第83話 遠征最後の敵
大きく開いたワイバーンの口の前に集約した赤い光が、はじけるようにして強烈な光を放った。まばゆい光に視界が真っ白にレイたちの目がくらみ。直後に激しい咆哮が再びコロッセオ豊洲に響く。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
コロッセオ豊洲の屋上のへりにたち、二本足で大きく翼を広げたワイバーンは鳴き声をあげると同時に火の玉を吐き出した。直径二メートルほどの火球がワイバーンの口からは吐き出され、うねりをあげながら遠征軍へと迫って来る。夜が明けた直後の薄暗い廃墟と遠征隊は、ワイバーンが吐き出した火球が放つ強烈な赤い光に照らされる。
「みんな! 動かないで!!!!」
叫んだ甘菜は兵員輸送車の床に、タワーシールドを叩きつけるようにしておいた。彼女は左手でタワーシールドの持ち手を強く握り意識を集中する。甘菜の体が青白く光りだし、彼女のタワーシールドを中心にプラズマシールドが展開されていく。上からせりあがっている青い光の壁のプラズマシールドは、横が三十メートう高さが十メートルほどの長方形の形で遠征軍とワイバーンの間を遮るように展開されたのだった。
飛んで来た火の玉は、プラズマシールドの上部にぶつかった。
「キャッ!」
火球の光にてらされた甘菜は思わず目がくらみ声をあげた。同時に激しく体が振動する。プラズマシールドに激突し火の玉は爆発したのだ。爆風によって周囲の木々が激しく揺れコロッセオ豊洲や周囲の建物のガラスが割れ床に散らばる。ワイバーンの視界から爆発の黒煙によって遠征隊は見えなくなっていた。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」
黒煙が晴れるとワイバーンの目にプラズマシールドに守られた無傷の遠征隊が見える。ワイバーンは目を鋭く光らせ怒ったように吠える。意地になっているのか、甘菜が出した青く光る壁に向かって何度も火の玉を放つのだった。
連続して飛んでくる火の玉を甘菜の壁は受け止めるが、火の玉の威力は高くプラズマシールドに火の玉に叩きつけられる度に甘菜は集中し能力を使い消耗していく。
「くぅ!」
苦しみ悶える声をあげる甘菜だった。レイがすぐに甘菜の横に来て彼女に声をかける。
「姉ちゃん!? 大丈夫?」
「もうダメ…… これ以上攻撃されたら…… 私のシールド…… こっ壊れちゃうよ…… 受けるだけじゃダメみだね……」
「わかった」
レイはうなずくと左右に視線を動かし黒田と未結に向かって口を開く。
「先輩。黒田さん。姉ちゃんが限界だ。プラズマシールドを解除させるから解除したらあいつを叩く!」
「わっわかりました」
「了解です」
黒田が両手に拳銃を持ち、未結はスナイパーライフルを構えた。レイは床に置いてあった、太刀を持ち上げ鞘からだして甘菜の横へと戻って来る。
「姉ちゃん。俺の合図でプラズマシールドを解除しろ」
「わっわかった」
視線を斜め上に向け太刀を構えるレイ、視界には青い光の壁に火球が。うちつけられ爆発する光景が見ている。火の玉が青い壁にぶつかり爆発した、ワイバーンは次の火の玉を吐き出そうと口を開き、遠征隊を見下ろしていた。
「シールド解除!!!」
「はい」
タワーシールドを床から持ち上げる甘菜、同時に青い光の壁がカーテンが上から下りて来るように消えていく。直後に遠征隊に向けワイバーンが火の玉を吐き出した。
レイと黒田が飛び上がった。レイは飛んですぐに姿を消した発射されたばかりで、激しい炎を纏い回転する火の玉の前へと彼は姿を現した。
「そこです!」
未結がスナイパーライフルの引き金を引いた。発射された銃弾はレイの脇を抜け、火球に命中し貫く。火球は爆発し黒煙が上がった。爆発した火球は散り散りになり、火の雨となって遠征隊へと降りそそいでいった。一部の兵員輸送車やトラックの荷台の屋根に穴が開く。
前にでて黒煙が立ち込め火の雨が注ぐ中をかきわけ抜けるレイ、目の前に大きく口をあけたワイバーンが見えてきた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
吠えたワイバーンが口を開け、レイに噛みつこうと長い首を前にだすする。開かれた無数に並ぶ鋭い牙がならび、鋭くとがった先端にはワイバーンのよだれが糸を引く。真っ赤な口内の奥は闇が広がっていた。迫る口にニヤリと笑ったレイ、ワイバーンが勢いよく口を閉じると同時に彼の姿は消えた。
ガキーンという音が響く、ワイバーンの口が閉じられて牙と牙がぶつかり合った。
ワイバーンの背後へと移動していたレイ、太刀を構えた彼の目に緑の鱗に覆われたごつごつとした背中が映っていた。太刀を構えた彼は太刀をワイバーンの背中へと振り下ろした。
「もらった!」
レイの太刀はワイバーンの背中を鋭く切り裂いていく。太刀を振りぬいたレイ、ワイバーンの背中には斜めに一筋の二メートルほどの長さの傷が出来て紫色の血が滲み数滴の血が飛び散る。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
体をのけぞらせて鳴き声をあげるワイバーンだった。そのまま前に頭を下げたワイバーンだったが、すぐに体勢を立て直すと長い尻尾を振ってレイに叩きつけようとする。
「はっ!!!」
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
二つの光がレイの横から飛んできてレイへ前まで来ていた尻尾へぶつかり肉をえぐっていく。黒田が二丁の拳銃でワイバーンの尾を撃ちぬいたのだ。尻尾が震えて止まった。レイは前に出て腕を引いた太刀の切っ先をワイバーンの背中に向けた。
「クソ!」
翼を激しくはためかしたワイバーン、翼が激しく前後することによって作り出された風に、レイの体が吹き飛ばされそうになり必死に耐える。そのまま素早く前に出たワイバーンは一気に飛び上がって逃げて行った。
「チッ」
逃げたワイバーンは翼を広げて雄大に上空を旋回している。レイは舌打ちをして悔しそうに、悠々と空を飛ぶワイバーンを見つめていた。
「「ウワアアアアアアアア!!!!」」
「消火を! 早く!」
「医療班! 来てくれ!!!!」
砕かれた一部の火の玉が、遠征隊へと降り注いぎ、被害が出て悲鳴がレイたちにも通信で入ってくる。レイの眼下に見える遠征隊の一部のトラックや兵員輸送車が燃えていた。
「ごっごめんなさい…… 私がちゃんと防がないから……」
「しょうがない。あのままじゃシールドを破壊されて直撃だったんだ。被害を減らすためにはしょうがなかったんだ」
うつむき申し訳なさそうに話す、甘菜にレイは声をかけるのだった。そこへ指揮官の翔から通信が入ってきた。
「第二師団は怪我人の救助をしてください! 動ける者は豊洲市場へ移動してください! 振り返ってはダメです! 大神くん…… 君が先導して皆を豊洲市場まで連れて行ってください」
「いや! ぼっ僕はここで戦います」
先に行けと指示する翔に大神が拒否する。翔はいつになく激しい口調で大神に再度指示をだす。
「ダメです! この遠征の目的はワイバーンの討伐ではありません。山神博士がデータを持ち帰ることです。だから僕がワイバーンを食い止めます。君たちは先に行ってください」
「ですが……」
なおも躊躇する大神、畳みかけるようにして翔が指示をだす。
「行きなさい! これは指揮官としての命令ですよ」
「うっ…… わっわかりました」
納得した大神は前を向き口を開く。二人の会話を聞いていた杏は少しだけ安堵の表情を浮かべる。
「大神だ。動ける者は私に続け。豊洲市場に移動するぞ」
隊列が動きだした翔は笑顔でうなずいた。
「第二師団は救助が終わり次第すぐに大神くんたちを追ってください」
そう言うと翔は雄大にとぶ空を飛ぶ、ワイバーンに視線を向け最後の指示をだす。
「特務第十小隊の皆さん…… 君達はわかってますね?」
「あぁ。一緒に残ってワイバーンをぶん殴ればいいんだろ?」
「ふふふ。少し違いますね。ワイバーンを殴って大神くんたちに合流するんです」
翔の指示にレイは小さくうなずくのだった。指示を出し終えた翔は、甘菜と未結が乗る兵員輸送車まで飛んで来た。そこへ黒田とレイが少し遅れて集まる。豊洲データセンターでの最後の戦いが今始まるのだった。




