25話「アンジェリカの舌戦! 懐かしい人との再会」
エドモンドとダミアンとライナスは聖女至上主義。
彼らの頭の中では、聖女を中心に星が回っているんでしょうね。
お生憎様! 私は違うのよ!
「エドモンド殿下、もう一度申し上げます。
手をお離しください!」
私は、エドモンドの目を見てはっきりと伝える。
だが、彼が動く気配はなかった。
「エドモンド殿下は、公爵令嬢である私に学園で聖女様のお世話係になり、反対派の誹謗中傷を受ける盾になれとおっしゃるのですか?
そして、社交界ではカレンベルク公爵家に聖女様の後ろ盾になれと?
それはあまりにも私とカレンベルク公爵家を軽んじた発言ではありませんか?」
私は聖女のお守役兼引き立て役になるつもりはないわ。
「いや俺は別に、そんなつもりは……」
エドモンドが言い淀む。
本当にそんなつもりがなくて言っているなら、エドモンドは世間知らずの無神経男ということになりますね。
「今朝、申し上げたことが全てです。
私はエドモンド殿下にも、コレット様に近づかないと誓いました。
それは相手が望んだからと変わるものではありません。
私はコレット様のご学友になるつもりも、後ろ盾になるつもりもございません」
相手の目を見てきっぱりと言い放つ。
「貴様、コレットに対して不敬だぞ!」
ダミアンが顔を引きつらせ、私を睨むんだ。
不敬だと思うなら、第二王子の婚約者で聖女のコレットを呼び捨てにするべきではないわ。
いくら学生の間は身分を問わない付き合いができると言え、限度があります。
「貴様、コレットに許してもらっておきながら、その態度はなんだ!
彼女は貴様の恩人だぞ!」
今度は、ライナスがやかましく吠えました。
「確かに私は聖女様に不敬を働き、罰をうけました。
ですから己の非礼を反省し、聖女様に謝罪をいたしました。
その結果、聖女様は慈悲の心を持って私を許してくださいました。
ですので、この件はすでに和解が成立しております。
今更、蒸し返すものではございませんわ」
「なんだと……!」
「それとも、グラン伯爵令息は、聖女様の慈悲の心を無碍になさるとおっしゃるのですか?」
「くっ……! 性悪女が減らず口を……!」
ライナスは奥歯を悔しそうに噛んでいました。
脳筋のあなたが、口で私に勝てると思わないでください。
そもそも、アンジェリカがコレットを虐めたのは、エドモンドが婚約者をそっちのけで聖女と一緒にいたからです。
カレンベルク公爵家にとって、コレットは娘の婚約破棄の原因になった女。
そんな女の後ろ盾になる貴族がどこの世界にいるかしら?
カレンベルク公爵家を舐めないでもらいたいわ。
「どうしてもカレンベルク公爵家の後ろ盾がほしいとおっしゃるのなら、王家を通じ当主である父に話してください」
父は家族には優しいが、家族に危害を加えた人間には厳しい。
聖女の後ろ盾の話なんて受けるはずがない。
「その時は、王家もそれ相応の対価を支払うことをお忘れなきよう」
それでもゴリ押しするというなら、それ相応の対価を払うことになるだろう。
エドモンド名義になっている王家の土地を全て譲渡してくれるというなら、考えてもいいかもしれません。
「お話しもすみましたので、私はこれで失礼いたします。
Sクラスへの学級変更のお話しもお断りいたします。
今後は、勝手に人様の成績を覗き見るような品のない真似はお控えください」
王族とはいえ、エドモンドは学園の生徒に過ぎない。
他人のテストの点数を本人より先に把握するのは、やりすぎです。
「殿下、いい加減手をお離しいただけますか?」
こんなところさっさと出て行きたいが、エドモンドが手を離してくれないことにはどうにもならない。
女の力では、振りほどけない。
ルシアンに助けて貰いたいけど、それも難しいですし、困りました。
「……ぜだ」
エドモンドがボソボソ呟いていますが、よく聞き取れません。
「なぜだ!
今まで君は俺の言うことは何でも聞いて、俺に協力してくれただろう!?
なんで今回は俺の言うことを聞いてくれないんだ!!」
エドモンドが激昂し、腕を握る力を強めた。
「痛い……!」
腕に激痛が走り、顔が歪む。
「エドモンド殿下、離してください!」
このままでは腕が折れてしまう!
「離してほしければ、この場で要求を呑むんだ!」
完全に脅迫じゃない! 暴力で相手を従わせるなんて最低!
『この野郎!
アンジェを傷つけるなんて許せねぇ!
俺様が相手だ!』
ルシアンが鞄の中で唸り声を上げる。
ルシアンだめ! いま元の姿に戻ったらあなたの正体がバレてしまうわ!
でも、このままだと腕が折れてしまうわ!
だけど、腕が折れたってエドモンドの要求を呑みたくない!
「さあ、さっさと了承しろ!」
「……っ!」
エドモンドに答えを迫られていたその時でした……!
「エドモンド、そこで何をしている?
女子生徒の腕を締め上げ、声を荒げるなんて穏やかじゃないね」
空き教室に凛とした声が響きました。
第二王子を呼び捨てにできる人間は限られています。
この声はもしかして……。
「……兄上!」
「ユリウス殿下……!」
エドモンドとダミアンの声が揃う。
振り返ると教室の入口に第一王子のユリウスがいた。
ユリウスに会うのは王宮に忍び込んだとき以来です。
ユリウスはあの時より顔色が良く、体調が良さそうに見えました。
あれから毒は盛られてないみたいですね。
ピンチを脱した訳ではないのに、ユリウスの体調がわかり、ホッとしている自分がいました。
「何でもありません!
アンジェリカが言う事を聞かないのでそれで……!」
「そうです!
ただの痴話喧嘩です!
ユリウス殿下のお手を煩わせることではありません!」
エドモンドとダミアンが揃って言い訳を始めた。
ライナスは、二人ほど口が回らないので黙っているようです。
ライナスは女や子供や格下の人間には強気ですが、目上の人間や王族の前では途端に弱気になる小者なのです。
「僕には男三人で女性を取り囲んで、腕力で言いなりにしようとしているように見えるけど?
それなのに君たちはなんでもないと言うのかい?」
ユリウスの言葉にエドモンドたちの顔から血の気が引いた。
3人とも顔が真っ青です。
「それとエドモンドとカレンベルク公爵令嬢の婚約はすでに破棄されている。
エドモンドの婚約者はコレット嬢だ。
痴話喧嘩にはあてはまらないよね。
そうだろカスパール公爵令息?」
「……!」
ユリウスにそう言われ、ダミアンは何も反論出来ずにいました。
それでもいつものダミアンなら、うんちくを垂れ流し、煙に巻こうとしたでしょう。
計算高い彼のことです。
王族相手に反論しない方が得策だと判断したのかもしれません。
「兄上、誤解です!
これは……」
「言い訳はいらないよ、エドモンド。
速やかにカレンベルク公爵令嬢を開放するんだ」
ルシアンに厳しい口調で叱責され、エドモンドはようやく私から手を離した。
手を離されても、まだ腕が痛みます。掴まれた跡が残っているかもしれません。
後でポーションをかけて、治療しましょう。
エドモンドに掴まれた跡が残るなんて、考えただけでゾッとしますもの。
「事情はカレンベルク公爵令嬢に尋ねる。
君たちは教室にもどれ」
「……はい」
エドモンド達も、相手が第一王子相手では反論しづらいらしい。
ダミアンが通り過ぎるとき、私と目が合った。
彼の目は「余計なことを言うなよ」そう告げていました。
いえいえ、ありのままをお話させてもらいますわ。
「それから、帰る前にカレンベルク公爵令嬢に謝罪するように。
子供じゃないんだからそれくらいできるよね?」
ダミアンの動きに気づいたのか、教室を出ようとする三人に向かってユリウスがそう告げた。
三人は肩をビクリと震わせ、その場で立ち止まりました。
三人とも嫌そうな顔で振り返り「すまなかった」と謝罪の言葉を口にしました。
王族のエドモンドは「すまない」でいいですが、ダミアンとライナスは「申し訳ございませんでした」だろうと突っ込みを入れたかったのですが、面倒なのでやめました。
「彼らは一応謝罪した。
カレンベルク公爵令嬢はどうする?
なんなら貴族会にかけようか?
僕が証人になるよ」
「貴族会議」という言葉に、エドモンド達の顔が青を通り越した紫になった。
彼らは、そこまで大事になるとは思っていなかったんでしょう。
理由はどうあれ、貴族令嬢が空き教室で男三人に脅迫されていたなんてこの上なく不名誉です。
噂にどんな尾ひれがつくかわかりません。
騒ぎを大きくしないのが賢明でしょう。
「エドモンド殿下、カスパール公爵令息、グラン伯爵令息が、今後学園でも社交界でも私に一切関わらない、話しかけないと誓ってくださるなら、謝罪を受け入れます。
もちろん此度のことは他言無用でお願いします。
当然、Sクラスへの学級変更と、聖女様のお守り役のお話もお断りいたします。
その条件を呑んでくださるのなら、貴族会議にはかけませんわ」
淑女の微笑みを称えそう伝えると、エドモンド達は顔を引きつらせていた。
「わかった」
エドモンドは渋々といった表情で了承した。
「それから、今後は私のテストを勝手に見るような真似はやめてくださいね」
「ああ、もうしない」
エドモンドは嫌そうな顔で頷いていた。
「お伝えすることは以上ですわ。
お引き取りくださいませ」
エドモンド達は教室から出ていった。
彼らは疲れたような表情をしていましたが、どうでもいいことです。
彼らの姿が見えなくなり、私はようやく息を吸うことができました。
正直、彼らと同じ空間にいることも、同じ空気を吸うことも苦痛でした。
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