が更新されていないダンジョンの中央とその周辺に目を向けてティオに質問をする。
「……この輪っかの地図、ダンジョンの外側の方はほとんど調べ終わっているみたいですけど、内側の方……中央は調べていないのですか?」
「あ〜……。いや、これまでにも何度かダンジョンの深い部分まで進んで地図を更新したんだけどね? 中央とその周りの地図はもう使えないんだ」
コトリの質問に苦笑を浮かべて答えたティオは、どうしてダンジョンの深部の地図が使えなくなったのか理由を説明する。
「このダンジョンに入った冒険者は、まずランダムで外側の方のどこかに飛ばされて、私達が今いるここもダンジョンの外側のどこか。それでダンジョンマスターがいるとされているダンジョンの中央と、その周辺はある程度時間が経つと勝手に壁が動き出して、それまでとは全く違う構造になってしまうんだよね」
「なるほど。それで過去のデータはもう通用しないから中央の情報がないのですね」
ティオの説明にアレスが納得して頷く。
「ダンジョンはそれぞれモンスターや罠の他に、侵入者の行動を邪魔する『仕掛け』があるけど、このダンジョンは定期的に内部の道を変えることで侵入者の行動を邪魔するというわけか。……単純だけど効果的な手ですね」
「そうだね。特に困りはしないけど、厄介だと言えば厄介な仕掛けってこと。だからこのダンジョンに挑む冒険者はダンジョンマスターがいる中央にはあまり近づかないかな」
アレスの言葉に返事をしたティオは自分の左手首にある機械を操作した。すると機械は周囲の状況からティオ達がいる地点を割り出して、彼女の前にある光の輪っかのようなダンジョンの地図の一箇所に光の点が生じた。
「私達が今いるのはここ……って、しめた。最初から『狩場』まで結構近い場所に飛ばされたみたいだね。アレス、コトリ、戦う準備をしてついてきて」
自分達の位置を確認したティオはある事に気づくと、アレスとコトリを連れてダンジョンの内部へと進んでいった。それからしばらく歩いた後、曲がり角でティオは壁の陰に隠れて慎重に曲がり角の先を見てからアレスとコトリに呼びかける。
「アレス、コトリ。音を立てないで静かにあれを見て」
ティオに言われてアレスとコトリも壁の陰に隠れて曲がり角の先を見ると、そこには大量の粘液が集まって人間の腰くらいの高さまでなった粘液の塊が複数あった。更にその粘液の塊はゆっくりとだが生き物のように動いており、粘液の塊を見ながらアレスがティオに話しかける。
「あれは……スライム、ですか?」
生き物のように動いている粘液の塊は、まるで昔の創作話に登場するスライムそのままで、アレスの問いかけにティオは頷き答える。
「そうさ。私も他の冒険者達もあれをスライムと呼んでいる。このダンジョンに出てくるモンスターはあのスライムだけで、あれが今回の私達の目標だよ」
「……目標? じゃあこのダンジョンの資源はあのスライムの死骸なのですか?」
今度はアレスとティオの会話を聞いていたコトリがティオに質問する。
六芒星銀河の冒険者達は物語の冒険者と違って、ダンジョンに挑む目的はそこにいるダンジョンマスターを倒すことではなくダンジョンにある貴重な資源を回収することである。そしてダンジョンにある資源とはそのダンジョンによって異なり、鉱物であれば植物である場合もあり、モンスターの身体の一部だったりもする。
「そういうこと。……スライムは全部五匹、上手くすればアイツらだけで結構稼げるよ。アレス、コトリ。抜かるんじゃないよ」
自分の武器を握りしめてティオが言うと、アレスとコトリもそれぞれ武器を構えてみせた。




