ある日、君は
ある日から君は私を無視するようになった。
「おはよう」
隣で目を覚ました君に私が声をかけても君は何も答えない。
「朝ごはん、何を食べたい?」
私がそう尋ねても君は無視して一人で食パンを齧る。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
仕事に向かう君に私が声をかけてもやっぱり無視だ。
「どうしてさ」
一人、私はそう呟く。
理由も分からないままに。
ある日、君はぽつりと言った。
「行かなくちゃ」
「どこへ?」
私がそう尋ねても君はやっぱり無視をする。
「ねぇ、どこに行くのさ」
私がいくら問いかけても無視をして外に出てしまう。
「待ってよ」
そう言って私は君の背を追いかける。
段々と移り変わる景色に不安を深めながら。
辿り着いた場所で君は手を合わせて故人を偲ぶ。
私の目の前にあったのは他ならない私自身の墓だった。
「そっか」
ぽつりと呟いて私はようやく思い出す。
つい数ヵ月前に自分が病で死んだことを。
目を閉じて、肩を震わせながら私を偲ぶ君を見てようやく決心する。
「天国に居なきゃ流石にバツが悪いね」
未練がましく現世にいるのはおしまいにしよう。
そう思って最後に触れられない腕で君の身体を一度抱いてゆっくりと自分が薄れるままに任せた。
その刹那。
私達の目が合う。
「なんだ、やっぱり見えてるんじゃん」
けたけた笑う私に対して涙にまみれた君。
「またね」
その言葉がどちらのものか分からないまま、私はこの世界から完全に消え去った。
私は君がやって来るまでの数十年。
実に退屈な日々を過ごすことになった。