第84話 包んで投げ返せ
焼けただれたトラックから負傷者や遺体を運び出すパワードスーツ、その横をかなり速いスピードでトラックが通り抜けていく。遠征隊は撤退するために行動をし続けている。ワイバーンは翼を広げ空を旋回し続け、雨を降らす魔の巣がその雄大な姿を時折隠している。
兵員輸送車から未結が降りた。続いて甘菜が降りた。甘菜は車両を降りて右手を膝に置く。
「ふぅ……」
少し疲れた様子で息を吐く甘菜、ワイバーンの火の玉を特殊能力を使い、一人で防いでいた彼女の体力はかなり消耗しているようだ。レイはそっと彼女の横へ来て声をかける。
「姉ちゃん。大丈夫?」
「えっ!? うん。もう平気だよ!」
体を起こし拳を握って上にあげ元気だよアピールする甘菜だった。レイは彼女をジッと見ながら少し言いにくそうに言葉を続ける。
「あのさ…… 姉ちゃん……」
「嫌だよ!」
「えっ!?」
レイが言おうとした言葉を瞬時に理解して、言葉を遮る甘菜。すっと彼の肩に手をかけ大きく首を横に振った。
「私はどこにも行かない。レイ君の隣にいるの!!!」
「でも、姉ちゃんはさっきので消耗しているし」
「みんなも一緒でしょ。私だって特務第十小隊だもん。一人で先になんか行かない!!! レイ君だって私が先に行けって言ったら一人で行くの? 行かないでしょ!!」
「姉ちゃん……」
必死に訴えかける甘菜だった。レイは自分のことを出され、何も言えなくなってしまった。甘菜は彼の様子を見て自分の胸に手を置く。
「それに私は死なないよ。いざとなったらレイ君やみんなを連れて逃げるもん! だから大丈夫だよ」
「もう…… わかったよ。勝手にしろ」
あきれて首を横に振るレイに甘菜はにんまりと微笑みうなずく。
「うん。勝手にする。レイ君の近くでずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとレイ君を守るからね。お姉ちゃんは強いんだから!」
右手を腰につけ胸を張り得意げな、甘菜にレイは呆れ適当にあしらう。
「はいはい。せいぜい頑張ってくれよ」
「何よ。そこは感動するところでしょ!!!!」
「なんだよ。うるせえなぁ」
頬をプクっと膨らませて顔をレイに近づける甘菜だった。面倒そうに甘菜に返事をするレイに甘菜の頬はますます膨れる。通信は声のみでヘルメットと顔面装甲で表情はわからないが、レイには甘菜の表情が手に取るように分かりさらに面倒になったと首を横に振ってあきれるのだった。
「二人とも! 話は終わりです。来ますよ!」
「「えっ!?」」
旋回を続けていたワイバーンが、勢いをつけるかのように最後に大きく円を描き、遠征隊に体を向けた。前進するワイバーンの姿がコロッセオ豊洲に陣取る魔の巣の紫の雲へと入って見えなくなる。
魔の巣を抜けて来たワイバーン、翼を広げた大きな巨体が紫の雲を引きずっている、ワイバーンは口を開いて大きく咆哮をあげるのだった。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
咆哮と同時にワイバーンは火球を吐き出した。吐き出された角度から、レイたちの上を通り百メートル以上先に行った隊列を向けてはなっているのが分かる。回転しながら高速で飛んでいく火の玉を見上げたレイは太刀を構えた。彼は瞬間移動をして火の玉を叩き斬るつもりのようだ。レイの隣に居た甘菜が火の玉を指さした。
「レイ君! 私を火の玉の前に連れて行って!」
「えっ!?」
「いいから飛んで!」
必死にレイに訴える甘菜に飛んでいく火の玉の赤い光が目の前を過ぎていく。レイは左手を甘菜の肩に伸ばした彼の手が彼女の肩に触れた瞬間に二人の体は火の玉の前へと移動していた。火の玉の光に甘菜の頬は真っ赤に染まる、彼女は火の玉を見てにっこりと微笑み、タワーシールドを前に出し持つ右手に力を込め振り向く。
「レイ君は私の後ろで支えてね」
「姉ちゃん…… どうするつもり?」
「大丈夫…… 今度こそ止めて…… ううん! 突き返してやる!!!!」
「はぁ!? クソ!」
前を向く甘菜だった。突き返してやるという甘菜の言葉に驚いた彼だったが、甘菜の指示通りに太刀を地面に向けて投げると、背後から彼女の両肩に手を持って行ってスラスターを全開にして支える。
「硬いとダメ…… ゴムのようにしなやかに…… そして強く!!」
つぶやく甘菜、タワーシールドが青く強烈に光りだした。同時に火の玉が二人へと迫って来た。
「レイさん! 甘菜さん!」
「二人は何をしてるんだ!」
黒田と未結が声をあげた。彼女が声をあげるのは妥当だった、甘菜が展開するはずだったはずのプラズマシールドは見えず、無抵抗で甘菜とレイの二人の姿が火の玉に飲み込まれていったのだから。直後……
「なっなにをしたんですか…… 甘菜くんは……」
「すっすごい……」
黒田と未結が今度は驚きの声をあげた。高速で遠征隊へと向かっていた火球を迎えうったのは、青く光る甘菜のタワーシールドだった。しかし、ただのぶつかったのはタワーシールドではなく、甘菜の特殊能力により前面がプラズマシールドで十センチほどの盛り上がっていた。火球がタワーシールドの盛り上がった、プラズマシールドにぶつかると、地面にバウンドするように跳ね返りワイバーンへと返って行ったのだ。
レイも驚き固まっていた、彼の頬を照らしたいて火球が遠くなり、赤かった頬が元に戻っていき赤い光は彼の瞳に小さく映るだけになっていた。
「ギャオオオオオオオオオオオオ!!!!」
戻って来た火の玉に何とか反応して飛んでかわすワイバーン、逃げる際にかすった尻尾の先端がわずかにこげて声をあげるのだった。
ワイバーンの声に反応してレイは我に返り声をあげる。
「はっ弾き返した……」
「どう! 名付けてプラズマカウンターシールドだよ」
「すげえ! こんなのいつ訓練したんだよ?」
振り向いて得意げに答える甘菜に、嬉しそうにレイが尋ねるのだった。尋ねられた甘菜は首をかしげる。
「訓練? してないよ。さっき火の玉を受け止めてた時に耐えるんじゃなくて弾けたらいいなって思っただけ!」
「思っただけ…… ははっ! それでもすげえや。さすが姉ちゃん!」
「ふふふ! でしょう! お姉ちゃんはすごいんだから! つまり何でも受け止めるお姉ちゃんの包容力よ」
「えっ!? 包容力って…… 受け止めてなくて弾き返してるじゃねえか」
「うるさいな!」
「ははっ。まあいいや。でかしたぜ姉ちゃん!」
レイは甘菜の背中を軽く叩いて褒めるのだった。甘菜は胸を張り鼻高々といった様子だった。二人のやり取りを通信で聞いていた黒田と未結は呆れた顔をするのだった。
「訓練もなくシールドの特性を変えて…… 実戦でそれで結果をだすなんて……」
「なるほど…… 特殊能力を臨機応変に可変できるのか。二人がアークデーモンを倒した理由がよくわかります」
黒田と未結は空で喜ぶを二人を見上げていた。二人の横で翔はジッと黙って同じように二人を見上げている。彼は顔を未結へと向け口を開く。
「あの二人はいつもあんななのですか?」
「はっはい。そうですね。戦闘中にどんどんと強くなっていきますね」
「そうか。強いレインデビルズと戦いその中で成長する…… 高い反応強度が成せるゆえか。いや…… プロトタイプのマジックフレーム2だからか……」
翔は二人を見ながらぶつぶつとつぶやきいていた。未結はスナイパーライフルを構え、照準を飛んで逃げるワイバーンへと迎えた。ワイバーンは迂回しながらコロッセオ豊洲から、少し離れたところにある公園の上空に差し掛かっていた。
「そうです。二人でいつも先に行ってしまうから自分も追いつかないと一人で残ることになるんです…… そんなの嫌です!」
未結はスナイパーライフルを構え、重射撃モードへと移行した。その姿を見た黒田が笑った。
「ふふ。つまり特務は常に成長しなければならないと置いて行かれるわけですか…… まぁ当然ですよね。こんな任務ばっかりですからね」
横で黒田が拳銃を抜き、未結の横に立った。
「指揮官としてさらなる飛躍ができるように僕もがんばりますか」
黒田と未結の少し後ろで弓に矢をつがえる翔だった。未結の目が青く光りだし、彼女の目が空を飛ぶワイバーンをはっきりととらえた。
「そこです!」
けたたましい銃声が鳴り響く。未結のスナイパーライフルから銃弾が発射された。反動でわずかにスナイパーライフルが上下に動き銃口に取り付けられたマズルブレーキから煙が勢いよく吹き出した。




