第79話 また一難
屋上へと戻って来た未結は、スナイパーライフルに魔の巣消滅弾を装填する。魔の巣がある方向を向き、屋上の端にたった彼女はスナイパーライフルを両手に持ち立つ。
青く光る彼女の目には十キロほど、先に浮かぶ紫色の不気味な雨雲が見えている。
「重射撃モードへ移行してください」
「リョウカイシマシタ」
未結の装備するパワードスーツの両足のふくらはぎから、反動軽減用の脚が出て来た。両手でスナイパーライフルを構えた未結は引き金に指をかけ小さく息を吐きゆっくりと止めた。彼女の少し後ろで、レイ、黒田、甘菜の三人が見守っている。
「そこです!!!」
引き金を引くと同時に叫ぶ未結。銃声が轟き未結が持つ、スナイパーライフルが反動でわずかに上下し銃口に取り付けてあるマズルブレーキから白煙が立ち上っていく。
射撃後は未結は微動だにせず青く光る眼でまっすぐ前を見つめている。
「着弾……」
つぶやいた未結、銃弾は一直線に飛んでいき魔の巣へと命中した。銃がはなつ衝撃で雲がまき散らされていき魔の巣の中央まで貫いていった。魔の巣の中央で銃弾が破裂し同時にあつい紫の雲が雨となって地上へ落ちていき霧散していく。
「魔の巣の消滅を確認。地上に雨とレインデビルズが降っています」
未結の視界に消えた魔の巣と、落ちていく雨とレインデビルズが見える。
「先輩レインデビルズはなに?」
レイの質問に未結は視界の焦点をレインデビルズへと向け答える。
「ネオラプトルですね。数は…… 百から二百程度です。ネオラプトルは地面に落ちて混乱しているようです」
現れたネオレプトルは、真っ青な羽毛に覆われた体長三メートル、体高二メートルの顔は吻が長く突き出しており目が青い獣脚類に似た魔物だ。
後ろ脚の中央に長い鉤爪を持ち、それを武器にしたり足場に使い壁を上る。人間や獣を食料としており、集団で連携して狩りを行う。非常に知能が高くまた、夜目がきき探知能力に優れ、身体能力も高い優れたハンターでもある。
「わかった。翔さんに報告しておくよ」
「いえ。大丈夫です。見たのは私ですから報告は私がします。皆さんは迎撃の準備をお願いします」
「了解。予備の弾薬を近くに運んでおく」
自ら翔へと報告する未結だった。レイと甘菜は重機関銃の確認と予備の弾薬を準備する。報告を終えた未結はヴェロキラプトルの監視を続けるのだった。
空が少しずつ明るくなり始めた頃…… こめかみ辺りに右手を置いて、ネオラプトルたちを監視していた未結が、右手を静かに下した。
「来ました…… 後十分ほどで北側の交差点に接触します」
レイと甘菜はうなずくと置いてあった、重機関銃に弾薬をセットし安全装置を外し床に置いた。
「黒田さんと先輩が銃で迎撃を頼む! 姉ちゃんと俺が予備の弾薬をもってくる」
「わっわかりました。いきますよ。黒田さん」
「はい」
うなずく黒田は未結と一緒にレイたちが床に置いて重機関銃を持ち上げ、ネオラプトルが向かって来ている北側へと走って行った。
レイと甘菜は屋上の出入口へと向かう。二人は扉を開け、横に置いてあった細長い弾薬箱を持って未結たちの元へと戻った。
「未結ちゃん。横に弾薬を置いておくよ」
「あっありがとうございます」
レイと甘菜は黒田と未結のわきに弾薬箱を持って来た。レイと甘菜は二人の二メートル左で北側の交差点へ視線を向けるのだった。レイは太刀を右肩に担ぎ、甘菜はタワーシールドを左手に持っていた。
しばらくして…… 青い光る眼が交差点にいくつ見えて来た。屋上に居る四人に翔からの通信が入る。
「好戦規定はさきほどと同じ。交差点を超えたら攻撃してください」
翔はそう言うと通信を切った。未結と黒田は並んで屋上から、北側の交差点を目を向けている。未結の目が青く光り出り出した。千里眼により視点を移動し細かくネオラプトルの動きを監視する。
「うん!? そこ…… 交差点の向かいのビルの壁……」
未結はつぶやきながら右斜め前を指さした。彼女が指した方向に視線を向ける三人。そこには廃墟のビルが残っている。ただ、よく見ると青い羽毛の生えたネオラプトルが鉤爪を壁に打ち込んで上っていた。
「えっ!?」
「飛びやがった!」
ネオラプトルは壁を蹴って飛んだ。そのまま道路を超えてコロッセオ豊洲の壁と張り付いた。壁に張り付いたヴェロキラプトルはつたって歩きながら屋上へと上がって来る。
「先輩! 黒田さん! 攻撃!」
「はっはい!」
二人は走って移動し重機関銃を構え、下から迫って来るネオラプトルを銃撃した。銃声が轟き銃弾がネオラプトルへと向かって行く。
「「「「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
銃撃と同時にネオラプトルが、一斉にコロッセオ豊洲へと向かって走りだした。
「ちょこまかと!」
真下に向け重機関銃を撃ち続けていた。しかし、ネオラプトルは素早く、壁を左右に動きなかなか命中しない。
「そこです!」
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
銃声がして横を向く黒田、そこには重機関銃を横に置いて、スナイパーライフルを構えた未結だった。未結はスナイパーライフルの銃口を下に向けネオラプトルを狙撃していた。
彼女が撃った銃弾、はネオラプトルの額に命中し、絶命し壁から離れたヴェロキラプトルは地面へと叩き落とされていた。つぶれたヴェロキラプトルの血が地面にばら撒かれている。
「如月君…… なっなにを……」
黒田が声をかける未結は彼に視線を向けほほ笑む。
「ネオラプトルはゴブリンやリザードマンよりも速く強靭です。慣れた武器の方が良いですよ」
「なるほど……」
未結の助言に重機関銃を床に置いた黒田、彼は両手をあげ背中に手を回し拳銃を抜いて両手に持った。両手を下に向け照準を合わせてネオラプトルに撃つ。
「終わりです」
両手に持った拳銃をネオラプトルに向け黒田は引き金を引いた。二発の銃声が響いて銃弾が発射される。
黒田が撃った二発の銃弾は、それぞれ別のネオラプトルに命中した。一発はネオラプトルの足を貫き、もう一発はネオラプトルの胸に命中する。拳銃では一発で致命傷にはならないが、ネオラプトルはバランスを崩して地面へと落下する。
「「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
二頭のネオラプトルが悲鳴をあげ地面へ叩きつけられ動かなくなった。満足そうに黒田はうなずいた。
「如月君の言う通りだ。よーしなら……」
黒田は上って来る両腕の肘を曲げ銃口を上に向けた。
「シンシア君。エーテル反応弾の用意」
「リョウカイシマシタ」
シンシアに指示を送った黒田、すぐに彼が背負う自動弾薬装填兼装備換装装置が開き下側にエーテル反応弾に換装された拳銃が出て来た。黒田は上側に拳銃をしまうとすぐに下の拳銃を抜いた。
黒田が銃口を下に向け照準をネオラプトルに合わせる。彼の体が青白く光り出した。
「一気に終わらせますよ!」
両手に持った拳銃が火を噴いた。銃弾はネオラプトルに命中し、雷撃が隣や後ろにネオラプトルへと向かって行った。壁を上っていたネオラプトルたちが次々と地面に落ちていった。
「すごいね。二人とも」
「あぁ…… うん!? 姉ちゃん! あっちだ」
「えっ!?」
レイがコロッセオ豊洲の北西を指さした。残っていた鉄道の高架の上をネオラプトルが走って回りこんでいた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ネオラプトルたちはビルの時と、同じように飛んでコロッセオ豊洲の壁に張り付て上って来る。
「先輩、黒田さん! ここを頼みます。行くよ。姉ちゃん」
「うん!」
二人は走ってネオラプトルの迎撃へと向かうのだった。二人がネオラプトルが上る壁の上に来ると同時に一頭のネオラプトルが飛び出して来た。
「キャッ!」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
飛び出したネオラプトルは、屋上よりさらに五メートルほど上空へと上った。そのまま足を上げると、鋭く伸びた鉤爪を甘菜に向かって振り下ろす。
鉤爪を甘菜はタワーシールドを前に出し防ぐ。大きな音が響く。鋭い鉤爪は甘菜のタワーシールドにぶつかり表面を傷付けて削っていく。
「クッ!」
激しい衝撃に甘菜は吹き飛ばされそうになるがなんとか踏ん張る。レイは彼女の後ろに生き右腕を引く。太刀の切っ先がタワーシールドを挟んでいるネオラプトルへと向けた。
「姉ちゃん! しゃがんで!」
「えっ!? わかった」
レイの合図で甘菜は、タワーシールドから手をはなし膝をまげしゃがんだ。手を離したタワーシールドは押されて甘菜に倒れかかり斜めになった。同時にレイの太刀とネオラプトルを遮るものはなくなった。
右腕を勢いよく突き出すレイ、太刀は鋭くネオラプトルの首をへと伸びていく。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
レイの太刀はネオラプトルの首を貫いた。悲鳴をあげるネオラプトル、レイはさらに前に出て右腕をまげネオラプトルへ近づいた。彼は左手を前にだしネオラプトルを押し、右腕を引いて太刀を抜いた。太刀を抜くと同時に左腕を伸ばしさらネオラプトルを強く押した。
ネオラプトルは地面へと落ちていった。壁を上っていた一頭のネオラプトルが巻き込まれて押しつぶされるようにして落下した。二頭が地面に叩きつけられる様子を壁を上る他のネオラプトルは見つめていた。
「ふぅ! 大丈夫か?」
振り向いたレイはしゃがんだ甘菜に左手を伸ばした。彼女はレイの右手をつかんで起き上がる。
「うん…… 強いね。危なかった」
「あぁ。今まで来た奴らよりも強力だ」
太刀を屋上の床に刺したレイは、腰のアサルトライフルを抜いて屋上のヘリへと向かい下を覗く。十頭ほどのネオラプトルが屋上を目指して上って来ていた。彼は銃口をネオラプトルへ向ける。
「レイ君…… 上を見て! あれ!」
「えっ!?」
甘菜の声に視線を上に向けるレイ、曇がコロッセオ豊洲の上に集まりすごい速さで回転しながら渦を巻いていた。
「なんだよ…… 雲が渦巻いて…… 紫に……」
雲は渦を巻きながら雷のひょうな光が出て徐々に紫色へと変わっていく。
「もしかして魔の巣になろうとしてるんじゃ……」
「クソ!!」
レイは右手をグレネードランチャーの引き金に持って行き引き金を引く。音がして閃光弾がネオラプトルたちの前へと飛んで行き破裂した。まばゆい光と音でネオラプトルはフラフラになりバランスをくずしたネオラプトルの何頭かは地面へ落下した。
「翔さん! 上空に魔の巣が発生した。もうすぐ雨が降って来る」
四人がいる屋上にある雲は紫の色へと染まっていき。薄く蝙蝠のような膜の翼を持つ魔物が飛ぶ影が雲に映っているのだった。




