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拡大する勢力

サラマンダー城を奪取してから三ヶ月が経った。黒風義賊団は急速に力をつけていた。


「今日の訓練はここまでだ!明日また続けよう」


陽一の声に、数十人の若者たちが敬礼した。彼らは近隣の村から志願してきた新入りだ。義賊団の名声を聞きつけ、正義のために戦いたいという若者たちが次々と門を叩いてきたのだ。


「みんなの上達は速いな」ロギルが陽一の横に立って言った。「特にあの女、ミーナは才能がある」


ロギルが指さした先には、短剣を器用に扱う少女がいた。


「彼女は以前、サラマンダー卿に家族を奪われたんだ」陽一は答えた。「復讐と正義のために戦っている」


「復讐心は両刃の剣だがな」


「だからこそ、正しい方向に導かないと」


訓練場を離れ、陽一は城内の新設された「作戦室」へと向かった。そこでは、クリフが大きな地図の前で何かを検討していた。


「クリフ、状況は?」


「親分!」クリフは元気よく応えた。少年は今や義賊団の重要な情報担当となっていた。「東の谷間にあるカラス城で、また搾取が始まったという情報が入りました。ソーン男爵が農民から収穫物の八割を奪っているそうです」


「八割?生きていけないじゃないか」


「はい。すでに餓死者も出ているとか...」


陽一は拳を握りしめた。「調査を続けろ。正確な情報が必要だ」


「はい!」


城の最上階にある自室に戻った陽一は、窓から広がる景色を眺めた。サラマンダー卿を倒してから、彼らの支配地域は急速に拡大していた。今や三つの村と小さな町が、非公式ながら「黒風義賊団の保護下」にあった。


「ミミック、今の状況をどう思う?」


スマホを取り出すと、AIが即座に応答した。


『組織的には順調に成長しています。しかし、急速な拡大によるリスクも考慮すべきです』


「リスク?」


『大きく分けて三つあります。一つは内部分裂のリスク。急速な拡大と価値観の変化に、古参メンバーが付いていけない可能性があります。二つ目は敵の増加。既に王国から「反逆者」として見られ始めています。三つ目は理念の希薄化。規模が大きくなるほど、本来の「義賊」の精神が薄れる恐れがあります』


陽一は頷いた。確かにその通りだった。特に気になるのは二つ目の警告だ。最近、トレンティア王国の中央から「調査官」と名乗る者たちが、この地域に来ていると報告があった。


「対策を考えないと」


その時、ドアがノックされた。


「入れ」


入ってきたのは、以前の少女の斥候シルヴィアだった。彼女は今や陽一の最も信頼する部下の一人となっていた。


「親分、レインフォード卿からの緊急連絡です」


「どうした?」


「王国から討伐軍が派遣されたそうです。二百名の正規軍と、騎士団の一部が、我々の討伐を命じられたとか」


陽一はスマホを握りしめた。ついに来たか。


「いつ到着する?」


「三日後と見られています」


「分かった。すぐに幹部会議を開こう」


一時間後、陽一、ロギル、ガジェル、シルヴィア、クリフ、そして新たに加わった鍛冶師のハドソンが集まった。


「状況は厳しい」陽一は率直に言った。「我々には正規軍と戦うだけの兵力はない」


「逃げますか?」クリフが尋ねた。


「いや」陽一はスマホを取り出した。「ミミック、この状況での最適戦略は?」


『正面からの戦いは避け、ゲリラ戦を展開するのが賢明です。また、民衆の支持を利用した情報戦も効果的でしょう』


「なるほど」陽一は考え込んだ。「まず、村人たちを安全な場所に避難させる。そして…」


陽一は部下たちに詳細な計画を説明した。正規軍を小さなグループに分断し、各地でゲリラ攻撃を仕掛ける。また、民衆に紛れ込んだスパイを使って敵の情報を収集し、内部から混乱させる。


「そして最後に、俺の電気能力を使って騎士団を無力化する」


「危険すぎる」ロギルが反対した。「親分が前線に出るなんて」


「俺しかできない役割だ」陽一は断固として言った。「騎士団は魔術防御が施された鎧を着ている。普通の攻撃では通用しない」


議論の末、作戦は承認された。全員が持ち場に散り、準備を始めた。


その夜、陽一は一人で電気能力の訓練を続けていた。より強力に、より正確に。彼の指先から放たれる雷撃は、今や小さな木を真っ二つに裂くほどの威力を持っていた。


「まだ足りない…」


さらに集中を深め、エネルギーを溜めようとしたその時、突然スマホが点滅した。


『警告:エネルギー消費が過剰です。身体への負担が危険レベルに達しています』


陽一はハッとした。確かに体がだるく、視界もわずかに霞んでいた。


「無理しすぎたか…」


彼は深呼吸し、練習を中止した。この異世界での電気能力は、彼の身体エネルギーを消費しているようだ。使いすぎれば、命の危険すらあるかもしれない。


「ミミック、もっと効率的に能力を使う方法はないか?」


『理論上は、外部エネルギーを取り込む方法が考えられます。この世界の「魔力」を利用できれば、身体への負担を軽減できるかもしれません』


「魔力か…」


陽一は考え込んだ。魔力の扱いについては、まだほとんど理解できていなかった。この世界では、魔力を感知し操る能力は生まれつきのものとされている。彼の電気能力は異世界人ならではの特殊なものだ。


「もっと学ばないと」


翌朝、陽一はレインフォード卿の屋敷を訪れた。若き貴族は、魔術に関する書物を数多く所有していたからだ。


「魔力を取り込む方法ですか?」卿は驚いた顔をした。「通常、そのような技術は高位魔術師にしか使えません。しかし…」


彼は書棚から古ぼけた本を取り出した。


「この『魔力変換論』には、外部魔力を取り込む基礎理論が書かれています。あなたのような特殊な能力者なら、応用できるかもしれません」


陽一は一日中、本を読み込んだ。内容は複雑で難解だったが、ミミックの助けを借りて少しずつ理解していった。


「要するに、周囲の魔力を感知し、自分のエネルギーに変換する瞑想法があるというわけか」


『その通りです。この世界の魔術師たちは、そうして魔力を増幅しているようです』


陽一はその夜から、魔力感知の瞑想を始めた。最初は何も感じなかったが、三時間ほど続けたところで、ふわりと不思議な感覚が訪れた。


「これが…魔力?」


青白い光が意識の中で揺らめいた。それは水のように流れ、風のように漂い、そして電気のように震えていた。陽一は恐る恐る意識を伸ばし、その光に触れてみた。


瞬間、体中を電流が駆け抜けた。痛みはなく、むしろ活力が湧き上がるような感覚。指先が青く光り、部屋の小さな金属類が引き寄せられた。


「成功だ…」


翌日、義賊団の斥候から報告が入った。討伐軍は予定より早く動いており、明日には到着するという。


「計画を前倒しだ」陽一は冷静に命令を下した。「今夜、全ての準備を整えろ」


夜になり、陽一は一人、城の屋上に立っていた。夜空には無数の星が瞬き、どこか現世とは違う配置に見える。遠くには、討伐軍のたいまつの灯りが見えていた。


「明日、すべてが決まる」


彼はスマホを握りしめた。不思議と、今は恐怖よりも高揚感の方が強かった。


「ミミック、明日の作戦、最終確認をしてくれ」


『了解しました。作戦内容は以下の通りです…』


陽一は静かにAIの声に耳を傾けながら、明日の戦いに向けて心を落ち着かせていった。彼の手のひらに小さな雷が宿り、青白く夜を照らしていた。

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