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科学と魔法の対決

討伐軍は、予告通りの日に姿を現した。先頭には魔術師団の旗が翻り、銀と青の制服を着た魔術師たちが威厳を漂わせていた。


「敵影確認。数は約300人。魔術師は20人ほど」


偵察から戻ったシルヴィアの報告に、作戦室に緊張が走った。


「予想より多いな」ロギルが眉をひそめた。


「しかし、大丈夫だ」陽一は冷静に言った。「我々には準備がある」


計画通り、義賊団の主力は森や山岳地帯に隠れ、敵を待ち伏せる態勢を整えた。まず攻撃するのは補給部隊。先行した討伐隊の補給路を絶ち、混乱させる戦術だ。


「全隊、位置について」


陽一の命令で、各部隊が担当場所へと散った。陽一自身は、「電撃兵器」を携えた精鋭と共に、山の中腹に潜んでいた。


討伐軍が峠を越え、予想通りの経路で進んでくる。先頭の魔術師団は周囲を警戒しながらも、容易に罠を見抜けずにいた。


「今だ!」


合図と共に、陽一たちは科学兵器を展開した。ハドソンの作った電撃トラップが起動し、魔術師団の周囲に青白い電気の壁が出現。彼らが防御魔法を展開する前に、強力な電流が全員を貫いた。


「ぐわっ!」


魔術防御を施した装備も、未知の電気エネルギーには対応できず、魔術師たちは次々と倒れていった。


同時に、山の上からは手製の爆弾が投下され、隊列の中央に混乱を引き起こした。


「なんだ、この攻撃は!?」


討伐軍の指揮官が動揺の声を上げる間にも、山の斜面からは義賊団の兵士たちが一斉に降りてきた。彼らの多くは電撃槍を持ち、接近戦でも大きな威力を発揮した。


「右側から包囲だ!」


ロギルの部隊が側面から襲撃。兵士たちが対応しようとする間に、陽一は山頂へと疾走した。そこから全体を見下ろし、討伐軍の後方を直接襲撃する計画だった。


「親分、気をつけて!」クリフが懸念の声を上げた。


「大丈夫だ」


陽一は自信に満ちた表情で答えた。彼は周囲の魔力を感じ取り、体内に取り込む技術を完全に習得していた。指先から青い電光が走り、体全体が淡く発光している。


山頂に立った陽一の姿が、討伐軍の兵士たちの目に入った。


「あれが義賊の首領か!」


「電撃の義賊だ!」


恐怖の声が上がる中、陽一は両手を掲げた。周囲の魔力を吸収しながら、彼の指先から巨大な電光が形成されていく。


「おわっ…」


討伐軍の兵士たちは恐怖で動けない。魔術師たちも、未知の魔法と思しき力の前に戸惑っていた。


「降伏するなら受け入れる!」陽一の声が峡谷に響き渡った。「命を無駄にするな!」


一瞬の沈黙の後、討伐軍の中から白旗が上がった。部隊の大半が戦意を喪失し、武器を置き始めたのだ。


「勝った…」クリフが呆然と呟いた。「本当に勝ったんだ!」


義賊団の兵士たちから歓声が上がった。彼らは予想以上に少ない犠牲で、圧倒的な勝利を収めたのだ。


捕虜となった討伐軍の指揮官は、怒りと屈辱に顔を歪めていた。


「貴様ら…王国への反逆は許されん!」


「反逆ではない」陽一は冷静に答えた。「民を守るための戦いだ。我々が敵対しているのは、腐敗した権力者たちだけだ」


「詭弁を弄するな!」


「お前たちは騙されている」陽一は指揮官を見据えた。「誰が本当に国を守ろうとしているのか。民を搾取する貴族か、それとも民の側に立つ我々か」


指揮官は言葉を失った。陽一の言葉に、捕虜となった兵士たちの中にも動揺が広がった。


「お前たちにも選択肢を与える」陽一は続けた。「帰るか、残るか。強制はしない」


今回も、予想通り約3分の1の兵士が義賊団への合流を希望した。彼らの多くは徴兵された一般市民で、陽一たちの理念に共感を覚えたのだ。


「親分、すごいです!」クリフは興奮した様子で駆け寄ってきた。「魔術師団を一瞬で倒すなんて!」


「科学の力だよ」陽一は笑顔で答えた。「彼らの知らない力だからこそ、有効だったんだ」


捕虜の処理と負傷者の手当てが終わった後、陽一は幹部たちと共に今後の方針を話し合った。


「今回の勝利で、王国も我々を簡単には倒せないと悟るだろう」ロギルが言った。


「しかし、次は更に大規模な攻撃が来るかもしれない」シルヴィアが懸念を示した。


陽一はスマホを取り出し、ミミックに相談した。


『次に予想される対応としては、より大規模な討伐隊の派遣、または交渉の模索が考えられます。しかし、王国内部の政治状況によって、対応は変わるでしょう』


「そうだな」陽一は頷いた。「レイモンドからの情報を待つ必要がある」


その夜、陽一は城の最上階から星空を見上げていた。今日の戦いで、電気能力の使い方がさらに上達したことを実感していた。周囲の魔力を取り込み、より効率的に電気を生成・制御できるようになったのだ。


「この力、どこまで行けるだろうか…」


彼が呟いた時、突然背後から声がした。


「素晴らしい力ですね」


振り返ると、それはレイモンドだった。彼は密かに城に忍び込んでいたようだ。


「今日の勝利の報せは、既に王都に届いています。ヴァルデマールたちは激怒していますよ」


彼は微笑んだ。


「しかし国王は、密かに満足の意を示されました」


「国王が?」


「ええ。『義賊が単なる盗賊団ではなく、組織的な反腐敗勢力であることが証明された』と」


陽一は興味深く聞いた。


「で、次の一手は?」


「国王は、非公式な交渉の場を設けたいと考えています」レイモンドは声を低くした。「表向きは討伐を続けながらも、裏では和平の可能性を探る。そして最終的に、あなた方を『王の義賊』として認め、腐敗した貴族たちの粛清に協力してほしいと」


「王の義賊…」


陽一は考え込んだ。それは義賊団の正当性を認めることになる。しかし同時に、王国の権力構造に組み込まれる危険性も孕んでいた。


「民衆への搾取が止むなら、協力する価値はある」


「もう一つ」レイモンドは真剣な表情になった。「ヴァルデマールは、あなたを暗殺するための刺客を放ったという情報もあります。くれぐれも警戒してください」


「ありがとう」


陽一はレイモンドの警告を胸に刻んだ。交渉の可能性が見えてきた今、暗殺の危険は現実味を帯びていた。


数日後、その警告は的中することになる。


「親分、危険です!」


夜間の巡回中、クリフの警告で陽一は間一髪で刺客の攻撃をかわした。闇に紛れた暗殺者は、毒を塗った短剣で襲いかかってきたのだ。


「くっ!」


陽一は反射的に電撃を放ち、暗殺者を気絶させた。近衛兵が駆けつけ、暗殺者を拘束。尋問の結果、彼はヴァルデマール派の貴族から雇われた殺し屋だと判明した。


「このまま交渉を待つのは危険すぎる」ロギルが憂慮を示した。「先手を打つべきではないか」


「しかし、攻勢に出れば交渉の機会を失う」シルヴィアが反論した。


陽一は沈黙していた。彼の頭の中には、別の計画が形成されつつあった。


「我々には、もう一つの選択肢がある」


全員が彼に注目した。


「直接、国王に会いに行く」


「なんですって?」幹部たちが驚きの声を上げた。


「王都に潜入し、国王と直接対話する。それが最も早道だ」


「あまりに危険です!」クリフが心配そうに言った。


「だが、それが正しい判断かもしれない」


陽一はスマホを取り出し、ミミックに相談した。


『リスクは非常に高いですが、成功すれば大きな転換点となります。直接対話により、誤解を解き、真意を伝えることができるでしょう』


「皆、聞いてくれ」陽一は決意を固めた。「俺はレイモンドの協力を得て、王都に潜入する。少人数で行動し、国王との密会を実現させる」


「親分が行くなら、俺も共に」ロギルが即座に言った。


「私も」シルヴィアも続いた。


「いや、お前たちにはここを守ってもらいたい」陽一は首を振った。「万が一のことがあれば、組織を率いてくれ」


議論の末、陽一はクリフと、変装の名手であるミーナの二人だけを伴って王都潜入に向かうことになった。レイモンドが内部協力者となり、国王との密会を調整する計画だ。


旅立ちの前日、陽一は自室でスマホを確認していた。バッテリーはなぜか尽きないものの、スマホ本体の調子は時折不安定になることがあった。


「ミミック、この計画は成功すると思うか?」


『明確な答えはできません。しかし、あなたの持つ知識と能力、そして現地の協力者を考えれば、可能性はあると言えます』


陽一は頷いた。彼は窓の外を見つめながら、明日からの冒険に思いを馳せた。王都潜入。国王との対面。そして、陽一は窓の外を見つめながら、明日からの冒険に思いを馳せた。王都潜入。国王との対面。そして、この国の未来を左右する重大な決断。


「どこまで来てしまったんだろうな…」


かつて異世界に迷い込んだだけの普通のサラリーマンだった彼は今、一国の権力闘争の中心となっていた。

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