4
「改めて、そなたらに護衛を頼みたい。私の不在が知れる前に帰りたいのだ」
ノア君は改めて偉そうに依頼してきた。
私はライ君を見る。
護衛の依頼なんて、私はわからない。
ライ君はどう判断するんだろう。
「サザンティーヌ領までの護衛か。冒険者ギルドを通さない依頼になるのか」
「そうだ。公式記録に残したくない」
なんだか事情があるみたいだけど、ライ君はちょっと難しい顔だ。
公式記録に残らない護衛任務って難しいのかな。
そうだよね。何かトラブルがあったとき、困るよね。
「オレひとりでもいいだろうか。それなりに護衛任務は慣れている」
「いいや、カエルクンに頼みたいのだ。魔力の心地よさと、人柄が信頼出来ると判断した。そなたも守人一族として信頼できるが、ひとりではトラブルに対処が難しいこともあるだろう。二人に頼みたい」
ライ君の眉が寄る。
そうだよね、私が護衛任務の手伝いって、やりにくいよね。
「そなたはカエルクンの秘密を守ってやりたいのだろう。これを引き受けてくれるなら、誰にも明かさないと魔法契約をしてもいい」
うえーん、私の秘密がバレたから、引き受けるしかないみたいだ。
ライ君が怖い顔になっている!
なのにノア君は涼しい顔だ。なんて手強いんだ!
「カエルクン、どうせだから中の顔をちゃんと見せてくれないか。可愛い女の子だったと思うが」
うえーん、中身が女だって、ばっちり見られてる!
ライ君がさらに怖い顔なのに、平気なノア君。
うわあ、ノア君つよい!
私はちょっと口をとがらせて、でも仕方がないので着ぐるみのファスナーを下ろし、上半身を出した。
「ほう、そうなっているのか。面白いな!」
ふくれっ面な私を見ているのに、ノア君は面白がる。
なんだか意地悪そうだ!
「くくく、可愛いな。なあ、オレの嫁にならないか?」
「断る!」
ノア君の言葉に、なぜかライ君が即答した。
あ、うん。まあ、そうだよね。うん、お断りでいいよ。
ライ君が言ったので、微妙な空気だけどね。
「いいじゃないか。沼地の一族、両性類のカエル君という妻。私は安らぎが欲しいんだ」
あー、ようはノア君も、着ぐるみカエル君ボディに癒やしを求めているのだね。
子供だものね。着ぐるみ大好きだよね
わかるけど、嫁っていうのは言い過ぎだよ。
着ぐるみはお友達くらいでいいと思う。
ノア君は偉い人で、今は子供でも、そのうち立場のある人になるんだろう。
そんな人の奥さんが着ぐるみなんて、みんな困ると思うよ。
あと両性類が嫁っていうのも、どう扱えばいいのかわからないよ。
カエル君は彼女扱いなのか彼扱いなのか、どっちなんだ。
嫁っていうから、彼女扱いなのかなあ。
「くくく、私だけが可愛い中身を知る妻、面白い趣向ではないか」
ノア君が何かを言っているけれど、考え事をしていたら聞き流してしまった。
「サザンティーヌ公の息子が平民の娘を嫁になんて、出来るはずがないでしょう」
ライ君が言い返してくれた。
そうだそうだ、偉い人のお嫁さんなんか、私には無理だ!
「下手な家から嫁を迎えるよりマシだ。今回の騒動も、招いた先で娘と閉じ込めて既成事実を、なんて考えた可能性もある。色々と面倒な立場なんだ。相性が良ければ平民でも、縁戚と養子縁組の上で嫁入りさせる手段もある」
ん、既成事実って、何の?
私が首を傾げていると、ノア君が笑った。
「カエルクンは、わからないという顔をしているな。やはりいいな。なあ、カエルクンはどうなんだ? 私の嫁という選択肢もいいと思わないか?」
「え、嫌だ」
私の即答に、ライ君が隣でうんうんと頷いている。
リョク君も私の肩で、うんうんと頷く。ライ君の真似みたいだ。
「なぜだ。毎日ごちそうが食べ放題だぞ」
「別にいいもん。食べたい物をちゃんと買うから」
だって偉い人のお家なんて、窮屈そうで嫌だ。
私に似合うとは思わない。
街でパン屋さんや串焼き、スープやお菓子を買い食いするのがいい。
「それにノア君、子供だし」
「子供じゃない!」
ノア君は少し怒った顔で言い返してきた。
ええー、そう言われても子供だよ。
「くっ、魔力の状態はそろそろ安定してきているんだ。あと一年ほどか」
ノア君、何かぶつぶつ言っている。
そして顔を上げると、私に詰め寄った。
「子供だから断るのなら、一年後にまた申し込む!」
いや、ノア君十歳くらいだよね。一年後でも子供だよ。
そして結局、嫁問題はともかくとして、護衛は引き受ける羽目になった。
その場でライ君とノア君が、私のことを誰にも話さないと、魔法契約をしていた。
口止めのために護衛任務をすることになって、ライ君ごめんねー!
ノア君は、守人一族の血を引いている。
そのため狭間の森のショートカットルートを使えるらしい。
ライ君と私が護衛で良かったと上機嫌で、狭間の森に入れる場所へ向かうために、いつもの街を出た。
「気を抜いても大丈夫な場所を通れるとは、快適な旅になるな!」
ライ君が不機嫌で、私は困っていて、ノア君はご機嫌にリョク君と話す。
「そうか、そなたはドライアドなのか。本体と離れて平気なのか?」
『カエが名前をくれたのー! だからカエと一緒にいるんだよ!』
「ほう、絆ができたのか。相性のいい相手との契約でよかったな」
『カエの魔力、おいしいのー!』
「そうか。私もこれからはカエと呼ぼうか」
勝手にカエと呼ばれることになった。
ライ君がさらに不機嫌になるので、私はどうしたらいいのか困っている。
「ごめんねライ君。ギルドを通さない護衛任務って、引き受けるの困るよね」
「いや、それはたまにあるからいいんだ。でもあいつは気にくわない。カエ、気をつけろよ」
ライ君はノア君と相性が悪そうだ。
あと着ぐるみを嫁とか言う人だから、確かに扱いに困るだろう。
ちょっと変な趣味があるみたいだから、気をつけようね!
「大丈夫。カエル君はみんなの着ぐるみアイドルだからね! ひとりで着ぐるみを独占なんて、させないからね!」
遊園地でも子供たちに人気のキャラクターだったんだよ!
ライ君は私の言葉に、困った顔になった。
「カエは、独占されるのは困るのか?」
「カエじゃないよ。カエル君は独占されると困るんだよ。人気キャラだからね」
「ん? カエの独占はいいのか?」
「私のことはライ君だけがちゃんと知ってるから、ライ君の独占かなあ」
リョク君もだけど、ドライアドの子供だから、人とはちょっと違うからね。
カエル君じゃないカエデとしての私は、ライ君だけが知っている。
ノア君にも知られたけど、事故だ。
この護衛任務だけの間柄だ。
そう話すと、不機嫌だったライ君がにっこり笑った。
「そうか、カエはオレだけか!」
「そうだよ。人ではライ君だけだよ!」
隣町を通り過ぎて、深い森の中に、狭間の森につながる場所がある。
川向こうの方が近いけれど、あちらは獣族の土地で危険なのだ。
隣町へ行く道も人目につかないよう、街道ではなく人通りの少ない道を通るので、魔獣も出る。
「カエル君パワー!」
私がノア君を守りながら魔獣を退け、ライ君が縦横無尽に魔獣を討伐していく。
うん、いいコンビだ!
護衛任務ってよくわからなかったけれど、ライ君はいつもよりやりやすいと言ってくれた。
「カエがいると、安心だからな」
おお、嬉しい言葉だね!
ずっと森の中にいるのは大変なので、野宿をした翌日、隣町には寄ることにしていた。
ノア君は野宿でも、文句を言わなかった。
ベッドで寝ていないので、体は固まって痛いみたいだけどね。
私はふかふかの着ぐるみのままで寝れば、快適なのだ!
魔法で温度調整もされていて、温かいのだ!
「オレもその中に入りたいな」
ノア君が言い出したけど、子供でも二人で入ったら狭いよ。
「許可するわけがないだろう! カエと密着なんて!」
子供だからそれはいいけど、狭いから嫌だ。
リョク君が入っているのは問題ないけどね。
野宿の翌日、隣町に着いたら、ノア君はほっとした顔をしていた。
いい育ちだから、そうだよねえ。
森歩きはちょっとならいいけど、野宿は大変だよね。
今夜は宿でゆっくり寝よう!
そう思っていたのに、なかなかノア君は宿に向かってくれない。
「あれも見てみたい!」
ノア君が強い護衛を従えてはしゃいだのか、勝手をし出したのだ。
「ええー、やだよ。早く宿に行こうよ」
「いいじゃないか! こんな機会はそうそうないんだ!」
まあ、いいところの子供だと、自由に街を歩けることって、そうないんだろう。
串焼きも食べたことなかったみたいだしね。
カエル君グローブをつかんで、私を引っ張り回している。
またもライ君が不機嫌だ。
「ねえねえ、もう宿に行こうよ-」
「ほらカエ! あれ可愛いだろう! カエも見たいよな!」
ノア君が指さす先には、小さなヒヨコがいた。
あ、可愛い!
「なんのヒナかな。可愛いね!」
「従魔の子供だ。ヒナから慣らして、いずれ従魔にするんだ。従魔の行商もあると聞いたが、あれがそうだろうな」
従魔というのがわからないなと首を傾げると、ノア君はリョク君を指さした。
「カエはリョクが従魔だろう」
おお、リョク君に名前をつけて、絆ができたのが従魔契約というものらしい。
「あの鳥は、手紙を運んでくれる。従魔としてよくある生物なんだ」
「へえ、賢い鳥さんなんだねえ」
ノア君に手をひかれるまま、ヒヨコを見た。
ピヨピヨ鳴いていて可愛いな。
よく見ようとカエル君の大きな口から覗いていると、目の前の子がピヨッと高く鳴いて、私に向かって飛び込んできた。
あ、ピヨピヨ私に懐いてくれてる! 可愛い!
自分の手を着ぐるみから抜いて、ヒヨコを撫でる。
フワフワした毛並みが本当に可愛い!
「オオオオイっ! ヒヨコ食べちまったよ! 腹の中で鳴いてるよ!」
ヒヨコの露店の人が、慌てて声を上げた。
あ、しまった。人から見るとそうなるんだよね。
リョク君のときも、食べちゃった疑惑をかけられたからね。
「食べてないよ」
私がカエル君の口からヒヨコをそっと出すと、ライ君が受け取ってくれた。
「え、口の中で遊ばせてやっているのか! まあ、温かい場所が好きだから、口の中もありなのか」
露店の人はちょっと戸惑っている。
混乱させて、ごめんね。
あと一話で終わります!
できれば今日中に!




