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第5話 淡い林檎
砂の世界から一時抜け出し、楽園。またの名をオアシス。
近づいてくる景色に、少年は絶望よりも安堵の気持ちの方が大きい。
少年は最後の力を振り絞り、水場まで歩く。
日の光で土を干した煉瓦で作られた建物が何軒か立ち並び、周りには似つかわしくない緑の生い茂る中心地。
そこに水場はある。
眼の前に水場がくる。少年は湧き出す水分に我慢ができない。
すぐに飛びつき、口いっぱいに水分を含む。
美味しい、とても冷たくて喉越しのよい水分は疲れを癒やし、火照った少年の熱を離散させる。
時間を忘れて水を飲むと、既に辺りには闇の帳が落ちていた。
久しぶりの停滞する時間に酔いしれた後、少年は水場の片隅で眠りについた。
来るかもわからない明日に苛まれながら。