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第9話 北陽の影

 オアシスの入口。この辺り、といっても少年の朧気な記憶ではこの街以外の記憶は無いのだが、では珍しい精工な装飾が施された門をくぐり抜け、少年はねぐらに戻る。


「ねえ、あなた」


 少年は早く疲れた心を癒やすために水場に向かう。


「ねえ、あなた」


 うつむいたままの少年は歩みを止めない。


「ねえったら!」

「?」


 肩を叩かれた少年が後ろを振り向くと、そこには同じくフードを被った少年と同じぐらいの女の子がいた。


「あなた、何処から…って、え?」


 気づくと少年は女の子のフードを上げ、顔を覗き込んでいた。


「ち、ちょっと、何するのよ!」


 少年の手は払いのけられた。


「あ…ごめんなさい」


 少年は素直に謝る。


「そ、それで?あなたは何処から来たの?」


 少し考えた少年は答える。


「南から」

「南?」


 少女は怪訝な表情を作る。


「それで?何処?」


 少年も怪訝な表情を作る。

 そしてまた考え込み、答える。


「わからない」

「わからない?」


「どうして?」

「…それも、わからない」


 少年は息を吸い込み、心拍数を整える。


「僕には、思い出がないんだ」


 少年の言葉に、少女は首をかしげる。


「思い出?」

「そう。思い出。」

「ふーん、変なの」


 そう言って少女は急に回転して真後ろの方向に笑う。

 少年はそんな少女に少しムッとしつつ、でもまあ悪くないと思うのである。


「その、それで、君はどうして僕に話しかけて来たの?」

「ああ、それはね…っと」


 ふと少女が指を指すと、そこにはエプロンを着た大柄な女が右手に持ったお玉を振っていた。


「なにぼさっとしてんのさ!もう日が暮れちまうよ!」


 女のあまり魅力的には聞こえない声に通行人が顔をしかめる。

 あまり目立ちたくない少年にとっては迷惑極まりない。


「ちょっと!このコがびっくりしてるじゃないの!」


 フードの少女は負けず劣らずの大声で返した。


 少年は、声が出なかった。



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