第74話 長い夜は続く
「キャッ!!」
「うわあああああああああああああ!!!!」
未結と兵士の一人が悲鳴をあげた。二人は両肩を鷲のような足に掴まれ空へと連れ去れていた。大きく旋回しながらコロッセオ豊洲の屋上の空高く連れて行かれる。
「クソ! ハーピーか!」
レイが走り出して叫ぶ。未結を連れ去ったのは、上半身の腹から胸と首は女性で腕や下半身が鳥の魔物ハーピーだ。
「やめろ!! やめろーーーーーーーーーーーーー!!! ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
兵士の一人の断末魔が聞こえる。顔をあげた未結、そこには獲物を運ぶハーピーの足に捕まれ運ばれる、兵士に群がって十数匹のハーピーの姿が見える。ハーピーは悪食で獲物を見境なく何でも食べる。彼らは兵士に食らいつくそうとしているのだ。
未結のディスプレイに点々と赤い血が飛んで来た。兵士が装着していたパワードスーツは食い破られ、兵士の体をハービーが貪り食い、空に血と食い破られた肉がまき散らされたのだ。
「せんぱーい!!!」
上空を見ながら走り、屋上床を蹴って連れ去られた未結に向かって飛ぶのだった。スラスターを全開にしてハーピーを追いかけていく。未結の目に手を伸ばして飛ぶレイの姿が見ている。
「肩に手が……」
腰に手をまわし拳銃を抜こうした未結だったが、装甲に爪がめり込みうまく手が背中へと回らない。
「あっ!?」
レイが未結から遠ざかっていく。ハーピーが速度を上げたのだ。マジックフレーム2は飛行能力を有しているとはいえあくまで跳躍が伸びるだけであり、翼を持つハーピーの上昇に追いつけるほどのものではなかった。
「クソ! 千里眼を使ってる時に襲うなんて卑怯者が!!」
「そんなこと魔物に言っても意味ないですよ」
「わかってるよ」
ジッとハーピーを見つめたレイ、彼の姿が消えた。瞬間移動でレイはハーピーの十メートルほど前に姿を現した。急に現れたレイにハーピーは翼を動かして停止する。未結の体が激しく揺れた。
「ピーーーーーーーーーーーーー!!!」
叫びながら翼を振るようにクロスさせたハーピー。その動きに合わせ真空刃が翼らから飛び出しレイへと向かって行く。ハーピーは魔法で風を操る魔物だった。また、雑食で何でも食べるほど意地汚く、未結をさらったのも獲物と認識し捕食するためだった。
「甘い!」
真空刃がレイの首に届く直前に彼の体がまた消えた。次の瞬間にはハーピーの背後へと姿を現した。両手を右肩の上へと持っていく。同時にレイの右手に太刀が現れた、彼は太刀を両手に握りハーピーの背中を睨みつけた。
「さよならだ」
レイは持っていた太刀を斜めに振り下ろした。ハーピーの右翼から背中を太刀が切り裂いていく。返り血が飛び出しレイの体と太刀を赤く染める。ハーピーの右翼は真っ二つに斬り裂かれ羽がレイの目の前を舞う。
「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
翼を切り落とされたハーピーはバランスを浮力を失い、悲鳴をあげながらハーピーは落ちていく。途中で意識を失ったハーピーの足の力が抜け未結が外れる。レイはまた瞬間移動をして彼女の元へ向かう。
「大丈夫か?」
「えぇ」
レイは左手で未結の右腕をつかんで自分の方へ引き寄せ声をかけた。
「「「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」
ハーピーの鳴き声が響く。二人のすぐ上を三匹のハーピーが旋回していた。さらに三匹の上にも十匹ほどのハーピーが翼を広げ飛んでいた。三匹のハーピー
「クソ! すぐに戻るぞ…… えっ!?」
二人の体を下からせりあがって来た、巨大な青い光の壁が通り過ぎていく。コロッセオ豊洲を覆うほど巨大な広げた傘のような形をした青い光の壁が、二人の頭上三メートルほどまでせりあがって止まった。
「「「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」」
現れた青い薄い光の壁に突っ込んで来たハービーたちは止まれずに激突した。ハーピーたちは青い光の壁をすべるように落ちていき地上へ向かって行く。
「「「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」」」
銃声が三発轟いた。地上へと落下するハーピーを銃弾が貫いた。正確に三匹の胸を狙った銃弾により、血と羽が空に舞いハーピーたちは地面へと落ちていった。
「今のは黒田さんの……」
未結が落ちていくハーピーを見てつぶやく。
「今だよ! レイ君! 未結ちゃんを頂戴!」
下を向いたレイと未結。屋上でタワーシールドを持った甘菜が右手を大きく振っている。彼女の後ろには二丁の拳銃を両手に持った黒田が立っていた。青い光の壁は甘菜のプラズマシールドで、ハーピーを撃ったのは黒田だった。
「姉ちゃん! さすが! ほら! 受け取れ!」
「キャッ!」
レイは未結を甘菜に向かって投げた。投げられた未結は屋上へと落下していった。
「つかまえた!」
落ちて来た未結を両手を広げて甘菜が受け止めた。
「もう投げるなんて…… それにもう少し……」
「うん!? 何か言った? 未結ちゃん」
「いっいえ!」
不満げにつぶやく未結、甘菜は首をかしげ彼女の顔を覗き込んだ。恥ずかしそうに顔を赤くし、未結は必死に首を横に振るのだった。
上空からレイは二人の様子を見つめ安堵の表情を浮かべた。すぐに真顔になった彼は視線を上に向ける。
「さて…… 身軽になりゃ。お前らなんか!」
展開されていた甘菜のプラズマシールドは消えていた。その上で旋回を続けていた十匹のハーピーは翼を広げ視線をレイへと向けている。レイは太刀を構えると姿を消した。
「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
レイは一匹のハーピーの元へと瞬間移動した。姿を現すとほぼ同時に太刀でハーピーを斬りつけた。振り下ろされた太刀はハーピーの右腕を切り落とされた。翼を失ったハーピーは鳴き声をあげ地上へ落下する。
「「「「ピーーーーーーーーーーー!!!」」」」
周囲にいたハーピーたちが一斉に真空刃をレイに向けてはなつ。しかし、彼の姿は消えた。いくつもの真空刃がレイが居た場所を通過していく。再びレイは一匹のハーピーの前に姿を現した。彼は太刀を体の横まで引いて構えた姿勢を取っていた。
「さよならだな!」
「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
太刀を水平に振りぬくレイ、太刀は鋭く伸びていく、もじゃもじゃ髪に牙が生えた女性のような顔のハーピーが固まって動けない。太刀はハーピーの首を切り落とした。吹き飛ばされ放物線と描き落ちていくハーピーの頭、体は力が抜け腕を下して垂直に下へと落下していった。
「さっさと片付けてやるよ」
太刀を構えたつぶやいたレイの姿が消える。レイは瞬間移動で次々とハーピーを落としていくのだった。
「さよならだ!」
八匹目のハーピーの翼を切り落としたレイ。太刀を上下に振り血を拭うと残りの二匹に顔を向けた。
「「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」
「なっなんだよ…… まぁいい」
残ったハーピーは一目散に背中を見せて逃げだした。レイは太刀を下すと追撃はせずに、コロッセオ豊洲の屋上へと戻って来た。
戻って来たレイの元へと、三人が駆け寄って来た。
「ふぅ。姉ちゃん。エーテルタンクとスラスターの交換を頼む」
「了解」
背中を指して甘菜に指示をするレイ。甘菜は屋上中央へと向かって行く。屋上の中央には弾薬と補給物資がおかれている。甘菜はスラスターの予備と細長い円筒の棒を持って戻って来た。
「持って来たよー」
戻って来た甘菜にレイが背中を向けた。甘菜は背中のスラスターを外して付け替えると、背中の中央のある小さなレバーを上にあげる。背中の装甲の一部が、斜めに上に跳ね上がるように開く。開いた装甲は細長くそこに甘菜が持って来た暴と同じ円筒の棒が入っている。この棒はエーテルタンク、文字通りエーテルが入ったタンクでパワードスーツの燃料だ。
甘菜は刺さっていたエーテルタンクと持って来た物へと交換する。
「先輩。状況は?」
「えっと……」
エーテルタンクの交換をされながらレイは未結にたずねる。彼女は右手をこめかみに千里眼で周囲の状況を確認する。
「ゴブリンが動きだしましたね…… 数は数千ってところですね」
「わかった。姉ちゃん。さっき姉ちゃんも特殊能力を使ったから念のためエーテルタンクを交換しとくか」
「うん。じゃあ。お願い」
「あぁ。先輩と黒田さんも弾薬とエーテルは常に満タンにしといてくれ」
うなずく黒田と未結。杏の作業予定までまだ十二時間近くある。この戦闘がいつ終わるか不明だ弾薬とエネルギーを常に補充して万全でいる必要がある。レイは交換用のエーテルタンクを取りに向かうのだった。




