19話「アンジェリカ、謹慎処分が解ける」
「髪型よし! メイクよし! 制服よし!」
自室の姿見の前に立ち、くるりと回る。
髪型はハーフアップにし、ナチュラルメイクを施し、制服を品よく着こなす。
謹慎中に薬草入りの化粧水やトリートメントを開発し、髪とお肌の手入れをしていたから、髪も肌も輝いて見える。
以前のアンジェリカは、ツインテールに黒いリボン、顔面を白塗りにし黒い口紅をつけ、学園にも黒のゴスロリ服を着て登校していた。
いくらエドモンドに似合うと言われたからといえ、そんな格好でよく登校できたものだわ。
記憶を取り戻す前のアンジェリカは鋼のメンタルを持っていたようね。
前世の記憶を取り戻した今は、黒歴史すぎて思い出すのも辛いわ。
『アンジェ、随分と気合が入ってるじゃねぇか』
ルシアンが専用ベッドの上で伸びをする。
私がヴァルトハイムとの往復をしている間に、部屋にルシアン専用のベッドとクローゼットが運びこまれていた。
クローゼットには、母がルシアンの為にオートクチュールで作らせた色とりどりの服が並んでいる。(ルシアンはほとんど着ていないけど)
金と暇を持て余してる貴婦人って怖いわ。
ついこの間ルシアン専用のソファーと棚を購入したばかりだというのに、次から次に新しい物を買い足していくのだから。
そのうち、庭にルシアン専用の家が建ちそうね。
「今日は謹慎が解けて最初の登校日でしょう?
最初のインパクトが肝心だと思って。
エドモンドに執着していたヤンデレメンヘラストーカー女はもういない。
生まれ変わったってことを見せつけようと思って」
黒のドレスから制服に着替えただけでも、だいぶイメージは違うはず。
王立学園の女子の制服は、白のブラウスに、紫のリボンと同色のスカート。
ジャケットは白地に、紫の下襟、黄色のゴージラインのエレガントなデザインだ。
スカートの下は黒のタイツと黒の靴を着用。
ちなみに男子の制服は、白のシャツ、紫のネクタイ。
紫の下襟、黄色のゴージライン、それ以外の部分は白のジャケット。
チャコールグレイのズボンと黒の靴だ。
制服のデザインは高級感があって結構気に入っています。
「学園に行ったら、まずはエドモンドとコレットに謝罪しようと思うの」
二人に今までのことを謝罪し、二度と二人に近づかないと誓うことで関係をリセットする計画です。
「あの二人+取り巻きのダミアンとライナスに会うと思うと気が重いわ……」
元婚約者のエドモンドだけでなく、側近のダミアンとライナスもアンジェリカを嫌っていた。
ダミアンとライナスが、エドモンドの側近になったのは10歳のとき。
アンジェリカがエドモンドと婚約したのは、11歳のとき。
アンジェリカと婚約した頃のエドモンドは、異性といるより同性の友達とはしゃいでいたかったのでしょう。
男の友情を築いて楽しくやっていたところに、後からアンジェリカが割り込んで来たという構図になったのもよくありませんでした。
三人がアンジェリカを疎ましく思い、邪険にした気持ちもわからなくはありません。
しかし、学園に入学する年になってもその態度を改めなかったのは、いかがなものかと思います。
アンジェリカは、仮にも第二王子の婚約者だったのです。
分別のつく年頃になってまで、ダミアンとライナスがアンジェリカに敬語すら使わなかったことも、エドモンドが二人を注意すらしなかったことも、褒められたことではありません。
もちろん、アンジェリカの行動にも問題はありました。
ですが、エドモンド達の行動も正しかったとはいえません。
まとめると、アンジェリカとあの三人は反りが合わないのです。
会えば会うほど牛乳を拭いた後放置した雑巾のように臭くなっていく……そんな関係なのです。
適切な距離を保ち、お互いの行動に無関心でいるのが最適なのです。
『なら、俺が一緒に学校に行ってやるよ!』
ルシアンが目をきらきらさせて私を見ました。
ルシアンに着いてきて貰えると心強いです。
ただ一つ懸念があります。
聖女コレットの存在です。
小説のコレットは、聖なる力で闇の精霊を封じていました。
いわばルシアンにとってコレットは天敵。
ルシアンは今のところ悪いことは何もしていません。(禁書を勝手に持ち出したことは、きちんと返却したのでノーカンということで)
むしろ現実でのルシアンは私と一緒に人助けをしています。
表彰されることはあれど、処刑されたり封印されたりすることはないはず。
それでも、絶対に安全とは言えません。
「闇の精霊」というだけで、偏見を持たれる可能性は充分にあります。
それに、コレットに弱みを握られたくはありません。
なので、コレットにルシアンを見せるわけにはいかないのです。
「ルシアンの気持ちは嬉しいし、一緒に来てくれたら心強いわ。
だけど危険も伴うの。
前にも聖女のことを話したでしょう?」
アンジェリカと聖女のクラスは違うので、そこまで接点はありませんが、廊下などですれ違う可能性は充分にあります。
王立学園のクラスわけの基準は以下の通り。
成績の良い上位貴族はSクラス、成績の悪い上位貴族はAクラス。
成績の良い下位貴族と平民はBクラス、成績の悪い下位貴族と平民はCクラス。
選民意識がバリバリに働いたクラス分けです。
エドモンド、コレット、ダミアン、ライナスは2年Sクラス。
アンジェリカは2年Aクラス。
平民のコレットがSクラスに入れたのは、聖女という肩書と、エドモンドの強い推薦があったからです。
公爵令嬢であるアンジェリカがAクラスなのは、成績が悪かったからです。
なんせルシアンに叡智の加護を貰うまで、アンジェリカは教科書もまともに読めませんでしたから。
『心配すんな。
聖女に見つからなければいいんだろう?』
「そうかもしれないけど、学園内にこんなに大きな犬がいたら目立つわ……」
介助犬としてなら連れて行けるかもしれませんが、聖女に正体を見抜かれるリスクがあります。
『変身するから平気だ』
「変身?」
ルシアンが呪文を唱えるとボン! という音と共に煙が立ち込め、視界を遮りました。
『この姿ならどうだ?』
煙が引くと、先ほどまでルシアンのいた場所には黒いぬいぐるみが落ちていました。
「嘘? ルシアンなの?」
ぬいぐるみの高さは13センチ、長さは13センチ、幅は11センチ。
持ち上げてみると、重さは81グラムぐらいでした。
『この姿なら学校に行っても問題ないだろ?
闇の力も抑えられているから、聖女に見られても平気だ』
そう言って、ぬいぐるみ姿のルシアンがウィンクしました。
可愛い! 尊い! キュン死してしまいます!!
「うん、この姿なら大丈夫だね」
我慢できずにルシアンに頬ずりしました。
『苦しい……! アンジェ、手加減してくれ……!』
「ごめんね」
私が手の力を緩めると、ルシアンはホッと息をしました。
可愛い過ぎてつい力が入りすぎてしまったわ。
相手は生き物、力加減には注意しないと。
「これならルシアンをカバンに入れて連れて行けるわ!」
ルシアンが一緒だと思うと憂鬱な気分も吹っ飛き飛びました。
彼が一緒なら、学園で一人ぼっちになっても寂しくありません。
※カットしたシーン
「もしかしてルシアンって人間に変身できるの? 生足半ズボンが眩しいショタ美少年に変身するの!?」
「いや……ショタヒーローで大爆死したから当分ヒーローをショタにしない、おねショタは封印するって天の声が……」(血の涙)
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※当初は王族もくず、聖女もくず、家族もくずという設定でした。
アンジェリカは、ルシアンと二人で隣国に逃亡。
ヒーローは人型のルシアン(18歳くらい)でした。
前作が、人外ヒーローと隣国に逃亡する話で大爆死したので、プロットの段階で変更しました。
毎回同じような話を書いてもあれなので、今回は学園&内政もの&人間ヒーローにしようと思ったわけです。
プロットの段階で何度も変更したので、最初がどんな話だったかあまり覚えてないんですが。




