義賊の誕生
「じっとしてろ、リズ。これは痛くないから」
陽一は手のひらに小さな電気を集め、けがをした少女の膝に当てた。微弱な電流が傷口を這うように動き、不思議と出血が止まっていく。
「すごい…痛みが消えた」少女は目を丸くした。
彼らはウィロー村の外れにある納屋に身を隠していた。サラマンダー卿の居城を偵察した帰り道、陽一たちは村はずれで兵士に追われる少女を見つけたのだ。
「あんたたちは…盗賊?」少女は恐る恐る聞いた。
「義賊だ」陽一は笑顔で答えた。「弱い者は助け、悪い奴から奪う。それが俺たちのやり方だ」
「お前さんが新しい親分なのか」
納屋の扉が開き、一人の老人が入ってきた。村の長老らしく、白髪の髭を蓄えている。
「娘を助けてくれて礼を言う。だが、ここにいては危険だ。サラマンダー卿の兵が村中を探している」
「なぜ追われていたんだ?」ロギルが少女に尋ねた。
「納めるべき税を払えなかったから…」少女は俯いた。「母が病気で、薬代に使ってしまって…」
老人は深いため息をついた。
「サラマンダー卿が来てから、税率は三倍になった。払えない者は奴隷にされるか、投獄される」
陽一は拳を握りしめた。彼はポケットからスマホを取り出し、こっそりミミックに相談した。
『この状況を変えるには、サラマンダー卿の権力基盤を揺るがす必要があります』
「老人、サラマンダー卿の弱点は?」
「弱点?そりゃあ、奴が命より大事にしている金だろう。城の地下に巨大な金庫があるという噂だ」
陽一は仲間たちと顔を見合わせた。
「計画を立て直す必要がありそうだな」
その夜、陽一たちは村長の密かな協力を得て、サラマンダー卿の城に忍び込む計画を練った。村人からの情報によると、翌日は徴税の締め切り日で、各村から集められた税金が金庫に運び込まれるという。
「城の裏手に使われていない排水路があるそうだ」クリフが地図を広げながら説明した。「そこから入れば、地下の貯蔵庫に近づける」
「だが、内部には見張りがいるだろう」ロギルが指摘した。
陽一はしばらく考え込んだ後、スマホを取り出した。
「ミミック、電気で人を気絶させる方法はある?」
『理論上は可能です。しかし、電流の強さの調整が極めて重要です。強すぎると致命的になり、弱すぎると効果がありません』
陽一は夜遅くまで、電気の強さを調整する練習をした。最初は強すぎて木の枝を焦がしてしまったが、徐々に繊細な制御ができるようになってきた。
「これくらいなら、人を傷つけず気絶させられるかもしれない」
翌朝、作戦の時が来た。陽一、ロギル、クリフ、そして足の速い女性盗賊のシルヴィアの四人が潜入チームとなった。残りのメンバーは村の外で待機し、必要なら援護に入る手はずだ。
「みんな、準備はいいか?」
全員が頷き、村の老人に案内されて排水路の入り口へと向かった。