第85話 雨が止むとき
未結のスナイパーライフルから飛び出した銃弾は、一直線にワイバーンへと向かって行く。ワイバーンは体の右側を下に斜めの姿勢をとり、広げた翼と地面が垂直になるくらいになっていた。横に飛ぶワイバーンの広げた左翼に銃弾は命中した。蝙蝠のような膜の張った翼を銃弾は簡単に貫いた。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
翼を撃ちぬかれたワイバーンは、バランスを崩し声をあげた。空を飛ぶ浮力を失ったワイバーンは、回転しながら地面へと巨体を地面へと落としていく。
「落としました!!!」
スナイパーライフルの銃口を上に向けた未結が小さくうなずいた。直後にワイバーンが地面に落下したのか大きな音が周囲に響いた。
左手の指先をこめかみの辺りへと持って行った未結、彼女の目が青く強烈に光だす。
「場所は落ちたのは隣の公園です」
「了解」
返事をした翔は公園がある南東の方角を指さした。
「みんな! 公園へ向かいます。ついてください」
五人はコロッセオ豊洲の隣にある公園へと向かう。コロッセオ豊洲の隣はほぼ真四角な公園となっていた。公演は四角く土手が作られ中央に四角い芝生の広場がある、土手の上にはかつて賑わいを思わせる、壊れたりさび付いた子供用の遊具やベンチが並んでいる。
ワイバーンは広場のほぼ中央に落下していた。魔の巣により日差しが遮られ薄暗く霧雨のような雨が降るなか、ワイバーンは尻尾を前にだしうずくまっていた。土手に立った並んで立って五人は、うずくまり丸くなったワイバーンを見つめている。
「レイ君! 上を見て魔の巣が……」
「あぁ。よかった。もうこれであいつが最後ってことが確定だ」
急にワイバーンが居る場所に朝日が差し込んだ。視線を上に向けたレイたち、魔の巣が消えていき朝の陽ざしが差し込んで来ていた。朝日に照らされるワイバーン、雨に濡れた緑の鱗が日差しで輝きをはなち、幻想的な光景となっていた。
翔は前に出てレイたちに振り返り口を開く。
「魔の巣は消えました。おそらくこれがこの遠征最後の戦いになるでしょう…… 皆さん。いいですね」
四人は手をあげ翔に答えた。彼は小さくうなずくと前を向きワイバーンへ視線を向けた。
「レイさん。甘菜さん。黒田さん。僕の四人でワイバーンを押さえます。最後は如月さんです。いいですね」
「はっはい」
未結が返事をする。彼女は視線を動かし、周囲の地形を確認すると公園の外へ向け走り出した。翔は未結が動くと矢を出して弓につがえる。
「それでは行きますよ」
落ち着いた口調で皆に声をかけ、翔は弦を引き絞り矢をワイバーンへと放った。太く大きい矢は空気を切り裂き、ピューっという音を周囲に響かせる。この音がワイバーンとの開戦の合図いわゆる鏑矢の役目を持つ。
矢はワイバーンへの額へと迫っていく。音に気付いたワイバーンは素早く体を起こすと口を大きく開けた。高速で飛ぶ矢にワイバーンが噛みついた。バキッという音がして矢はワイバーンにかみ砕かれる。矢を吐き出したワイバーンはレイたちを睨みつけた。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
レイたちに向かって吠えるワイバーンだった。この咆哮はレイたちに対する威嚇と、自身を奮いたたせるためのもののようだ。
大きな音に顔をしかめたレイは、鳴き声を止むと太刀を肩にかつぎ隣にいた甘菜を見た。
「行くぞ! 姉ちゃん!」
「うん!」
前を向いたレイは飛び上がり、甘菜は彼に続く。レイと甘菜の二人は土手の下の地面すれすれで、スラスターを全開にして一気に前に飛びだすと左右に別れてワイバーンへと迫っていく。
「黒田さん、翔さん! 援護を頼む!」
「任せてください。黒田さん。行きますよ」
「えぇ。行きますか」
二丁の拳銃を肩の後ろへ持って行きしまった黒田は飛び上がり、レイたちに続いて土手の下へと飛び下りた。翔は矢をつがえ再びワイバーンへ向け弓を構える。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
ワイバーンは頭をさげ体勢を低くし、翼を持つ前足と後ろ足の四つ足になり走り出した。正面に向かって走るワイバーンは左右からレイと甘菜に向かって行かず、真正面で矢をつがえる翔へと向かって行く。よだれを垂らし顔を紅潮させながら前後の足を大きくあげ走るワイバーンだった。
「姉ちゃん! 俺が遅らせる。食い止めてくれ」
「はーい!」
右からワイバーンへ向かっていた甘菜は、急旋回するとワイバーンの前へ向かって行く。左からワイバーンへと向かっていたレイの姿が消える。彼は瞬間移動でワイバーンの左後ろ足の横へと移動した。到着と同時にレイの前にワイバーンの左足が上から下りてくる。彼は両手に持った太刀を構えるとワイバーンの左後ろ脚に向かって太刀を振り下ろした。右肩の上から斜めに振り下ろされた、レイの太刀はワイバーンの膝から下の辺りを切り裂いていく。数滴の血が飛び散り傷がばっくりと開く。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
レイに左の後ろ足を切りつけられたワイバーンが苦痛に顔を歪めた。バランスと崩してワイバーンは前のめりに倒れそうになった。
「姉ちゃん!」
「フン!!!!!!!」
甘菜がワイバーンの前へと飛んで来た。着地した甘菜はタワーシールドを床につける、体が青く光り輝きタワーシールドを中心にプラズマシールドの光の壁が展開された。
プラズマシールドにワイバーンが体当たりをした。ワイバーンが足を切られた際に口を大きく叫んだまま体当たりをしたようになり、牙がプラズマシールドに突き刺さって蜘蛛の巣のようなヒビが入っていく。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
ワイバーンは体当たりをした勢いのままに、プラズマシールドに噛みついた。ヒビが入ったプラズマシールドはワイバーンの咬合力に耐え切れずに食い破られた。砕け散っていくプラズマシールド、ワイバーンは手足を書くように動かし強引に前に出る。プラズマシールドはワイバーンに砕かれた。さらに前に出るワイバーン、とっさに甘菜はタワーシールドを前に出して身を低くする。
「キャッ!!!!」
前に出たワーバーンに、甘菜はタワーシールドごと引き飛ばされてしまった。ワイバーンは甘菜に構わず弓を構える翔へと向かって行く。
「姉ちゃん!!!」
レイは持っていた太刀から手をはなし、姿を消した彼は吹き飛ばされて甘菜の元へと姿が現し、両手で彼女を受け止める。
「大丈夫か?」
「ごっごめん。止められなかった」
ワイバーンはさらに前に出る。ワイバーンの前に素手の黒田が立つ。頭を下げ口をあけ、激しく地面をかくようにしてワイバーンが彼へと向かって走って来る。
「シンシア。強エーテル反応弾に換装」
「ハイ」
両手をあげた黒田、背後の自動弾薬装填兼装備換装装置の扉が開き、二丁の拳銃が出てきた。二丁の拳銃を両手で持った黒田はジッと迫りくるワイバーンを見つめていた。
「ワイバーンの弱点は顔と…… 脆弱な腹!!!」
目をカッと開いた黒田は右へと動きながら、両手に持った拳銃の照準をワイバーンの顔を腹へ向けていく。左手に持った拳銃を横に向け上に向け、右手に持った拳銃を前へ向け腕を伸ばす。彼は同時に引き金を引いた。銃声が轟く、黒田の二丁の拳銃から二発の銃弾が発射された。右へ動かながら黒田は銃を撃ち、彼が持つ拳銃の銃口から白い煙が斜め左へと流れていく。黒田のはなった銃弾はワイバーンの左の頬と左胸の下付近に命中した。しかし、ワイバーンは止まることなく前に進む。
「おっと!」
止まらないワイバーンをかわすため、飛び上がった黒田だった。目の前に翼の生えた大きなワイバーンの左前足が通り過ぎていった。黒田はすぐに着地する、ワイバーンは通り過ぎ一直線に翔へと向かって行く。にやりと笑った黒田の体が青く光りだす。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
ワイバーンの悲鳴が轟いた。まるで雷にでもうたれかたのように、ワイバーンの体が激しく白く瞬くのだった。




