32話「記録の水晶。禁書室での急接近」
水晶作りに取り掛かって、2週間が経過しました。
ついに映像の記録と、音声の録画機能を備えた水晶を完成させることに成功しました。
時間がなかったので、完成品は3つです。
完成したばかりの記録の水晶を持って、ルシアンと共に王宮へ向かいました。
まずは、完成したばかりの水晶をユリウスに見せます。
「凄い!
本当にこんな物を作ってしまうなんて!
アンジェリカ嬢、君は天才だよ!」
「いえ、それほどでも」
あなたの為に頑張りました……とは恥ずかしくて言えません。
ですが、称賛されて悪い気はしません。
「完成品は三つか。
設置する場所をよく考えないといけないね」
ユリウスが険しい表情で水晶を見つめます。
「そのことなんですが、私から一つ提案があります」
「アンジェリカ嬢の意見を聞かせて」
「以前、禁書室に忍び込んだ時のことを思い出したんです。
隙間なく綺麗に本がならんでいて、私達以外が本を持ち出した形跡はありませんでした」
「どういうこと?」
「王妃殿下とユリウス様を毒殺する為に、犯人は禁書室で毒薬図鑑か毒草辞典を読んでいたはず。
しかし持ち出すのは危険と判断したのでしょう。
犯人は、その場で記憶するか、レシピをメモをするだけに留めたのです」
叡智の加護を授かった私は、一度読んだ本の内容を忘れません。
しかし、他の人間はそうではないでしょう。
本を持ち出せないのなら、度々読みに行くしかありません。
「王妃殿下とユリウス様に毒を盛ったにも関わらず、一向に効果が現れず、犯人は相当焦っているはずです。
もっと強い毒を作ろうと、もう一度禁書室を訪れる可能性が高いです」
禁書室に記録の水晶を仕掛け、永続的に録画しておけば、犯人が毒の本を読んでる姿が映るはず。
「なるほど、君の考えにも一理あるね」
「禁書室がハズレだった場合は、容疑者であるエドモンドとダミアンの部屋に水晶をしかけます。
王妃殿下とユリウス様の食事に毒を盛る瞬間や、毒殺方法について相談してる場面が録画できるかもしれません」
ライナスは、単独でこれといった動きをしなさそうだから後回しでいいかな。
「君は、エドモンドとダミアンが犯人だと思っているの?」
ユリウスは目をパチクリとさせていました。
「はい、その二人の共犯だと思っています。
もしかしたら、ライナスも加担しているかもしれません」
少年と少女の美しくも儚い初恋が描かれている乙女小説の裏側で、ドロドロとした骨肉の争いが繰り広げられているなんて……現実とは無情ですね。
エドモンドは国王になり聖女と結婚するために、ダミアンとライナスは主を国王にし出世レースに勝利するために、ユリウスの毒殺を計画したのです。
乙女小説の裏側など知るものではありませんね。
ユリウスは暗い表情で俯いていました。
「すみません。
腹違いとはいえ、弟を疑われたら嫌ですよね。
私ったら配慮が足りなくて……」
外からは、ユリウスとエドモンドの関係は冷めきっているように見えました。
しかし、当人達にしかわからない兄弟の絆のようなものがあったのかもしれません。
「いや、そうじゃないんだ。
僕は弟は犯人ではないと思っている」
顔を上げたユリウスの表情は険しいものでした。
「えっ…?」
「犯人はおそらく……」
『おい、早く水晶を設置しに行こうぜ。
こうしてる間にも犯人が禁書室にやってきて、悪巧みを話しちまうかもしれねぇ。
奴らの企みを録画するチャンスは逃せないぜ!』
「そうね」
ルシアンの言うとおりだわ。
善は急げ。
早急に記録の水晶を禁書室に設置しましょう。
私はルシアンとユリウスと共に、図書館へと向かった。
◇◇◇◇◇
ルシアンに図書館の正面の入り口を開けてもらい、こっそりと侵入しました。
犯人や巡回の兵士が後から来る可能性もあるので、中に入った後、内側から鍵をかけました。
夜の図書館は静まり返っていました。
私達はなるべく音を立てないように気を付け、素早く禁書室の前まで移動した。
禁書室に入る時は、棚を移動し、扉が見えるようにしていなくてはいけません。
その時に誰かが図書館に入って来ては困ります。
もしかしたら、内側から棚を動かす方法があるのかも知りませんが、私達はその方法を知りません。
なのでルシアンに禁書室の外で待機してもらい、私達が禁書室に入ったら扉を閉め、棚を元通りにしてもらうことにしました。
ルシアンに外に残ってもらう理由は彼が耳が良いからです。
誰かが図書館に入ってきたら、本棚を3回叩いて教えて貰うことになっています。
ちなみにこちらの作業が終ったら、内側から扉を4回ノックすることになっています。
「ルシアン、あとはお願いね。
誰かが入って来たら合図してね。
どこかに隠れるから」
『おう、任せとけ』
禁書室のスペースは限られていています。
なので隠れる場所は多くありません。
一番後ろの本棚の陰に隠れていれば、多分大丈夫でしょう。
夜は長いのです。
ユリウス達に毒を盛った犯人が、今夜図書室に来たとしても鉢合わせする可能性は低いでしょう。
手早く記録の水晶を仕掛け、退却しなくては。
『アンジェ。
一つ伝え忘れてたことがある』
「なぁに、ルシアン?」
『俺様が最初に図書館に来た時、禁書室に入って行った人間は2人だった』
「2人……?
やっぱり、エドモンドとダミアンなのかしら?」
ユリウスに聞こえないように、ルシアンに顔を近づけ小声で話す。
私の中ではエドモンドが犯人説の有力です。
個人的な恨みから彼を疑っているのではありません。
ユリウスが死んで一番得をするのは、第二王子のエドモンドだからだ。
『いや、片方は女だったぞ』
「えっ……女?」
私の推理が音を立てて崩れる。
「アンジェリカ嬢、こうしている間に誰か来てはまずい。
急いで作業を済ませよう」
「はい、ユリウス様」
私は推理を中断し、禁書室へと入った。
誰が犯人かは、いずれわかることだわ。
今、考えても仕方ありません。
◇◇◇◇◇◇
「ユリウス様、もう少し右です」
「こうかい?」
「はい、そのあたりでけっこうです」
水晶をセットするために、ユリウスに肩車してもらっています。
一国の王子に肩車して貰うというのも、いかがなものかと思いますが、他に足場になるものがないのです。
私を軽々と肩車できるなんて、ユリウスは意外と力持ちなのね。
私が重いという訳ではありませんよ、念の為。
異性に肩車されるなんて、幼少の頃以来なので緊張してしまいます。
いけませんね、今は作業に集中、集中。
水晶をセットする位置は禁書室の天井の中央付近、部屋全体がよく見渡せる位置にしました。
室内は薄暗いですし、天井に水晶が埋まっているとは思わないから見つかることはないと思います。
水晶を天井にはめ込み、記録の魔法を作動させました。
これで準備は完了です。
「ユリウス、セットが完了しました。
降ろしてください」
「わかった」
肩車からおんぶに切り替え床に降りる予定です。
「気を付けて……」
「ひゃっ……!」
ユリウスに注意された側から、足を滑らせてしまった。
「アンジェリカ嬢……!」
ユリウスが支えようとしてくれたようですが……間に合わず。
気がつけば彼を床に押し倒していました。
ユリウスのまつげがしっかりと見えるくらい、距離が近いです……!
「アンジェリカ嬢、怪我してない?」
「はい、ユリウス様は大丈夫ですか?」
「平気だよ。
これでも最近鍛えてるんだ」
そう言われてみれば、以前に彼の胸にダイブしたときより、胸板が厚くなっているような気がします。
ユリウスから距離を取らなくてはいけないのに、体が動きません。
おかしいですね。
怪我をしたわけでもないのに……。
「アンジェリカ嬢……」
ユリウスが愛しげに私の名を呼び、彼の手が私の髪に触れる。
こんなことをしている場合ではないのに、心臓がキュンキュンと音を立て、彼から離れることができません。
反対の手が私の頬に触れました。
「ユリウス様……?」
ユリウスが私の頭に添えた手に力を込め、自分の方に引き寄せる。
もう少しで唇が触れ合ってしまいそう……。
「避けない君も悪いんだよ」
色っぽい声でそんな言葉を囁くのはずるいです。
ユリウスにキスされてしまう……!
私が瞳を閉じたとき……外から3回ノックされた。
『アンジェリカ、第一王子、誰かが図書館に近づいてくる足音がするぜ!
急いで隠れろ!』
ルシアンの声で、私は覚醒する。
ユリウスから距離を取り、髪と衣服を整えました。
「わかったわ。
ルシアンもどこかに隠れて」
『おう!』
図書館の方が禁書室より広い、隠れるところはたくさんあるから心配いらないでしょう。
いざとなればルシアンはぬいぐるみにだって変身できます。彼は大丈夫でしょう。
それよりも問題なのはこっちです。
禁書室は隠れるスペースが限られています。
「ユリウス様、そういうことです!
今すぐ隠れましょう」
「ああ」
ユリウスは起き上がり、髪を整えていた。
「もう少しだったのに」
彼がそう呟いたのは聞かなかったことにしました。
私だって、ユリウス様と……。
そんなことを考えている場合ではありません!
今から、王妃と第一王子の毒殺未遂の犯人がやってくるのです。
気を引き締めなくては……!




