第80話 地下へと逃げ込め!
「遠征軍司令官の相原です。総員地下二階駐車場まで即時撤退せよ!」
今にも雨が降りそう空。魔の巣発生の連絡を受けた翔から、地下への退避を指示が飛ぶ。渦巻く紫の雲をジッと魔の巣を見つめているレイだった。何も言わずに黙っている彼に甘菜が口を開いた。
「レイ君! 撤退だよ。急ごう」
「あっ!?」
甘菜の声に我に返ったレイは、離れたところにいる黒田と未結へ向かって叫ぶ。
「先輩! 黒田さん! 上空に魔の巣だ。地下へ下がるぞ!」
「えっ!? りょっ了解です」
「わかりました。如月くん。君が先に行きなさい」
黒田は未結に先に退避する指示した。彼女は指示に従い先に屋上の出入り口へと向かう。レイは屋上から上って来るヴェロキラプトルをアサルトライフルで牽制する。
「姉ちゃんは先輩と一緒に行くんだ。俺は黒田さんと後から行く」
「えっ…… わかった。気を付けてね」
「あぁ。そっちもな」
先にいけと言われ躊躇した甘菜だったが、すぐにうなずいて返事をする。彼女は親類としてレイを置いていくことに迷いが生じたが、軍人として迫りくるレインデビルに迷っている時間はないことをわかっていた。
甘菜はレイに背中を向け未結の元へ向かう、彼女は一回だけ名残惜しそうに振り返りする前を向く。すぐに未結と合流した甘菜は屋上の出入り口へと一緒に走っていく。二人を送り出したレイと黒田は数秒間だけ銃撃を続けた。
「レイ君。僕たちも引きますよ」
「あぁ。いつでもいいぜ」
レイと黒田は同時に屋上のへりから背を向け走り出した。ネオラプトルたちは銃撃が止むと一斉に壁を駆け上がって来る。黒田は拳銃を持ったまま走り、レイはアサルトライフルを腰にしまい右手に持った太刀を肩に担いでいる。
黒田を先に行かせレイが追いかける。屋上へと上がったネオラプトルが首を左右に振りえ獲物を探す。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ネオラプトルが走る二人に迫って来る。必死の走る二人の目に甘菜たちが、入った出入り口の金属扉が閉まる光景が見える。
「クソ! こうなったら」
視界の隅に後方の視界を表示されるディスプレイを見ながら、レイは走る速度をあげ黒田の肩に手を伸ばした。黒田の肩にレイの手が触れた瞬間に二人の姿は消えた。次の瞬間には二人は屋上の出入り口の扉の中へと移動していた。出入り口の扉を入ってすぐにある階段には甘菜と未結が下りかけており、飛び込んできて二人を見つめている。黒田とレイのすぐ後ろにある閉じかけいた扉が今にも閉まろうとしていた。
「はあはあ…… 危なかったぜ」
「レイくん! 後ろ!」
「えっ!?」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
ネオラプトルが閉じかけていた扉の隙間から顔を出した。レイに噛みつこうと口を大きく開ける。
「クソが!!」
「ぶぎえ!?」
とっさに体を前にだして肩で扉を押しレイは強引に閉めようして、ネオラプトルは首を扉に挟まれた。レイは必死にドアを押してしめネオラプトルは苦しそうに鳴き声をあげた。
「この!」
黒田は拳銃を前にだしネオラプトルを撃った。銃弾はネオラプトルの左目の下付近に額に直撃しネオラプトルの意識が飛んだのか瞼が閉じかけた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「うわ!?」
すぐに目を開いたネオラプトルは黒田の左手に持った銃の銃口に噛みついた。銃口はひしゃげて黒田はとっさに拳銃から手を離した。
「黒田さん! しゃがんで!!!!」
右腕を引いた姿勢のレイが黒田の後ろから声をかける。彼はレイの指示の従い膝を曲げしゃがんだ。レイは持っていた太刀をネオラプトルの頭に向けて突き出した。鈍い音がして太刀がネオラプトルの額に突き刺さっていく。
「プギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」
苦しそうに声をあげるネオラプトル。ネオラプトルの後頭部から太刀の剣先が突き出すと、鳴き声が止み瞳から光が消えていく。レイは太刀が頭を突き抜けてもさらに押しこんでいく。彼はネオラプトルを太刀ごと外へと押し出すと同時に持っていた太刀から手をはなした。ネオラプトルは後ろに倒れ込むようにして扉から離れた。
すぐに太刀から手をはなしたレイ、太刀をはなした右手で扉を押して扉を閉めた。バーンという大きな音が周囲に響いた。黒田を踏まないように右腕を伸ばしたまま横にかわして扉の前に移動し、後ろを向いて自分の背中で扉を押さえつけた。
「ふぅ…… 黒田さん大丈夫?」
「はい。無事です。でも、拳銃がやられちゃいましたね。まぁ予備がありますから問題はないのですが」
左手を軽く振り、ネオラプトルが吐き出し、床に転がる拳銃を見つめレイに答える黒田だった。
「俺も太刀を無くしちまった。まぁこっちもエーテルリンクタグですぐに呼び出せるし予備もあるからな。とにかく地下へ急ごう」
「そうですね。長居はできないようですし」
「えっ!? うわ!? クソ!」
ネオラプトルが体当たりしぶつかりどんどんと音を立てる扉。慌ててレイは必死に扉を押さえ、黒田は扉に防衛陣地構築の際につけたかんぬきを挟む。扉を施錠した二人は、甘菜と未結を追いかけて地下へと向かう。
階段を駆け下りて地下二階の駐車場へとレイたちはやってきた。階段から駐車場へと通じる扉をレイが開く。
「レイ君…… よかった」
扉をあけたレイに先についていた甘菜が声をかけて来る。彼女の横には未結と翔が一緒に立って居た。彼はすぐに前に出てレイ達が入って来た扉を指さした。
「よし。特務第十小隊が最後です。この扉も溶接してください。少し時間がかせげるはずです」
レイたちが下りて来た階段へつながる扉を、溶接するように指示を出す翔だった。すぐに彼の部下が扉の溶接作業に向かった。指示をだした翔はレイの前へとやって来た。
「全員無事ですか…… さすがです。地上部隊は被害が多くて……」
「そうか……」
地上に展開されていたのは五十名ほどいたが、ヴェロキラプトルとの戦闘で死傷者は四十名に上っていた。
「じゃあ僕と一緒に来てください」
翔はレイ達を連れていく。地下二階と地下三階をつなぐスロープの前へとやってきた。
コロッセオ豊洲の地下駐車場は、長方形であり南側に地上から地下二階につながる出入り用のスロープがあり、地下三階へ向かうには地下二階を抜け北側のスロープを使う。
地下三階へつながるスロープは廃車でバリケードが築かれ、さらに奥に土のうがつまれ二十名の兵士達が銃を構えていた。
「このスロープを最終防衛ラインにします。ネオラプトルの軍団は残り百頭ほどですので特に問題はないはずです……」
バリケードを手でさしてレイたちに説明する翔だった。レイは天井を指さして彼にたずねる。
「上に現れたのは魔の巣から時間をおかずに新しいレインデビルズが出てくるぞ。そっちはどうする?」
「何が出てくるのがわからない現状では何もできません。対処は出て来てからになるでしょう……」
「ならもう少し粘って何が出て来るか見ときゃよかったな」
「もう…… 撤退って言われたじゃん!」
「わかってるよ。冗談だよ……」
レイの質問に冷静な口調で答える翔だった。悔しそうにするレイを甘菜が叱りつけるのだった。魔の巣から出て来るレインデビルズは事前に予測できず、何が出てくるのは直接出て来たレインデビルズを確認するしかないのだ。翔は甘菜とレイを見て笑って地下三階へ続くスロープへ目を向けた。
「後は山神博士の作業次第ですかね」
「あっそうか。杏ちゃんの作業はまだ終わらないのか?」
「扉はもう開いて今はデータ移行中で後一時間ほどかかるみたいです」
「一時間か……」
静かにつぶやくレイだった。これからコロッセオ豊洲で長く苦しい一時間が始まるのだった。




