第10話
「……それで、あのスライムは強いのですか?」
「特に強いってわけじゃないけど面倒臭い相手ではあるね。弱点の核を潰さない限り死なないのに、分厚い粘液のせいで核への攻撃が届き辛くて、オマケに普段の動きはノロいけどエサを捕まえる時の動きは結構速いから、下手に攻撃をしようとしたら逆に喰われちまう」
「それは確かに面倒そうな相手ですね」
スライムについて質問をするコトリにティオが答えると、アレスがティオの言葉に同意する。
「……だったらどうやってスライムを倒すのですか?」
「簡単さ。下手に攻撃したら逆効果だったら、渾身の一撃を叩き込んで核のみを狙うか邪魔な粘液を削り飛ばせばいいのさ」
「完全な力技ですね。でも確かにそれが一番手っ取り早そうだ。……ここは私が行きます」
コトリに聞かれて簡単そうに言うティオの言葉にアレスは苦笑をすると、まず最初に自分がスライムと戦うと言った。
「アレス? 大丈夫なのかい?」
「分かりません。でもこの無反動砲の威力を試すいい機会ですし、元々敵を見つけたら俺が最初に攻撃する手はずでしたでしょう?」
「……そう言えばそうだったね。それじゃあ頼んだよ」
「……大丈夫です。アレス様は私が守りますから」
「ありがとう、コトリ。それじゃあ行きます」
アレスがダンジョンの入る前に決めた戦闘時の取り決めを言うと、自分で決めたはずなのに忘れていたティオが苦笑し、コトリはアレスの補佐をしながら彼を守ることを約束する。アレスはコトリに礼を言うと壁の陰から姿を現し、スライム達に向けて担いでいた無反動砲を構える。
「神から授かった特別製の砲弾……受けてみなさい!」
アレスが無反動砲の引き金を引いた瞬間、無反動砲の砲口から一発の砲弾が放たれる。スキルの効果によって身体能力だけでなく動体視力も強化されているティオは、アレスが放った砲弾を正確に見ることができた。
アレスが放った砲弾は、先端が尖っていて表面に無数の小さな棘が生えている棒状の外見をしており、砲弾と言うよりは杭のようだった。
砲弾は五匹いるスライムのうち、一番近いスライムの体を作る粘液に先端が触れた瞬間、無数の棘となって前方へと爆散し、砲弾が当たったスライムは砲弾が爆散した衝撃で体が跡形もなく消し飛んだ。そしてそのまま砲弾から分裂した無数の棘は、他の四匹のスライムに向かって飛翔する。
最初に無反動砲から発射された時の速度に、爆散した際の速度も加わった無数の棘の威力は凄まじく、超高速で飛ぶ無数の棘は四匹のスライムの粘液で作られた体を弱点である核ごと粉々にすると、そのまま周囲の床に壁、天井に深々と突き刺さった。
これは一秒に満たない間に起こった出来事であり、ティオのようにスキルで動体視力を強化していない者からみたら、アレスが無反動砲を撃った瞬間に轟音が鳴り響いてスライムが消し飛び、更にはその周辺の床や壁に亀裂が入ったように見えただろう。
「……驚いた。まさか一発でスライム五匹を倒してしまうなんてね。アイツらは一時的に体の粘液を固めて硬度を上げることもできるから、普通の銃火器だったら効き辛いはずなんだけどね」
「……アレス様の砲弾は普通ではないです」
アレスが一撃でスライムを全滅させた光景にティオが驚いていると、何故かその隣にいるコトリが小さく胸を張って自慢するように言い、コトリの言葉にティオが頷く。
「ああ、それは十分に分かったよ。あの奇妙な砲弾……多分特注品なんだろうけど大丈夫なのかい? 金のかかる特注品の砲弾なんか使ったらここで稼いでも赤字になるんじゃないのかい?」
「それなら大丈夫ですよ。神から与えられたこの砲弾はいくらでもありますからね。それよりスライムの死骸を集めるのですよね。だったら通路の水に流されないうちに急いで回収しましょう」
「待て。油断はしないほうが……」
ティオに返事をしたアレスは自分が粉々にしたスライムの残骸を回収するべく通路を進むのだが、その時、壁に付着している水が集まって一匹のスライムとなりアレスに襲い掛かろうとした。




