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心ひとつで世界は変わるかも。
観光案内所の前までさしかかると急に観光客の往来が激しくなり、二人は間をぬうように歩いた。
ドン。
碧の肩に観光客があたる。
「きゃ!」
環がそう叫んだ瞬間、彼女の頭部が宙を舞った。
碧はじっと見ていた。
運悪く、走って来た観光客にぶつかってしまった環はその勢いで、頭部が外れてしまったのだった。
「ぎぃやややややああああ!」
観光地はパニックとなる。
☆
(あ・・・やっちゃった・・・私、このまま消えちゃうんだ)
(ま、いっか・・・)
(またアオちゃんに会えたんだもん)
(よかった)
(さよなら、アオちゃん)
(ばい、ばい・・・)
(・・・へ?)
碧はジャンプ一番、両手で環の頭をキャッチして胸におさめ抱きしめる。
頭だけ環の顔が真赤に染まる。
彼は着地と同時に素早く彼女の頭を胴体に付け、彼女を背中に背負った。
「ナイス、ザイオンっ!」
GKよろしく声援があがる。
「みなさん!これはマジックでーす。イッツショータイムね」
愛想笑いを浮かべ、碧はそのまま走り出した。
「ブラボーっ!」
背後から同じ声の歓声があがる。
「・・・アオちゃん」
「お前ん家に行くぞ」
「うん。ありがと」
喧騒を抜け、矢留の住宅街へと向かう。
それは碧にとって10数年ぶりに訪れる明石家だった。
「お邪魔します」
「碧君、来たの」
「ええ、おばさん環が・・・」
「あらあら首がとれちゃったのね。環はそこに寝かせて」
環の母、絵美は碧が来ると分かっていたとばかりに微笑みながらリビングに案内する。
「はい」
そっと環を置き、よく見ると頭が逆についていた。
「あ」
「へへ」
背中の方に顔のある環が、恥ずかしそうに苦笑いしている。
「碧君、環のこんな姿を見てびっくりしなかったの」
「4/1(エイプリルフール)に予行演習みたいのがあったから」
「あらあら」
「それに」
「それに?」
「これは家族ぐるみでグルなんじゃないかと」
「あらあら」
「うちの母とおばさん仲いいですよね。俺が気絶したあと、何事もなかったかのように、家のベッドにいたし親も接してくれた・・・そして今回の環の首ぶっ飛び事件で確信しましたよ」
「ふふふ流石。碧君ね」
「事件って言わないで」
環は頬を膨らませ抗議する。
「ふふふ、そうだな」
会話を聞きつけ、環の父と兄がやって来る。
「元気そうだな。倉野碧」
「先輩」
環の兄、和志は2つ上にあたり、高校では碧の先輩にあたる。
「ちな、お前を家に運んだのは俺な」
「・・・そうだったんですか・・・じゃ、環があの時着ていたブレザーは」
「そう、俺の、環が君の卒業式にお揃いでいたいと言ってな」
「お兄ちゃん、五月蠅いっ!」
環は顔を真っ赤にして、兄へ叫ぶ。
「碧君」
環の父、俊二がぽんと彼の肩に手を置く。
「おじさん」
「ちなみに、さっきザイオン&ブラボーと言って、その場の空気を変えたのは私だ」
俊二はそう言いながらサムアップする。
「そっか、どっかで聞いた声だと・・・」
碧もゆっくりとサムアップを返す。
そんな男3人が話をしている最中、
「よっと」
絵美は慣れた手つきで環の頭を反転させ正位置に直した。
「ふいー戻った」
倒れたままバンザイをする環、
「そんなノリ・・・」
碧は脱力する。
だが、碧は腑に落ちない。
「環は本当にゾンビなんですか」
思いきって尋ねてみた。
「碧君はどう思う?」
俊二に逆に問いを返されてしまう。
「どう思って、そうなのかなと・・・」
碧は正直に答えた。
「倉野碧、環は生きている、そうだろ。それでいいんじゃないか」
「・・・はい」
和志の言葉に、彼は不承不承なところはあれど、ゆっくりと頷き返事をした。
「アオちゃん」
喜ぶ環はゆっくりと起きあがり、ちょこんと正座をする。
そんな環を絵美はじっと見つめる。
彼女は何も言わず、静かに頷いた。
母は静かに口を開く。
「そうね。海に流され、2日後に佐賀の鹿島で発見された環は変わり果てた姿だったわ」
絵美はゆっくりと語りはじめた。
「・・・・・・」
碧は神妙な顔で聞いた。
「だけど、環の声がしたの。生きたいって・・・その時、私たちは誓ったの!家族でこの子を取り戻すって・・・いろいろやって・・・そういろいろ・・・少しずつ時間をかけてゆっくりゆっくり、でも、ちょっと急ぎ過ぎたのかもしれないわね」
「・・・お母さん」
「ま、あと2、3日もすれば馴染むと思うけどね」
急にシリアスな話をしたかと思うと、環母はてへぺろをしてその場を和ませた。
「ま、そういうことだ」
環父は笑った。
「倉野碧・・・我が弟よ。頼んだぞ」
和志は手を差し出し碧に握手を求める。
「はあ」
と握手した。
碧が明石家をでる頃には、すでに陽は傾いていた。
にわかに信じ難い話を聞かされ、狐につままれたような碧。
けど、環はそこにいる。
今はそれだけで良かった。
数日後、二人は新生活を迎える。
碧は自宅から福岡市内の大学へと通い始める。
環は外の世界に踏み出し働きはじめた。
沖端商店街の空き店舗を父が買い取り、柳川海苔の販売店をオープンさせたのだった。
碧は沖端の街を歩く、すると手を大きく振る環の姿があった。
彼はちょっぴり小走りとなり、彼女の下へ。
碧はそっと右の拳をみせる。
環は右の拳で重ねる。
「めざせ!ノリ娘だな」
「うん!ふふふ、アオちゃんも頑張って」
「おお」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
碧は片手を振って歩く。
環はその背中を見つめ右手を振り続ける。
(これから)
(ここから)
(俺たちの・・・)
(私たちの・・・)
物語が・・・。
(はじまる!)
春の嵐が去り、二人の止まっていた時がまた動きだす。
あなたはBlack?or white?それとも・・・Dream?
ちな、この日、環父の率いる草野球チーム沖端ベアーズが八女グリーンティーズに11-0のコールドスコアを喫し、リーグ戦を最下位で終えた。
どうでもいい?だね(汗)。