54話「計画の阻止」
「二人の計画はわかりました。
もう……どうすることもできないようですね」
私は視線を落とし、肩を落とし、唇を噛み締めた。
相手に諦めたように見せたい。
「はっ、ようよく観念したか」
そんな私を見て、エドモンドが鼻で笑う。
「ユリウス様がブライドスター王族の血を引いていないのでは、どうすることもできません」
私は顔を伏せ、首を横に振った。
「あなた達の計画は素晴らしいです。
ですが、一つだけ問題があります」
「問題だと?」
「はい、それはどうやって王妃殿下のいる離宮まで行くかです。
城の中には兵士が沢山います」
「問題ない。
俺は父上から、非常時の隠し通路を沢山教わっている。
当然、離宮の前まで続く通路も知っている」
エドモンドが片方の眉をわずかに持ち上げ、目を細めた。
なるほど、その通路を使って牢屋からこの部屋の近くまで来たわけね。
隠し通路が離宮の中ではなく、離宮の外に通じていることがわかっただけでも収穫だわ。
それなら打つ手はある。
「隠し通路を抜けても、どうやって離宮の中に入るのですか?
離宮の周りにも兵士が配置されているのですよ」
エドモンドが目を見開いた。
「そ、それは……力ずくで」
彼の口元が引き結ばれる。焦りを感じているようですね。
「兵士の数を一人や二人ではないのですよ。
隙を付くのは難しいのではありませんか?」
「……!」
エドモンドは眉根を寄せ黙り込んでしまった。
細部まで考えていなかったようですね。
このようなずさんな計画で、今までよくうまくいっていたものです。
もしかしたら、途中までは切れ者のダミアンが知恵を貸していたのかもしれません。
ダミアンが抜けた途端に、計画にがたが来るあたりがエドモンドらしいです。
「仕方ありません。
私が協力します。
ヴァルトハイムの兵士も、私のことは警戒しないでしょう。
二人は私の付き人として、私の後についてくればよいのです」
私の提案に、コレットとエドモンドは顔を見合わせた。
二人は眉根を寄せ、目を細め、観察するように私の顔を見た。
不審に思われてますね。
いきなり協力すると言っても信用されないのは当然。
「信じられないな。
兄上に惚れているお前がなぜ俺に協力するんだ?」
エドモンドが片眉を上げ、じとりと私を睨む。
「私が二人に協力する理由は一つです。
ユリウス様を愛しているからです」
「……」
「事実が公になればユリウス様の命はありません。
ですが、悪いのは不義を働いた王妃殿下とヴァルトハイム国王です。
ユリウス様は二人の子どもとして生まれてきただけ……!
ユリウス様には何の罪もありません!」
私は瞳に涙を浮かべ、二人を見上げた。
「計画の協力する見返りに、アンジェリカ様は何を要求するのですか?」
「ユリウス様は見逃してください!
罰は王妃殿下とヴァルトハイム国王が受けるべきです。
ユリウスと共に逃がしてくれれば、2度とこの国に戻らないと誓います!!」
私は瞳を潤ませ、コレットを見つめる。
「あなたの言葉を信じる根拠は?」
コレットは眉間に浅い皺をつくり、目を細めた。
まだ完全には信用されていないようです。
「どちらかがこの部屋に残り、ルシアンを人質にしてください。
ルシアンは私の親友。
彼を人質に取られては、私は何もできません」
私は、床でぐったりとしているルシアンに目を向けた。
勝手に人質にしてごめんね。ルシアンのことも絶対に助けるからね。
コレットとエドモンドは、部屋の隅で話し合いを始めました。
二人が何を話しているのかまでは聞こえません。
その間に私は状況を整理することにしました。
水晶玉も親子鑑定の魔道具を持っているのはコレット。
どちらか一つだけなら、証拠能力を失うわ。
隙をついてコレットの魔道具を奪う。
彼女を無力化できればルシアンを拘束している光の鎖を、無効化できるかもしれません。
結論が出たようで、二人がこちらに近づいてきました。
「アンジェリカ様、あなたの言葉を信じることにしました。
闇の精霊は人質として預かります。
おかしな真似をしたら闇の精霊の命はないと思ってください」
「ありがとう。
信じて貰えて嬉しいわ」
私は二人に頭を下げました。
「いま、あなたの縄を解くわ。
忠告しておくけど、おかしな真似をしたら酷いわよ」
コレットが怖い顔で私を見据え、私の体に触れようとする。
「お待ちください!
縄を解くのはコレット様ではなく、エドモンド様にしてください!」
「どういうつもり?
エドモンド様に色仕掛けしようとでもいうの?
そんなことしても無駄よ。
彼は私を愛しているのだから」
コレットが眉を釣り上げ、顔をこわばらせる。
元聖女様はそんな恐ろしい顔もできるのね。
「そんなことしません」
「だったらどうしてエドモンド様を指名したの?」
「先ほど水晶玉を探すとき、コレット様の手の動きがいやらしかったからです。
コレット様に体を触れられたくありません」
私は顔を伏せ、瞳に涙をたたえ、頬を赤らめた。
「し、失礼なこと言わないで……!
いやらしい触り方なんかしてないわ!」
コレットが顔を真っ赤にし、目尻を釣り上げる。
エドモンドを見ると、彼はほのかに頬を染めていた。コレットが私のポケットから水晶玉を取り出す時、彼の顔に締まりがなかったことを思い出す。
女の子同士のイチャイチャを見るのが好きな男性は一定数いる。エドモンドもそういう癖があるようだ。
「エドモンド様、お願いします!
あなたが縄をほどいてください!」
私は瞳に涙をため、できるだけ可愛らしくお願いした。
「まあ……そういうことなら、しかないな……」
エドモンドは口元を緩め、頬をポリポリとかいた。
彼が私を見る目は、前世で居酒屋にいたセクハラを親父と同じだった。
あっさり釣れたわね。このスケベ。
エドモンドが愛しているのはコレットだ。これは間違いない。
それはそれとして、女の子と接触できる機会があれば逃したくないのだろう。
なんせアンジェリカは、スレンダーなコレットと違って、ボン・キュッ・ボンのナイスバディですからね!
「エドモンド様!」
コレットが眉根を寄せエドモンドを睨む。
「コレット、そうカリカリするな。
アンジェリカの縄を切るだけだ。
君は闇の精霊の見張りを頼む」
「……わかりました」
コレットは渋々といった表情で了承した。
「アンジェリカ、今から君の縄を解く。
おかしな真似はしないように」
「もちろんですは、エドモンド殿下」
私は、エドモンドに向かってにっこりと微笑んだ。
エドモンドが私の前に立つ。
にやにやしながら胸元を見ているのが丸わかりだ。寒気がする。
しかし好機だ!
私は「縄が食い込んで痛〜〜い。エドモンド殿下……早く、ほどいて〜〜」といって体をくねらせた。
その際、胸を強調するのを忘れない。
胸元が開いたドレスなので、推定Dカップの胸がこぼれ落ちそうになる。
鼻の下を伸ばしたエドモンドが、前かがみになった。
計画通り! スケベは身を滅ぼしますよ殿下!!
その隙を見逃さず、私はエドモンドの鼻を目掛けて頭突きをかます。
「ぐああっっ……!」
エドモンドが鼻を押さえよろめいた。
今だ! トドメの一撃!
私は膝を使って彼の大事なところに蹴りを入れた!
「ぎゃあああっっ……!!」
エドモンドが悲鳴を上げ、大事なところを押さえて前かがみになる。
エドモンドはこれでしばらく動けない。
次はコレットだ。
聖女の力は対魔族や闇の精霊用のものだ。それは聖なる力に頼ったもの。
つまり、肉弾戦はからっきしということ!
聖女の力を除いたら、彼女は華奢で小柄で非力な少女に過ぎない。
コレットは、何が起きたかわからず目を見開いて小刻みに震えていた。
そこに思いっきりタックルを食らわす!
「きゃあっ!」
タックルを食らったコレットが悲鳴を上げて倒れる!
私は倒れた彼女の上に跨り、頭突きを食らわせた!
「いやっ……! 顔はやめて!!」
コレットは鼻を押さえ、涙を流していた。
彼女が親子鑑定の魔道具を手放したので、魔道具がコロコロと転がる。
ルシアン……!
横に目を向けると、彼を拘束していた光の鎖が消えていた。
痛みと衝撃で光の鎖を維持できなくなったようだ。
チャンスは今しかない!
「ルシアン、動ける!?」
『ああ、なんとか……。
だが、アンジェを乗せて飛ぶのは無理そうだ……』
ルシアンがよろめきながら立ち上がる。
彼だけでも動けるなら勝機はある!
「ルシアン、親子鑑定の魔道具を持って逃げて!!
あなたと魔道具がなければ、彼らの計画は破綻よ!!」
「そんなこと……させない……わ」
「うっさい! 黙れ!」
呪文を唱えようとするコレットに、私は再度頭突きを食らわせた。
「ぎゃぁっ……!」
と声を上げ、コレットは痛そうに鼻を押さえている。
これでしばらくは呪文を唱えられないはず!
だがそれもいつまで持つかわからない!
「ルシアン、急いで!!」
『……わかった!』
ルシアンは魔道具を口にくわえると、窓を破って飛び出して行った。
「ま、待て……!」
エドモンドがふらふらとした足取りで後を追おうとしたが、ここは3階。人間が飛び降りたら即死する高さだ。
「ルシアン、上手く逃げてね」
鑑定の魔道具と闇の精霊であるルシアンがいなければ、こちら側の弱みはなくなったも同然。
水晶玉があっても、エドモンドとコレットだけでは離宮には入れない。
コレットとエドモンドの計画は破綻したも同然。
余韻に浸ってはいられない。私も逃げなければ……。
何度も頭突きをしたせいで、頭がくらくらする。
頭から出血しているかもしれない。
でも、そんなことに構ってはいられない。
急いで、この部屋を出なければ……。
立ち眩みを我慢し、扉へ向かい、後ろ手にドアノブに手をかける。
もう少しで開きそう……そう思ったとき、髪を乱暴に掴まれ、頬を思い切り殴られた。
殴られた衝撃で体が床に叩きつけられ、目の前に火花が飛んだ。
「調子に乗るなよ!!
糞女!!」
エドモンドが鬼のような形相で私を睨みつけ、私の背中を踏みつけた。
「ぐっ……!」
背中に鈍い痛みが走り、思わず声が漏れる。
「やってくれましたね、アンジェリカ様。
私の美しい顔に傷をつけた代償は高く付きますよ」
コレットの顔には鼻血を拭った跡があった。彼女の眉は大きく釣り上がり、眉間には深い皺が寄り、口元は固く結ばれていた。
瞳孔は収縮し白目が強調され、私を睨む目は真冬の吹雪のように冷たい。
「こいつをどうする?
人質にとって逃げるか?」
「それもいいですね。
ですが抵抗されない為の対策が必要です」
「対策とは?」
「そうですね、アンジェリカ様の卑猥な映像を水晶で録画するのはどうでしょう?」
コレットは雪女のように冷たい表情で、口元を歪ませた。
「それはいい考えだな」
エドモンドが下卑た目で私を見据え、口角を上げた。




