37話「アンジェリカ、父親を説得する」
翌日。
カレンベルク公爵家、公爵の執務室。
「と言うわけですので、お父様、国王を断罪し、ユリウス様を王太子にするために、お力をおかしください!」
あれ?
国王を断罪し廃位に追い込んだら、次の国王はユリウス……立太子を飛ばして即位してしまうのかしら?
「はぁ……離れで何かやっていると思ったが、まさかこんなことになっているとは……」
父が頭を抑え、深く息をはいた。
朝早く父の執務室におしかけ、水晶の映像を見せた。
父は疲れた表情で執務机に頬杖をついている。
私は机を挟んで、父の対面に立っている。
今は親子としてではなく、公爵としての父と向き合っているのだからこの位置が丁度いい。
「お疲れのようならポーションをご用意いたします」
「いや、これは心痛なのでポーションでは治らない」
「不出来な娘が心労をおかけして申し訳ございません」
いきなりこんなことを言われたら、誰だって戸惑うわよね。
「まさか、まさか……娘が男とキスしてる映像を見せられるなんて……!」
お父様が落ち込んでいるのはそこか……!
間違って水晶に記録された立体映像を頭から再生してしまったのだ。
ユリウスを押し倒してるところを、2度も人様に見られることになるとは……!
「誤解です、お父様!
未遂であって、キスはしてません!」
大事なことなどで、しっかり伝えておかなければ!
「でも、キスを受け入れる気はあったよね?」
「それは……」
なぜ、父親の前でキスの話をしなくてはいけないの?!
恥ずかし過ぎて消えてしまいたい!
「アンジェリカは、ユリウス殿下を慕っているんだね?」
父の声は優しく、目は穏やかで、それでいてどこか悲しげだった。
「……はい、お慕いしております」
ユリウスにだってまだ伝えてない気持ちを、父親に告げることになるとは思いませんでした。
いつからでしょう?
ユリウスのことを男性として意識したのは?
多分、禁書室で解毒ポーションを口移しした時から、私はユリウスのことを……。
「アンジェリカの気持ちはわかった。
君から見てユリウス殿下はどんな人だい?」
「ユリウス様は、とても優しくて穏やかで聡明で思いやりが深い方です。
ですが、人を守る為には強くなれる方です。
王族としての気品と強さを持ち合わせています。
彼なら、立派な為政者になれると確信しています」
私は父の目を真っ直ぐに見据え、そう伝えた。
「ユリウス殿下を支える覚悟は固いようだね。
さてどうしたものかな」
父は何かを思案しているようだった。
「ユリウス殿下は王位継承第一位の者だ。
王妃殿下とユリウス殿下を毒殺し、エドモンド殿下を世継ぎに据えようとする国王の行いは見過ごせない」
父親の顔ではなく、公爵として厳しい表情をしていた。
「また、隣国ヴァルトハイム王国にした仕打ちも許されることではない。
下手をすれば戦争に発展した恐れもある」
そう、小説のように隣国を吸収できなかった場合、戦争になった可能性があるのです。
「現在の国王はその座に相応しくない。
聖女という聖職に付きながら、王に命ぜられるままに毒薬を製造していたコレットも同じだ」
「それでは、お父様!」
「ああ、急いで派閥の人間を集めよう。
国王を廃し、ユリウス殿下を支えるように説得する」
「お父様、ありがとうございます!
この御恩は決して忘れません!」
私はできるだけ丁寧に、深く頭を下げました。
「そうかしこまらなくてもよい。
現在の国王を廃するのは、少しだけ……私怨が混じっている」
顔を上げると、眉間に皺を寄せた父が目に入りました。
「娘が公衆の面前で婚約破棄され、その場で新しい婚約者が発表されたのだ。
アンジェリカは一カ月の謹慎処分を受けたのに、パーティを台無しにしたエドモンド殿下や側近にはなんの処分も受けていない。
学園を私物化し、そのような無法を働くエドモンド殿下とその側近を国王は放置した」
お父様は、今まで見た中で一番怖い顔をしていた。
「エドモンド殿下とアンジェリカの婚約は、元々王家が持ち込んだものだ。
だと言うのにこの仕打ち……!
いや、婚約中からエドモンド殿下の態度は酷かった!
あれは婚約半年目のお茶会のこと、殿下はアンジェリカとのお茶会を欠席し、側近と釣りに行ってしまった!
婚約から1年目のアンジェリカの誕生日には……」
お父様の愚痴が始まりました。
これが始まると長いのですよね。
よほど王家とエドモンドにストレスが溜まっていたようです。
私の為に怒ってくださっているのですから、最後まで聞くことにしましょう。
◇◇◇◇◇
翌日、早朝。
白のローブに着替えた私は、ルシアンの背中に跨りヴァルトハイム王国を目指している。
「ふぁぁぁ……、お父様のお話は長かったわ……」
まさか、昨日一日お父様に掴まるとは思っていませんでした。
お父様の会話の殆どが愚痴でした。
お陰でヴァルトハイムに行くのが、翌日になってしまった。
『いいじゃねぇか。
公爵が計画に協力してくれることになったんだから。
愚痴くらい聞いてやれよ』
「まぁ、そうなんだけどね。
謎の疲労が……」
自分のために怒っていてくれてるとはいえ、半日誰かの愚痴を聞くのは想像以上にこたえました。
『そんなに疲れてるなら、ポーションでも飲むか?』
「ありがとう、でもポーションは心労には効かないから……」
次は心労に効くポーションでも作ろうかしら?
『ところでアンジェ、ヴァルトハイム城の地図は持ってきたのか?』
「無くしたら大変だから受け取らなかったわ」
地図は王妃殿下にも協力して描いてもらいました。
その場所で生まれ育った人間にしか、わからない通路などもありますから。
その際、王妃殿下には詳しい事情は伝えませんでした。
ユリウスの頼みとはいえ、理由も聞かず、母国の王宮の地図をホイホイ描くのはいかがなものかと思います。
私が悪人だったらどうするつもりなのでしょう?
そんな地図を無くしたら、王族の暗殺やら戦争に使われかねないので、受け取りを拒否しました。
『地図が手元になくて、国王の部屋がわかるのか?』
「大丈夫!
頭の中にしっかり入ってるから」
叡智の加護を受けたこの頭脳を信じなさい。
『な〜〜んか、一気に不安になってきた……』
「ルシアンったら、私の記憶力を疑うの?」
『記憶力は疑ってない。
アンジェリカがドジやうっかりミスをして迷子にならないか心配なだけだ』
「もう、ルシアンったら酷い」
私にだって、国王への書状を届けるお使いくらいできるんだから。
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