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ルート反異世界

 俺はこの世界で、神すら殴り倒してやる!





(ゼロ)、出ろ!」



 鋭い声が響く。俺はゆっくりと牢の中から立ち上がった。ここでは、魔法が使えないことは罪だ。魔法はこの世界で生きていくために欠かせない力であり、それを持たない者は無能として扱われる。


 異世界転生――それは俺にとって、もう一度人生をやり直すチャンスだった。ブラック企業で働き、過労死した俺は、第二の人生をこの地で歩むつもりだったのに……。


 だが、女神は俺を拒絶した。


「まじで許せん。待ってろよ、復讐してやるからな」


 心の中で沸き上がる怒りを抑えきれず、俺は拳を握りしめた。あの女神の美しい顔を思い出すたび、怒りが込み上げてくる。


「ぶっ叩いてやるよ、そのツラを」


 俺が過労死した後、迎えられたのは天国だという場所だった。そこで出会ったのが女神だ。美人という言葉では足りないほどの絶世の美女。顔立ちもスタイルも完璧で、あまりの美しさに息を呑んだ。さらりとした長い髪からは、ほのかな香りが漂ってくる。


 だが、あの女神は俺をここに送り込みやがった――魔法が使えない者が罪人として扱われる、この地獄のような異世界に。


 俺は力を求め、ここで生き延びるために身体を鍛えることを決意した。魔法が使えなくても、俺にはこの杖がある。そして、この怒りがある。


 ここは、異世界ではなく「反異世界(アンダーワールド)」――異世界に行けなかった者たちの墓場。俺、風間零はこの女神に無能扱いされ、異世界ではなくこの歪んだ世界に追放された。何の能力もないと、ただ切り捨てられた。


「覚えていろよ、女神。必ず復讐(リベンジ)してやる……」


 何のスキルも能力もない俺には、力をつけるしかない。魔法が使えなくても、俺にはこの杖がある。怒りが俺を動かす燃料だ。女神に見放された俺は、絶対にこの世界で生き延び、力をつけ、異世界に戻って復讐する。


 あの女神はマニキュアを塗りながら、俺に興味も持たず、あくびを一つ。


「まあ、零とかいう名でこの世界に落としておくわ。適当に生きて。次の勇者候補に期待してるから、もうあなたには用はないわよ」




「さっさと歩け、零。お前みたいな無能にはぴったりの名前だ。女神様もなかなかいいセンスしてるよな。せいぜいその名前、大事にしとけよ」


 豚の顔をした巨漢の怪物が、手錠を掛けられた俺を嘲笑うように蹴り飛ばしてきた。俺の中で何かが切れた。


「何だと!?」


 怒りにまかせて、俺は無我夢中で拳を振り上げ、怪物に向かって全力で殴りかかった。拳が豚面に当たり、鈍い音が響く。


「グアッ!」


 だが、今の俺にできる精一杯の力では、この程度が限界だった。怪物は一瞬たじろいだものの、すぐにニヤリと口を歪めた。


「ははは、その程度か?それで反抗するつもりか?今度は俺の番だな、楽しませてくれよ」


 次の瞬間、俺は怪物の巨体に圧倒され、殴る蹴るの袋だたきにあった。地面に叩きつけられ、視界が揺れる。だが、どれだけ痛みが襲ってきても、俺は諦めなかった。


「これくらいで……終わるかよ……!」


 身体中が悲鳴を上げていたが、心の中にはあの女神への怒りが燃え続けている。この「反異世界」で力をつけ、必ずや俺はあの女神に復讐する。そのためなら、どんな苦痛にも耐えてみせる。今は倒れても、這い上がってみせるんだ。


「少年、起きろよ、しっかりしろ。ここで寝たら死ぬぞ」


 意識がぼんやりと戻り、俺は頬に感じる痛みに顔をしかめながら目を開けた。目の前には、厳つい顔をした中年の男が立っていた。どうやら俺の頬を叩いて起こしたのはこの男のようだ。


「はっ……ここは……?」


 周囲を見回すと、石の壁に囲まれた薄暗い牢屋の中だった。夢ではない。あの豚顔の怪物に袋だたきにされ、意識を失っていたところまでは覚えている。だが、今俺は牢屋の中に閉じ込められ、知らないおっさんと一緒にいる。


「お前、あの怪物にやられたのか?随分と無茶なことをしたもんだな。だが、こうして生きてるってことは、運が良かったんだろう」


 俺は混乱しながらも、ふと頭の中に響いたあの奇妙な声を思い出した。確か、スキルを会得したというような内容だった。


「……スキル、俺にそんなものが?」


「スキル?へえ、そいつは面白いな。お前、何か特別な力を持ってるのか?」


 おっさんが興味深げに俺を見つめる。だが、俺はまだそのスキルが何なのか、どうやって使うのかすら分からない。ただ一つ分かっているのは、あの女神に対する怒りが、俺の中で強大な力へと変わりつつあるということだ。


「俺には……復讐する相手がいる。ここで終わるわけにはいかないんだ」


 おっさんはニヤリと笑い、肩をすくめた。


「復讐ね……いいじゃねぇか。ここは『反異世界』、何が起こってもおかしくない場所だ。お前みたいなやつがどんな力を手に入れるのか、楽しみにしてるぜ」


 俺は立ち上がり、拳を握りしめた。スキル――「復讐」、「身体強化」、「物理攻撃向上」。これらの力を、必ずや俺の復讐の道具にしてみせる。女神よ、俺は絶対にお前を許さない。この牢屋の外で、俺は必ず這い上がってみせる。


「おっさん、名前は?」


「俺か?ヴィルだ。お前は?」


「零……風間零(かざまれい)。よろしくな、ヴィル」


 ヴィルは笑いながら俺の横に並び、腕立て伏せの体勢を取った。彼は白魔導士と呼ばれる杖を使った支援魔法の使い手であり、この世界では珍しい存在のようだ。女神に反乱を起こした者として、この牢に囚われているというが、彼の過去には何か深い事情がありそうだった。だが、彼が話したがらない様子だったので、俺も深入りはしないことにした。


「見張りが来るのは、食事を運んでくる時と、寝る前の一回だけだ。それ以外はほとんど来ない。だから、その間は暇だし、腕立て伏せで勝負でもしてみるか?」


「……まあ、いいけど」


 俺は気乗りしないまま腕立て伏せの体勢を取ったが、何か試されているような気がして、つい本気を出してしまう。


「よし、一回いくぞ。せーの――」


 俺が腕を曲げて地面に身体を沈め、再び押し上げると、頭の中で不思議な声が響いた。


「スキル:物理攻撃+1になりました」


「……なんだ、今の声は?」


 一瞬、動揺したが、俺は何とか平静を保とうとした。どうやらこの腕立て伏せをしたことで、スキルが強化されたようだ。こんなことがあり得るのか? だが、今の俺にはこれを疑っている暇はない。もしこのスキルが本当に強化されるのなら、何度でも試してみる価値がある。


「どうした? まだ一回目だぞ、零」


 ヴァルがニヤリと笑って俺を見た。その笑顔は、ただの暇つぶしとは思えない何かを秘めている気がした。俺も負けていられない。この「反異世界」で生き抜くためには、どんな力でも使ってやる。


「……やるよ、ヴィル」


「二回」



「スキル:物理攻撃+2になりました」


 俺は額に汗を浮かべながら、ゆっくりと腕を伸ばして身体を持ち上げた。たった二回で感じたこの奇妙な感覚――間違いなく、俺の力は確実に増している。それはあの女神への復讐のため、必要な力だ。


「スキル:物理攻撃+5になりました」


 まただ。腕立て伏せをするたびにスキルが強化されていく。少しずつだが、確かに俺は強くなっている。ただし、限界が見えてきた。


「……くっ、俺の腕立て伏せ、10回が限界か……」


 腕が震え、筋肉が悲鳴を上げる。だが、ここで終わらせるわけにはいかない。俺にはやらなければならないことがある。復讐を果たすためには、まだまだ足りない。


「スキル:物理攻撃+10になりました」

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