17話「団長に抱きしめられる。謹慎期間の終わり」
ドラゴンはルシアンの攻撃を避けることもできず呆然と立ち尽くしている。
その巨体はあっという間に凍りついていく。
十秒もせずに、ドラゴンの体は氷に覆われていた。
「ルシアン……!」
私は岩陰から飛び出し、彼のもとにはしった。
『アンジェ〜〜!
今の戦い見てたか〜〜?
俺様、超強かっただろう!!』
ルシアンが振り返り大きく口を開けて笑う。
よかった、いつものルシアンだわ。
「うん、すっごくかっこよかったよ!」
ルシアンに抱きつき、彼の頭を撫でる。
『へへ〜〜そうだろう!
俺様、かっこいいだろう!』
ルシアンは得意げに鼻を鳴らした。
「ドラゴンは死んだの?」
氷漬けになったドラゴンを見上げる。
氷が溶けて歩きだしたりしないよね?
『ああ、完全に死んだぜ。
だからもう心配ない』
「そっか、良かった」
このドラゴンがスタンピードの原因だったのなら、これで、ヴァルトハイム王国のスタンピード問題も解決ね。
「いけない!
団長さんの治療をしないと……!」
彼は虫の息だったはず。
あまり放置すると死んでしまう。
『ちぇ〜〜!
もうちょっと褒めてほしかったのになぁ〜〜!』
ルシアンが拗ねるようにぼやいた。
ごめんね、ルシアン。
治療が終わったら、いっぱいいっぱい褒めてあげるからね。
団長に近づくと、弱いが呼吸していた。
彼の左腕は大きくえぐれ、右足はありえない方向に曲がっていた。
上半身を覆っていたはずの鎧は砕け、上半身には何も身につけていなかった。
胸の部分にはドラゴンの爪痕があった。
左腕は欠損寸前、右足は骨折してるわ。
胸の傷もかなり深いみたい。
私はショルダーバックからエリクサーを取り出し、彼の体にかけた。
もしかしたらドラゴンの毒にやられているかもしれないので、上級解毒ポーションもかけておいた。
薬をかけるとすぐに効果が現れた。
団長の胸の傷がふさがり、左腕と右足も元通りになっていく。
土気色をしていた団長の肌に血色が戻っていく。
ザウベルク山の薬草の効果は抜群ね。
それから、ちょっとは私の生成技術もあると思いたい。
エリクサーや万能薬は、レシピや材料があっても簡単に作れるものではない。
温度や煮る時間など細かい調整が必要なのだ。
ゲームだったら錬金習得度レベルで、錬金の成功率が変わるといったところだ。
叡智の加護のお陰で、私の錬金習得度レベルはマックス! 成功率99パーセント!
それよりも、団長の体調が心配だわ。
私は、団長の脈を取り呼吸を確認した。
正常に脈を刻んでいるし、呼吸も安定してるようだし、もう大丈夫ね。
団長の顔を改めてよく観察しました。
短かく切りそろえられた青い髪、気を失っていてもわかるくらい整った顔。
ユリウスも美男子だけど、団長は彼とはまた別のベクトルの美形だと思いました。
ユリウスは中性的な容姿で、女の子が憧れる王子様タイプの美少年。
団長は細マッチョの騎士系のイケメン。
どちらが好きかは個人の好みによるでしょう。
私は断然ユリウス派です。
そんな話は今はどうでもいいのですが。
「勇敢な団長さん、もう単身でドラゴンに挑むなんて無茶なことはしないでくださいね」
野営地の部下を心配させた罰?として、団長のおでこに軽くデコピンをした。
そのとき、団長さんの目蓋がぴくぴくと動いた。
今の衝撃で起きたのでしょう……?
どうしましょう? そう言えば仮面をどこにやったかしら?
今の私は素顔丸出しです、
ルシアンの戦闘を見守るのに外して、それからショルダーバックの中にしまったのでした。
顔を見られる前に、仮面を装備しなくては!
ショルダーバックの中に手を入れたとき……。
「白衣の天女……あなたが助けてくれたのか?」
目を覚ました団長に手を握られました。
そんなことより、仮面の装着が間に合いませんでした!
どうしましょう!
バッチリ顔を見られてしまいました!
団長に手を掴まれているので、逃げられません!
「おおっ……なんと!
俺ですら刃が立たなかったドラゴンを氷漬けに……!」
団長はカチコチに凍ったドラゴンを見て、驚愕しているようでした。
それをやったのは私ではなくルシアンです。
「白衣の天女……!
いや、天女なんてものではない!
あなたは勝利の女神だ……!」
団長は私の手を引っ張り、私の体を抱き寄せた。
団長の腕が私の背後に回り、しっかりと抱きしめられました。
団長の体温と心音を感じる。
ユリウスの胸にダイブしたときとは、また違った感覚がします。
上書きしたくない!
ユリウス様と体を寄せ合ったときの感覚を忘れたくありません!
「いやっ、離して……!」
『アンジェが嫌がってんだろ!
この変態!』
ルシアンが団長の頭を前足でパコーンと叩いた。
団長が白目を向いて倒れました。
『安心しろ、手加減はしたぞ』
ルシアンの前足の一撃を食らった団長ですが、辛うじて息はしていました。
ポーションをかけておけば大丈夫でしょう。
『アンジェ、ごめん。
人間を攻撃してしまった。
怒ってるか?』
ルシアンが尻尾を下げ、キューンと悲しげに鳴きました。
「ううん、怒ってないよ。
むしろ、助けてくれてありがとう」
私はルシアンを抱きしめ、彼の背中を優しく撫でました。
『そっか、アンジェに嫌われなくてよかった』
ルシアンは尻尾をピンと上げ、嬉しそうに左右に振っていました。
「こんなことでルシアンを嫌いになったりしないよ。
だってルシアンは私の『親友』でしょう?」
ルシアンに向かって微笑むと、彼は照れたように視線を逸らしました。
『ドラゴンとの戦闘中に言ったこと聞いてたのか?』
「ちゃんと聞こえたよ」
『勝手に親友なんて言って迷惑じゃなかったか?』
「そんなわけないよ。
すっごく嬉しいよ!
私、ルシアンのこと大好きだもん」
『へへ〜〜。
俺様もアンジェのことが大好きだぞ!』
ルシアンの尻尾はさっきよりも大きく揺れていました。
この日、私はこの世界で初めて親友を得ました。
◇◇◇◇◇
団長が途中で目覚めると面倒なので睡眠薬をかがせ、ルシアンの背に乗せ野営地まで送り届けることにしました。
団長が途中で目を覚まして、また抱きついてきたら、突き飛ばしてしまいそうで……。
空を飛んでる時にそんなことしたら、団長は即死確定。
殺人は犯したくありません。
団長を野営地に送り届け、ドラゴンを倒したことを告げると、兵士達から歓声が上がりました。
この騒ぎで団長が目を覚ますと面倒なので、私はルシアンの背に乗り、早々に野営地を後にしました。
「王都の流行り病も収まったし、万が一に備えて予備の薬も渡してきたし、ドラゴンを倒したからスタンピード問題も解決したし、ヴァルトハイム王国はもう大丈夫ね」
一つ問題があるとすれば、今回のことでかなり目立ってしまったことね。
変装をしても、もうヴァルトハイムの王都では薬を売れないわ。
別の移住先を探すか、別の方法でお金を稼ぐしかないわね。
王宮から拝借した禁書に、面白い魔道具の作り方が載っていたのよね。
妖精の粉とか、ペガサスの毛とか、精霊から落ちた羽とか、世界樹から取れる朝露とか、月の虹の結晶とか、普通なら手に入らない材料を使ったアイテム。
ルシアンとザウベルク山に行けば、多分全部揃えられると思う。
今までは薬作りとその材料集めを優先してきたけど、これからは魔道具作りに力を注ぐのも悪くないわね。
「今日で謹慎も終わりね。
あっという間の一ヶ月だったわ」
闇の精霊を召喚したときは、私の人生は終わったと思った。
だけど、それは始まりに過ぎなかった。
ルシアンという親友も得られたし、叡智の祝福のお陰で賢くなれた。
ポーションを作るついでに、美容液や保湿クリームやシャンプーやトリートメントも作っておいたから肌も髪もつやつやだ。
一カ月前は、白粉のせいで肌がボロボロだったものね。
髪と肌が整うとおしゃれも楽しめるわ。
それに……物語では死ぬはずのユリウスも助けられた。
また、彼に会えるかしら?
ユリウスのことを想うと、心臓がトクントクンと音を立てた。
この甘酸っぱい感覚はなんなのかしら……?
『明日からアンジェは学校なのか?』
「うん、昼間は学校でお勉強よ。
夕方には帰ってくるから公爵家でいい子にお留守番していてね」
私が学校に行ってるあいだに、母と弟がルシアンを溶けるほど甘やかして、ルシアンが私よりも彼らに懐いてしまったらどうしよう? という不安もあります。
ルシアンを置いて学校に行くのは不安ですが、貴族令嬢として学園に通わないわけにも行きません。
叡智の祝福のお陰で教師以上に賢くなってしまった今、授業から得られることは殆ど有りません。
でも、学園はコミニケーションを学んだり、派閥を作ったり、そういうことを学べる大切な場所だからです。
実は前世の私は学生時代引きこもりをしていた経験があるので、華やかな学園生活というものに憧れを抱いていたんですよね。
知識もあるし、稼ごうと思えばお金はいくらでも稼げます。
しかし、学園生活を送れるのは今だけなのです!
「嫌だ! 俺様も学校に行く!
アンジェと離れたくない!」
「ルシアン……!」
可愛いこと言ってくれるじゃない!
介助犬と偽って、ルシアンを学校に連れて行ってしまおうかしら?
読んで下さりありがとうございます。
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