第77話 欲望はかき消される
ガデルは大樹へと向かって走りだした。左手をガデルへと向けた大樹、彼が操る六本の槍がガデルへと飛んでいく。
「フン!」
両手に持ったサーベルで交互に二本の槍をはたき落としたガデル。さらに正面から胸を間がけて槍が一本飛んで来たが横に移動しながら上半身をそらしてかわした。さらに左右から脚を狙って地面すれすれを槍が左右から飛んでくる。ガデルは飛んでくる槍に気付きタイミングよく踏み切って飛んだ。左右から来た槍が地面すれすれを飛んですれ違う。飛んだところを狙って飛んで来た最後の槍をアデルはサーベルを、クロスさせるようにして切りつけ叩き落とす。
大樹を一瞥したガデルは彼に向かって走り出した。
「クソガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
悔しそうに叫び、左手を空に向けた大樹、彼の目が強く青く光り出す。
「なっ!? おいやめろ! あんた何をする気だ!」
レイが叫んだ。大樹の後ろにあったアデルを乗せた、車がゆっくりと浮かびあがって上空へと飛んでいく。大樹は左腕を前にだすと車は浮かび上がりながら前に出る。
「アデルーーーーーーーーーーー!!!」
走っていたガデルが息子の名前を叫び踏み切って飛んだ。車に手を伸ばし迫っていくガデル、しかし、わずかに届かず手をかすめるようにして車はさらに空に向かって上がっていく。
「奪われるなら!!! すべてを消してやる!!!!」
怒鳴った大樹は弾が切れた、サブマシンガンの弾倉を交換し、左手で乱暴に安全装置を外す。大樹は右腕を伸ばし左手を車にむけると浮かんでいた車が二十メートルほどの高さで止まった。銃口を車へと向ける大樹。
「ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
何かが行わるか分かったガデルは叫びながら大樹へと迫っていく。レイは太刀を投げ捨て視線をアデルが乗る車へと向けた。
「はははっ! 終わりだ!!!」
大樹は笑って引き金を引く。銃声が響き発射された銃弾がアデルの乗る車へと向かって行く。ガデルの顔は青ざめ絶望に落とされた表情に変わる。しかし…… 大樹のサブマシンガンの銃弾は車へと届くことはなかった。
銃弾がアデルの車に届く寸前にタワーシールドを持ったレイが現れた。レイがもつタワーシールドに銃弾は弾かれたのだった。
「なっ!? タワーシールド…… 貴様! どうやってそんなものを」
「特務はそっちと違っていろいろと大変なんでね」
「クソ!!!!」
サブマシンガンを投げ捨てた大樹。彼は肘を曲げ両手を上に向けるとすぐに前に出す。地面に転がっていた大樹の槍や倒れた石や折れた街路樹などが、浮かびあがって一斉にレイへと向かって行く。
「ほっ!」
レイの右手に太刀が現れた。彼は左手にタワーシールド、右手に太刀を持って向かって来る物体に身構える。
「ハアアアアアアアアアアアア!」
最初に飛んで来た街路樹をレイはタワーシールドで受け止めた。素早く盾をひいたレイは、右手に持った太刀で街路樹を叩ききった。真っ二つになり、念動力が弱まり浮力を失い街路樹は地面へと落ちて行った。次々にレイは向かって来た物体を盾と太刀で叩き落としてく。あっという間にレイに向かって来る物体は無くなる。
「なっなんだ…… あいつは…… これが特務の力か……」
放置した自動車の前で仁王立ちするレイの姿に、愕然とし大樹だった。小刻みに震え大樹は頭を下げ、膝に手をついた。
「おっと!」
慌ててレイは振り向いた。大樹が気力を失いアデルを乗せた車が落下しそうになっていたのだ。レイは盾を捨て車のバンパーを左手でつかんで、トランク中のアデルを、右手で抱きかかえると同時に姿を消す。
「ふぅ…… もう安全だぜ」
離れたところに姿を現したレイ、彼はアデルを右脇に抱えガデルに声をかけた。振り向いてガデルはまたほほ笑む。
「ヤハリキミハシンヨウニアタイスルヒトダ」
「世辞はいいからさっさと片付けな」
ガデルの前に居る大樹を指すレイだった。大きくうなずいたガデルは大樹に向かって再度駆け出すのだった。レイは静かに大樹から背を向ける。
「オマエハユルサナイ!!」
二本のサーベルをふりかざし大樹へと迫るガデルだった。顔をあげた大樹の目が青く光りだし左手の指を軽くう動かす。
「黙れ! 馬人間ごときが調子に乗りおって!」
ガデルの背後から猛スピードで大樹が操る槍が飛んで来た。
「なっ!?」
槍が届く直前にガデルは急停止した。そして後ろ足を大きく振り上げた。ガデルは後ろ足で大樹が飛ばした槍を蹴り上げた。蹴られた槍は吹き飛ばされ、回転しながら放物線を描く。
「まっ待ってくれ! 頼む」
左手を前にだし後ずさりする大樹だった。しかし、ガデルは大樹の言葉を聞かず、彼を睨みつけると前に出てサーベルを振り下ろした。右手に持ったサブマシンガンを水平にして前にだす大樹。ガデルのサーベルが大樹の右手首を切り裂いた。音がして大樹が持っていたサブマシンガンが彼の右手ごと地面へと転がり大量の血が上から降りかかる。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
手首を失った右腕を左手でつかみ声をあげる大樹だった。彼の目に映るディスプレイは赤くいくつもの警告表示が出ては消えていく。
苦痛と涙でぼやける大樹の視界にガデルが、左腕を引いてサーベルの剣先をこちらに向ける様子が見える。
「コレデオワリダ」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガデルの突き出したサーベルが大樹の胸を貫いた。声をあげた大樹は直後に体の力が抜けガクッと頭が下がった。ガデルは右手を前にだし大樹を体を押し左腕を引いた。サーベルが大樹の体から抜け彼の体は地面に力なく倒れたのだった。ガデルはサーベルの血を拭うと背中にしまった。
レイは静かに振り向いてアデルを抱えたままガデルの前へと歩いていく。ガデルの前に止まったレイは口を開く。
「薬で眠らされてると思う。屋上に診察できる俺の仲間がいるが……」
「ダイジョウブダ。ワタシタチニモハクスシガイテタイオウシテクレル」
「そうか」
うなずいたレイは両手で大事にアデルをガデルへと差し出した。アデルと受け取ったガデルは彼を右脇に抱えレイに背中を向けた。
「マタアオウ。チノメイヤクヲムスビシドウホウヨ!」
「じゃあな…… ガデル」
ガデルは右手をあげレイに声をかけると走っていった。レイは手を振り彼を見送った。すぐにレイはハッと何かに気付いた顔をする。
「あっ! 結局、血の盟約ってなんだが聞き忘れた…… まぁいいか」
首を横に振ったレイは顔を空に向け通信を翔へとつなぐ。
「翔さん…… レイです。大樹さんはレインデビルズにやられました。地上の指揮をお願いします」
「そうですか…… わかりました。後で詳細を報告してください」
「わかりました」
返事をして翔との通信を切ったレイだった。レイは前を向きそっと左手を伸ばす、彼の左手にタワーシールドが握られる。視線を屋上に向けたレイは足で地面を蹴った。
「はっ!!!!」
気合をいれて飛び上がったレイ、直後に彼の姿が消える。瞬間移動でレイは屋上のヘリへと着地した。そのままみんなの元へと戻ろうと歩きだす。
「レイさん……」
戻って来たレイに未結が近づいて来て声をかける。未結はどこかおどおどして不安げな様子だ、レイは彼女を様子から察して声をかける。
「見てたんだろ?」
「はっはい。私だけですが……」
小さくうなずく未結だった。レイのことが気になった彼女は千里眼で状況を確認、彼がレインデビルズのケンタウロスと協力し、大樹を殺したことを目撃していた。レイは平然とし淡々と彼女に答える。
「俺は仲間を見殺しにした。捕まえてもいいぜ。先輩になら……」
「しっしませんよ。ここは壁の外です。壁外特別治安法で人を見捨てても何の罪にもなりませんからね!」
胸を突き出してフンと鼻息荒くする未結だった。レイは未結の態度を見てほほ笑むのだった。
「あーーーー!!! レイ君!!! 私のタワーシールド! 勝手に使ったでしょ!!!」
少し離れたところから甘菜が駆けてきてレイを指さしている。レイが持っているタワーシールドは甘菜のものだ、彼女のタワーシールドはエーテルリンクタグでレイの瞬間移動で呼び出せるようになっている。
「あぁ。少し借りたぜ!」
「先に言ってよ。急に無くなってビックリしたんだから! 返して」
「はいはい」
左手に持っていたタワーシールドを甘菜へと差し出すレイだった。甘菜はタワーシールドを受け取った。タワーシールドは街路樹や槍を受けた際に出来た、傷やへこみが出来ていて彼女は不満げに口を尖らせる。
「もう…… ぼこぼこじゃん…… それで? うまくいったの?」
「えっ!? あぁ。問題ない」
「そう。さすがレイ君!」
笑顔で首をかしげた甘菜にレイは少し驚きながら答える。甘菜はレイの返事に嬉しそうに笑うのだった。




