第71話 到着
レイたちが上陸した場所から北西へ数百メートル進んだ先、旧豊洲市場の青果卸売場の向かいに円筒形の建物がある。地上五階、地下四階という周囲の建物に比べて高くなく目を見張るものではないが、ローマにあるような円形のコロシアムような形が特徴的なビルだ。ここが今回の作戦の目的地であるライザー財閥の旧東京第四支部コロッセオ豊洲だ。
一階と二階は一般開放されていた商業施設で三階から上はライザー財閥の傘下企業のオフィスで地下は地下一階が商業施設で地下二階と三階が駐車場となっており、最深部の地下四階にライザー財閥のデータセンターがある。円筒形のビルは商業施設のあった二階部分が周囲のビルと歩道でつながっていた。
目的地であるコロッセオ豊洲についた遠征軍。正面に車両が次々に停車する。トラックの一台から灰色の迷彩服にボディアーマーを装備しヘルメットをかぶった杏か降りてきた。トラックの屋根に乗っていた、パワードスーツを身に着けた大神が彼女の側に立つ。
大神と杏は正面の兵員輸送車の近くへと歩いて来る。
「よーし。翔さん。まずは地下への道と地上部の確保するわよ。前に調査した時はリザードマンの巣になってたからね」
「わかりました」
二人は兵員輸送車に乗っている、マジックフレーム2の一式C型へと話をかけた。背面のスラスターがないこのマジックフレーム2は代わりに矢が入った筒と金属製で弦大弓を背負っていた。搭乗者は翔だった。翔は杏たちに右手をあげて答えた。
「大樹。僕らは地下へ向かう。地上部の制圧を頼む」
翔は隣に乗っていた同じ一式C型へ話しかける。このマジックフレーム2は、右手にサブマシンガンを持ち、左肩の背面に槍が入ったミサイルランチャーのような、円筒形のホルダーを装備し、ホルダーには三つの柄が太い槍が入っている。搭乗者は大樹だ。
「わかった。第三師団所属は出撃の準備だ!」
車両を降りた大樹は右手で、コロッセオ豊洲の扉を指して部隊を指揮し向かって行く。
「第二師団所属の者はここでトラックを守れ。特務第十小隊はいつでも動けるようにしておいてくれ」
翔は大樹を見送り指示を出した。大樹の部隊は扉を開けビルの中へと入っていった。
「じゃあ行きましょうか。山神博士」
「うん」
三人は大樹に続きビルの中へと向かうのだった。三人の後を大神のハルバードを背負った、機械犬のナナが付いて行く。正面から入ったビルの中は広く二階まで吹き抜けのロビーのようば場所へと出た。かつて商業施設だったため、テナントごとに仕切られ個室のようなものが並んでいる。
レインデビルズを制圧する大樹たちの銃声がところどころから聞こえている。
「地下へは階段が……」
「危険ですね。これを利用しましょう」
「えっ!?」
正面の扉を入って左手にエレベーターが並んでいる。翔はエレベーターの扉の前へと立つと両開きの扉の隙間に手を入れた。
「ふん!」
金属がすれるギギーという音がした。翔は両腕を開いて強引にエレベーターの扉を開けた。そこにかごはなく薄暗くつめたいコンクリート壁が見える。
「ここから地下二階階まで行きましょう。大神くん。彼女をエスコートして上げてください」
「はっはい」
「では!」
そう言うと大神と杏に右手を上げた翔は、背中の大弓を取り出し横にしてエレベーターの中入れてから飛び下りていった。
「山神博士。失礼します」
「うっうん」
大神は杏を大事に両手で抱きかかえると、翔に続いてエレベーターの中を覗く。杏は大神の腕の中からエレベーターの下を見た。杏の瞳にヒビわれ一部が破壊された灰色コンクリートが下に向かい、暗闇に消えていく不気味な光景が瞳に映る。彼女はそっと大神にしがみつくのだった。
「いきますよ」
静かに大神はエレベーターの下へと飛んだ。杏のことを想い彼はなるべく衝撃を与えないように、スラスターを点火して静かに着陸した。
「いらっしゃい。状況は悪いですよ」
エレベーターの扉は破壊されており、その向こうには翔が立って居る。彼は大神と杏が下りて来ると振り返り声をかけるのだった。
大神は杏を抱えたままエレベーターの外へ出た。外は真っ暗な駐車場で放棄された車が何台もおかれていた。また、駐車場の床や放棄された車の屋根などに、土や草できた器のようなものものがあり、その上にはバレーボールほどの大きさ卵がいくつも生みつけられていた。
「どうやらここはリザードマンが孵化するための場所になっていますね。護衛もいるみたいですよ」
左手に持っていた大弓を放棄された一台の車に向ける翔、金属で出来た弓には小さなライトがついており、暗闇を照らしてくれる。ライトに照らされてリザードマンの姿が浮かび上がる。周囲の暗闇で何かが動く気配がする、このフロアには何匹もリザードマンがいるようだ。
「わかりました。僕がやつらを……」
「君は山神博士の護衛です。ここは僕に任せてもらいましょう」
前に出ようとした大神を翔は右手を出した止めた。彼は右手を矢筒へと刺さった矢へと持っていく。矢筒には金属製の通常よりも太く矢じりが大きい矢がおさめられている。
「「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」」」」
駐車場にリザードマンの鳴き声が響く。三匹のリザードマンが一斉に杏たちへと向かって来ていた。翔の右肩から指先までが青白く光り出した。
「遅いですよ」
翔がつぶやくと同時に青白い光は前進へと広がった。同時にわずかに翔の持っていた弓の弦が揺れ、空気を切り裂く音が駐車場に響く。
「「「グギャアアアアアアアアア!!!」」」
悲鳴が聞こえた。向かって来ていた三匹のリザードマンは飛んで来た矢で貫かれた。矢の威力はすさまじく頭に当たったリザードマンは矢に頭を押され首がねじ切れた。肩に当たったリザードマンは腕から肩にかけて大きな穴が開きちぎれた腕が放棄された車にあたりボンネットをへこませる。腰に当たったリザードマンは真っ二つになって地面に転がった。
「神速移動…… アサルトライフルよりも連射できる大弓なんて卑怯ですよ」
「ふふふ。さぁて逃がさないですよ」
笑って次々に矢をはなつ翔、少しの間リザードマンの悲痛な泣き声が地下駐車場に響き続けたのだった。
翔の特殊能力は神速移動。四肢や体を目に見えない速さで動かすことができる。レイの瞬間移動と似た能力であるが、レイは体がその場から消え別の場所に現れるテレポートであり、彼の場合はレイと違い体は消えずに、あくまで目に見えない高速での移動となる。
動く影がなくなった翔は静かに弓を下した。
「大樹。地下駐車場にリザードマンの卵がある地上制圧後に処理を頼む」
通信を終えた翔は大弓を背中にしまい前を指さた。
「さぁ。行きましょうか」
「えぇ。大神さん。おろして」
「はい」
大神は静かに杏を静かに地面に下した。エレベーターから三人が下りると一階で待機していたナナが飛び下りてきた。大神はナナを呼び寄せ背中に置かれたハルバードを手に取った。
三人は暗い駐車場の中央へと歩いていく。途中で杏が足を止め、リュックからタブレットを出して開く。
「地下三階の駐車場中央にデータセンター行ける階段があるわ」
タブレットを見ながら二人に指示を出す杏。二人は指示通りに駐車場の中央部へ向かう。駐車場の中央に床が天井に届くほどの高さに、せり出して出現したと思われる幅三メートルほどの円筒があり、円筒の下部には下へと続く階段が見える。三人は円筒の前に立ち、杏は周囲を警戒しながら円筒の入り口を覗く。
「十年前にみんなが逃げ出したままになってるね……」
筒の中は螺旋階段が弧を描きながら地下四階へと続いていた。
「この階段の下に扉がその先が目的地よ。さぁ……」
振り向いて大神に向かって声をかける杏。しかし、彼女に向かって円筒の上から何かが下りてきた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「山神博士!!!」
両手に槍を持ったリザードマンが杏をめがけて飛び下りて来た。大神が杏をかばおうと駆け出す、しかし、リザードマンは速く間に合いそうになった。悲鳴をあげ杏は目をつむって頭を下げた。まっくらな視界で自分が死ぬことを覚悟した杏、彼女の肩に雨粒のような何か小さなものがぶつかった感触がした。
「あっあ……」
ゆっくりと目を開け上を向いた杏が声をあげた。彼女に覆いかぶさろうとした大神のさらに上に血を流すリザードマンの顔が見えた。
リザードマンの横に青白く前進を光らせた翔が居て右腕を突き出していた。彼の右腕の装甲がせりあがり中から三十センチほどの長さのブレードが飛び出していた。突き出されてブレードは横からリザードマンの顔を貫いていた。
「ふぅ。まったくどこにでもわきますね。君らはゴキブリのようですよ」
そう言うと翔は右腕を引き、リザードマンの体を左手で押しから短剣を引いた。リザードマンは円筒の壁にそうように血を流しながら地面へと落ちていった。円筒の壁には血がべっとりと付着し下にいくほど血の痕がかすれていく。
腰を抜かして倒れそうになる杏を駆けて来た大神が支える。
「大丈夫ですか?」
「ヘッ平気よ。ごめん。油断してたわ。ありがとう翔さん」
杏に向かって右手をあげ答える翔、ブレードが静かに収納されていく。翔の一式C型は両腕にはガドリングではなくブレードが収納されており近接戦闘もできるようになっていた。
「ここから先は私と大神さんで行くわ。翔さんはここで待機していた」
「わかりました。お気をつけてください」
翔を残して大神と杏は螺旋階段を下りて行った。円筒の中は暗く古くなっていたが、破壊されているようなことはなかった。大神が先導し杏が彼の後に続き二人の少し後ろをナナが追いかける。
「外には卵があったのに…… はっ…… もしかして」
歩きながら杏は何かを考えていた。彼女は歩きながらタブレットを開き操作をする。
「やっぱり…… このエーテル濃度は…… いた! もう何するのよ!」
「すっすいません。下に着きました」
「えっ!?」
大神が立ち止まって杏が彼の背中にぶつかり、持っていたタブレットが急に倒れて画面に顔を近づけていた彼女は鼻を打ってしまった。鼻を押さえながら不満げに杏は立ち止まった大神の横から顔を出す。
螺旋階段の下は四角い部屋になっており、正面には金属の丸いレバーのついた金庫のような扉が静かにたたずんでいた。




