第76話 新たな乱入者
ゴブリンロードが運ばれてきた石斧を掴む。斧を大樹へと向け彼を睨みつける。両手に石斧を持って振りかざすとゴブリンロードが駆け出した。
周囲に居たゴブリンたちもゴブリンロードに続く。低く腹に響くような大きな足音が大樹に聞こえる。にやりと笑った大樹は左手をゴブリンの集団に向けた。彼の肩に入った槍がガタガタと小刻みに震え出す。
「蹴散らして…… はぁぁ!?」
呆然として固まる大樹、走っていたゴブリンたちの横から、何かが突っ込んで来た。ゴブリンたちの隊列が激しく乱れる。
「あいつ…… そうか!? クソ!」
大樹はすぐに身をひるがえしコロッセオ豊洲へと慌てて戻る。とゴブリンたちに突っ込んで来たのは、下半身が馬で上半身が人間のケンタウロスだった。ケンタウロスの上半身はがっちりとした目は青くぱっちりとして鼻は高く口を真一文字に結んでいる。上半身は革の鎧に身を包み、両手には細長く湾曲したサーベルを持っていた。ケンタウロスは二本のサーベルでゴブリンを切り刻みながら前へと進む。
「プギイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
ゴブリンロードが怒りの叫び声をあげた。ケンタウロスはゴブリンを切りながら向き変え、コロッセオ豊洲に向かって走りだした。ゴブリンロードは両手を広げてケンタウロスの前に立ち塞がり、両手に持った石斧をふりかざす。速度を落とすことなくケンタウロスは、立ち塞がるゴブリンロードへ向かって行く。
「プギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
勝負はあっけなくついた。ゴブリンロードは石斧を振り下ろせず、一瞬でケンタウロスに距離をつめられたゴブリンロードは、サーベルで首を切り落とされた。
「「「プギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」」」
自分たちの王が一太刀で殺されゴブリンは悲鳴をあげ逃げ惑う。ケンタウロスは逃げ惑うゴブリンたちには目もくれずに、コロッセオ豊洲の南側の入り口に向かって走りだした。サーベルをしまったケンタウロスは左手を前にだす。ケンタウロスの左の手に青い宝石がついた指輪がはめられそこから光がコロッセオ豊洲へと伸びていた。
「ケンタウロスです。こっちへ一直線に向かって来ています!」
コロッセオ豊洲の屋上で、膝をついてスナイパーライフルを構えた未結が、地上を見て声をあげた。彼女の横にはレイが立ち彼女に声をかける。
「厄介だな…… 狙える?」
「やっやってみます」
スナイパーライフルの照準を向かって来る、ケンタウロスへと向けた未結。高速で走って来るケンタウロスに慎重に狙いを定め引き金に指をかけた。
「そこ…… あれ!?」
未結が引き金を引こうとした、直後にケンタウロスは急旋回し林を横に移動し、南側の玄関から遠ざかりコロッセオ豊洲の横を建物にそって走っていく。
「あいつ…… どこへ」
ケンタウロスの想定外の行動に、レイは驚きケンタウロスを追いかけ屋上を横に走り出す。
「先輩! 相原さんへ連絡を頼む。俺はケンタウロスを監視する」
「わかりました」
「姉ちゃんと黒田さんは先輩と合流してくれ」
未結たちに指示をだすレイ、彼は屋上のヘリの少し手前でケンタウロスを横目に見ながら走る。
「うん!? あいつあの光を追っているのか?」
ケンタウロスの動きを見ていたレイがつぶやく。左手を前にだして伸びている青い光をケンタウロスは追いかけているようだった。
コロッセオ豊洲に建物に沿うように走るケンタウロス、途中に放棄された車やバリケードをいとも簡単に飛び越える。
「あれは……」
ケンタウロスから伸びた青い光が、コロッセオ豊洲の前に放棄されている一台の乗用車を指していた。ケンタウロスは足を止めジッと廃車を見つめているようだった。
足を止めたケンタウロス、レイはジッとその様子を見つめていた。
「ハッ!」
前から一本の槍がケンタウロスの胸へめがけて飛んで来た。接近に気付いたのケンタウロスはサーベルを抜いて槍を弾いた。弾かれた槍は回転しながら飛んで行ったが途中でピタッと止まった。
「防いだか…… まぁいい」
廃車の奥にあった街路樹の隙間から大樹が出て来た。どうやら彼は街路樹の木の陰に身を隠していたようだ。まるでケンタウロスがここに来ると分かっていたかのように……
大樹は屋上に視線を向け、ヘリに立つレイに向かって叫ぶ。
「おい! やつは防衛線を超えた! 殺すぞ!! 手伝え!」
「なんであんたそこにいるんだ……」
「うるさい! もういい。お前の力など借りるか。そこで見ていろ」
右腕を伸ばしサブマシンガンをケンタウロスへと向け発射する大樹だった。しかし、ケンタウロスは素早く腰のサーベルを両手で抜いて、サブマシンガンの銃弾を二本のサーベルでいとも簡単に叩き落としていく。
「クソ!」
サブマシンガンを撃ち尽くした大樹。彼は左手を前に出した、肩のケースから槍がケンタウロスへと向かって飛んでいく。
「ハッ!」
ケンタウロスは槍を弾き飛ばし前へと出た。大樹は飛ばされた槍を止めて何度もケンタウロスへと向かわせるがかわされるか弾かれ動きを止めることはできない。ケンタウロスは大樹の前へとやってきた。ケンタウロスは右手に持ったサーベルを振り下ろす。
「うわあああああああああああああ!!!」
向かって来るサーベルに大樹は両手で顔を覆って叫ぶ。
「チッ!」
屋上のレイの体が消えた。彼はケンタウロスの前へと瞬間移動で移動した。レイは太刀を両手に持って水平にして、振り下ろされたサーベルを防いだ。大きな音が響く。レイとケンタウロスは太刀とサーベル越しに目が合う。直後にケンタウロスの目が青く光り出した。
「ニンゲンヨ…… ワガナハガデル。チノメイヤクヲムスビシドウホウデアル。ワタシノハナシヲ、キイテホシイ」
レイの耳にシンシアの声で、ケンタウロスがしゃべりかけてきた。レイは目を見開きすごく驚く。
「なっ!? なんだ…… 声が…… どうして? シンシア! 外部音声を切れ!」
「ガイブキョウセイホンヤクキノウサドウチュウデス…… ソウジュウシャノメイレイヲキョヒシマス」
シンシアに拒否され困惑するレイ、ケンタウロスは話を続ける。
「キミタチガツカッテイル、シンシアニヨビカケ、ホンヤクシテモラッテイル……」
「シンシアが翻訳…… わかった。だが、まずお前が剣を引くんだ」
「アァ。ソウシヨウ」
ケンタウロスはゆっくりと太刀からサーベルをはなした。レイはケンタウロスを見て静かに太刀を下す。
「ワタシハキミタチトタタカウツモリハナイ。リザードマンニサラワレタ、ムスコアデルヲサガシテイルダケダ。カレハソコニイル」
そう言うとケンタウロスのガデルは、レイの二メートルほど後方にある放置された廃車を指した。
「息子…… 本当か?」
「ムロンダ。ウタガウナラキミガカクニンスレバイイ」
「よし。わかった。確認するからそこで待ってろよ?」
「ウム」
うなずいたケンタウロスはサーベルを下し静かに数歩後ずさりする。レイはケンタウロスに体を向けたまま下がり、放置自動車へとやってきた。車内に視線をむけるがケンタウロスはいなそうだ。彼は車のトランクに手をかけた。
「やめろ!!!! 開けるんじゃない!!!」
振り向いた大樹がレイに向かって叫ぶ。レイは大樹の言葉を無視しトランクに手をかけ開けた。
「これは……」
トランクは鍵が壊れているのか簡単に開いた。中には横たわ小さなケンタウロスの男の子が入っていた。
「眠っているのか…… いや寝かされているのか……」
ケンタウロスの男の子はアデル。ガデルの息子だった。彼は眠っており静かに寝息を立てていた。上半身は半そでの白いシャツを纏ったアデル、彼の左腕の肘から少し上の辺りに、注射がされたような痕ができていた。アデスは麻酔をうたれて眠っているようだ。
「何をしているんだ! さっさと閉めろ!」
「はっ!? あんたそういえば…… あんたがここに隠したんだな……」
「なっなにを!?」
「さっき屋上で見てたんだよ。あんたがこの車をいじっているのをな!」
悔しそうにする大樹、レイと甘菜はさきほど目撃したのは、アデルをトランクへしまった大樹だった。
「ケンタウロスをさらってあんたどうするつもりだったんだ」
レイは体を大樹に向け持っていた太刀の剣先を彼に向けた。
「売るのさ。人型のレインデビルズは高く売れるからな……」
「なっ!? 売るだと……」
「ふん。ガキのお前にはわからない話さ。上流な大人の趣味の話だ! クソ! これがうまくいけば俺はもっと…… 上に……」
平然と売ると答える大樹にあきれるレイだった。一部の人間たちにとって、レイルやアデルのような人型のレインデビルズの幼体は好まれる高値で取引される。もちろん違法行為であるが値段の高さに比例するようにその趣味を持つのは町でも上流と呼ばれる人物が多く。取り締まりも強くできていないのだった。
「そうかい。おい。ガデルと言ったな。わかった。息子は返してやる。その代わり俺達に……」
「ムロンダ。ワタシタチハ、チノメイヤクヲムスビシドウホウダ。テキデハナイ」
「血の盟約…… なんだそれは?」
「ソレハ…… ハッ???!!!」
ガデルが急に話を遮った。サーベルを横に振りぬいた。横から大樹の槍が向かって来ており、サーベルに弾かれる。同時にレイに向かって同じように横から大樹の槍が飛んできた。レイは瞬間移動で姿を消し槍をかわした。槍はアデルが寝ている車のトランクの前の地面に突き刺さる。レイはケンタウロスの横に姿を現す。
レイとケンタウロスと大樹が放置自動車の前で向かい合う。
「あんた…… どういうつもりだ」
「どういうつもり? これは私のだ! お前たちには渡さん!」
「チッ…… そうかよ」
太刀を大樹に向かって構えるレイ、ガデルが前に出た左手を前にだしてレイを止めた。
「おい。どういうつもり……」
「ワタシニマカセロ。キミハムスコヲタノム」
「いいのかよ。俺はあいつの仲間だぜ?」
「ダイジョウブ。キミハシンヨウデキル」
「えっ!? そっそうか」
横を向きガデルはレイに向かってにこりとほほ笑む。レイは少し驚きながら笑うのだった。




