第5話
冒険者組合の支店ビルから出たアレスとコトリ、ティオの三人は支店ビルと同じ島にある大衆食堂へと向かった。そしてアレス達三人が同じテーブルの席に座って適当に注文をすると、まず最初にアレスがティオに話しかけた。
「それでティオさん? さっき『懐かしい相手』と言っていましたけど、コトリとは何処かで知り合ったのですか?」
「……私は会ったことがありません」
アレスがティオにコトリと知り合いなのかと聞くと、コトリが首を横に振ってそれにティオが頷く。
「そうだね。私も彼女、コトリって言ったっけ? コトリとは初対面だね」
「……では、もしかしてアレス様の知り合いなのですか?」
ティオの言葉に今度はコトリがアレスに聞くのだが、この時のコトリは顔の下半分が鳥のくちばしの仮面で隠れていても嫌そうな表情を浮かべているのが分かった。
「いやいや、俺もティオさんとは初対面ですよ? ティオさん? それじゃあ、懐かしい相手っていうのはどういうことなんですか?」
「それなんだけどコトリ? アンタ、『クノイチ』だろ?」
「「っ!?」」
アレスの質問に答える代わりにティオがコトリに尋ねるとアレスとティオは驚いた表情となり、その二人の反応を見てティオは自分の予想が正しかったと確信する。
クノイチとはこの六芒星銀河に存在する種族の一つだ。
クノイチは女性だけの種族で単為生殖、つまりは男を必要とせず自分だけで子供を産めるだけでなく、特別な手術や訓練を受けずとも隠密行動に特化したスキルを使える生まれながらの隠密集団なのである。その隠密能力を活かしてクノイチ達は様々な星で諜報活動を行う傭兵として活躍してその世界では有名であったのだが、今から数十年前に複数の星で全く同じ凶悪な伝染病の感染爆発が確認された時からクノイチの名前は聞こえなくなった。
クノイチ達はその任務の内容から他の種族との関わりを絶っており、自分達の母星の位置も秘密にしてきた。それが仇となって母星にいた多くのクノイチ達は伝染病に感染しても他の星へと助けを求めることができず全員が命を失い、今では僅かな生き残りのクノイチがどこかの戦場にいるという噂があるくらいだ。
「私は今でこそ冒険者をやっているけど昔は傭兵でね。十年近く前、駆け出しの傭兵だった頃に戦場でクノイチと出会って命を救ってもらったことがあるのさ」
「ああ、なるほど。そういうことでしたか」
「……同胞は、生き残っていたのですね」
ティオの話を聞いてアレスは彼女の言っていた「懐かしい相手」という言葉の意味を理解して納得したように頷き、コトリは同胞であるクノイチが少なくとも十年前まで何処かの戦場で生き残っていたという事実に僅かに嬉しそうな声で呟く。
「私がクノイチと会ったのはその時だけで、助けてくれたクノイチも今は何処にいるか分からないんだ。すまないね」
「……いいえ。それは分かっていましたから」
「そうかい。……じゃあ話は変わるけどアレス、コトリ? アンタら、この星にあるダンジョンに挑むつもりなんだろ? それだったら私と組まないか?」
謝るティオにコトリが首を横に振って答えると、気持ちを切り替えたティオはアレスとコトリに、一緒にダンジョンに挑まないかと話を持ちかけたのであった。




