第65話 異文化コミュニケーション2
ブロックに囲まれた広いヘリポートにV428は着陸した。後部ハッチから海ほたるへと降り立ったレイは白い建物へと向かって歩いていく。彼の後に甘菜と未結と杏が続く。石川と大神と黒田はレイたちから少し遅れて歩いてくる。
「うーん」
背伸びをしたレイはまじまじと周りを見渡している。このヘリポートはアークデーモンとの最初の戦闘で飛ばされた場所でなんとなく懐かしさを彼は覚えたのだった。
「そいうや…… 俺たちってなんでここに飛ばされたんだろう」
首をかしげてつぶやくレイだった。アークデーモンとの戦闘でレイ、甘菜、未結の三人が東京湾第三ゲートへ飛ばされたのかは理由はわかっていない。
レイのつぶやきが聞こえた杏が、背後から近づく彼の横に並んで口を開く。
「詳しく調べたわけじゃないけど…… エーテルとアークデーモンの魔力が互いに反応したんだと思うわ。レイお兄ちゃんの瞬間移動と未結お姉ちゃんの千里眼がアークデーモンの魔力と干渉した可能性が高いわね」
「なるほど……」
「ごめんねぇ。本当なら調べたいところだけど…… 優先することはいっぱいで」
「しょうがないさ」
申し訳なさそうにする杏にレイは笑顔で答えるのだった。開発部である杏の研究は、兵器転用の可能性があるものが優先される。
甘菜が海ほたるの屋根を指さした。
「レイ君! 見て! 屋根!」
「あれって…… 開発部と生態調査部の旗か!」
海ほたるの屋根の上に、白い丸の中に開と言う字が書かれた旗と、同じく丸の中に生と書かれた旗がはためいていた。レイが隣に居た杏に顔を向けると得意げに笑ってうなすく。
「うん。アークデーモン討伐から開発部と生態調査部でここを改良して使ってるのよ。元々エーテル濃度が強くてレインデビルズが近寄れなくて安全だしね」
「二つの部署で共同管理しているのか……」
「そうよ。愛生さんも私たちも現場に近い安全な拠点が出来て満足よ。レイお兄ちゃんたちのおかげね。ありがとう」
「おっおう。役に立ててよかったよ……」
笑って右手でVサインをしてレイに向ける杏だった。レイは少し複雑な表情をするのだった。
「カンナ!!!」
音がして扉が開き建物から、レイルが飛び出して来て甘菜に飛びつくように抱き着いた。不意を突かれた甘菜はバランスを崩しそうになったが耐えてレイルを抱きとめた。
「わっわ!? レイルちゃん…… いい子だった?」
「うん!!」
頭を撫でてうなずく甘菜だった。レイルは服装は変わらないが、口にマイクが当たるヘッドセットをつけ、胸元に小さなスピーカーが付けられている。イヤホンとスピーカーは愛生のスマホに接続されており、自動翻訳して人間とコミュニケーションを取れるようにしてある。
「ほわぁ!? レイルちゃーん。一人で行っちゃダメでしょ」
レイルを追いかけて愛生がやって来た。甘菜とレイルが手をつなぐ。
「甘菜ちゃん。もういいわよ。レイルちゃーん。おいでー」
両手を広げた愛生は笑顔でレイルを呼ぶ。レイルは久しぶりに会った、甘菜と居たのか甘菜の手を握り、愛生の元へ戻ろうとしなかった。レイルの様子を見た甘菜は愛生に答える。
「いえ。レイルちゃんは私と一緒に居たいみたいですよ」
愛生に答えた後に、少しだけ勝ち誇ったような顔をする甘菜だった。
「あらあらそうですかぁ。じゃあ二人ともママと一緒ですねぇ」
「えっ!? ほわあああ!!」
「愛生! くっ苦しいよ」
おっとした口調だが素早く近づいた愛生は、レイルと甘菜を二人を同時に抱きしめた。強く抱きしめられたレイルと甘菜は苦しそうにしている。
「レイお兄ちゃん。愛生さんを止めて……」
「えぇ…… やだよ。めんどくせえ」
苦しそうにする甘菜とレイルを見た杏が、止めるようにレイに言うが、彼は愛生のことが苦手なのでめんどくさそうに拒否する。
「じゃあ! 同期のマー君! 止めて!」
「あぁ!? 山神君! そのあだ名で僕のことを呼ぶのはやめたまえ」
「えぇ。マー君ってかわいいのに……」
振り向いて黒田に依頼するが、余計な一言で彼の機嫌を損ねてそっぽを向かれてしまう。首を横に振った杏は黒田の近くにいる大神を指さした。
「じゃあ大神さん! お願いね」
「えぇ!? 僕ですか? なんで……」
「お願いね!」
「はぁぁ……」
断ろうとした大神を睨みつけ威圧する杏。大神はため息をつき渋々と愛生の元へと向かい彼女に声をかけるのだった。
「あっあの下溝部長…… 今はそんなことで……」
気が乗らなない大神は、蚊の鳴くような小さな声で、愛生の背後から声をかけた。
「あらぁ!? しんちゃん! 甘えに来てくれたの? うれしいわ! はいギュー」
振り向いた愛生は大神を見ると、嬉しそうにほほ笑み両手を広げて彼を抱きしめた。
「わっ!? こら! 僕は君より年上で! 君は部長とはいえ階級は僕の方が……」
「まぁ。階級は関係ないですわ。ママはそんなこと気にしないですからねぇ。いいこ。いいこ」
力強く抱きしめられて頭を撫でられる大神だった。ふがいなく撫でられる大神に、杏は不機嫌そうに眉間にシワを寄せ彼の背後に近づく。
「大神さん! 何をしてるの! もう頼りにならないんだから!」
「こーら! 杏ちゃん! しんちゃんをいじめちゃいけません!!!」
「そうだよ。メッだよ!」
「えぇ!? なんで私が……」
両手をあげ大神を叱りつける杏だったが、甘菜と愛生に逆に叱られてしまう。杏は怒られたことに驚き呆然としていた。大神から手をはなした愛生は甘菜に視線を向け彼女と目を合わせた。甘菜と目が合うと愛生はにっこりと優しくほほ笑む。
「あらあら、ちゃんと叱れるいいお姉ちゃんねぇ。甘菜ちゃん」
「えへへ。あっそうだ! おにぎりをたくさん持って来たんです! レイルちゃんと食べていいですか?」
「あらぁいいわねぇ。一緒に食べましょう。行きまようか。レイルちゃん」
「はい」
褒められて恥ずかしそうにした甘菜は、持っていた風呂敷包をかかげ、彼女を夕食に誘うのだった。甘菜の提案を愛生は快く受け入れる。
愛生はレイルの手を引き愛生は建物へと戻っていく。甘菜は振り向き、後ろに居たレイと未遊に声をかける。
「レイくーん。未結ちゃーん。おにぎりを一緒に食べよう!」
「おう」
「はーい」
右手をあげ甘菜に返事をするレイ、その横で小さくうなずいて返事をする未結だった。レイルを連れ甘菜は二人の元に駆け寄り一緒に愛生の後を追いかける。並んで歩く三人の後ろ姿を少し離れた場所で石川が見つめている。
「じゃあ行こうか。黒田。ほらお前さんもだ大神」
「行きましょうか……」
「はっはい」
石川は大神と黒田に声をかけ、彼らは三人で並んでレイたちを追いかけていく。一人だけ残された杏は少しして目を見開いてハッとする。
「ちょっと! 待ってよー! 私もたべうー!!」
両手を前にだして皆を追いかける杏だった。建物の扉の前で振り向いた愛生が、杏子を待っていてレイルと一緒に彼女と手をつないで三人で海ほたるの内部へと向かうのだった。
「ほわぁ。そこが食堂になってますのよ」
杏を待って皆を先に行かせた愛生、全員が三人を待っていた扉を入ったすぐのところで待っていた。愛生はレイルと杏と手をつないだまま、皆の前に出て海ほたるに入ってすぐの最上階にある食堂へと全員を案内するのだった。
四人掛けのテーブルが並ぶここはかつて、房総の海の幸をふるまうレストランだった。
レイたちは三つのテーブルをつなげて長いテーブルにして左右に分かれて並んで座る。近くのテーブルに甘菜とレイは持って来た風呂敷包とスープジャーを置こ準備を始めた。
「未結ちゃん。そこにお茶とお箸があるの」
「わかりました」
愛生が少し離れた台に置かれたポットを指した。テーブルより一回り狭い台の上には、積まれた紙コップにポットと割りばしが置かれていた。返事をした未結は皆に茶と用意しにいくのだった。
石川、黒田、大神と並んで座り対面に杏、愛生、レイルの順で座った。
「はーい。どうぞ」
重箱を外して並べていく甘菜、レイは味噌汁を皆の前に並べていく。
「はい。お茶とお箸です」
未結は淹れた茶と箸を皆の前に置いた。甘菜とレイは並んですわり、レイの対面に未結が座り食事が始まった。レイルはおにぎりを不思議そうに眺めている。
「愛生…… これご飯?」
「そうよ。いつも食べてるご飯よ。丸めて握ってあっておにぎりって言いますのよ。とーっても美味しいわよ」
「うー」
レイルは難しい顔をしている。保護されたレイルは人間と同じ物を食べているが、彼女はおにぎりは初めてで少し戸惑っているようだった。
「こうやって手でつかんで食べるのよ」
「あぁ。山神博士! 箸を……」
「いいのよ! うーん! 美味しい! レイお兄ちゃんたちのお母さん料理上手だもんねぇ。」
杏が見本を見せようと手でおにぎりをつかんで口に運ぶ。おにぎりを口にいれ美味しそうに口を動かす杏を見たレイルは自分もと勇んでおにぎりに手を伸ばした……
「すっぱい!!!!!!」
おにぎりを口を押えるレイル、慌てて彼女の肩に手を置き愛生が声をかける。
「あらぁ!? どうしたの?」
「ごめんなさい。それ…… 中身が梅干しでした」
レイルが手を伸ばしたおにぎりの具は梅干しだったのだ。日本人でも好みが分かれる食材で、人外のエルフであるレイルの口に合わないのもしょうがない。
口を押さえるレイルに杏は勝ち誇って笑う。
「もしかしてレイル…… 梅干しすっぱくて食べられないの? お子様ね」
「山神博士…… 人が梅干しが食べられるってエルフに勝ち誇ってどうするんですか…… だいたい博士だって克服したの最近ですよね」
「うるさいわね!」
顔を真っ赤にして隣の大神に叫ぶ杏だった。愛生は口を押えてうずくまる、レイルの背中を優しく撫でる。
「レイルちゃん…… 食べられないならペッてして良いですわよ」
「おっ…… し……」
「えっ!?」
レイルは急に体を起こし、おにぎりを目を輝かせてみる。
「美味しい!! この味…… 故郷のクーの実に似てる!」
「クーの実?」
「うん。長老が持ってる壺の中に入ってるの! でも、残りがあんまりないって言ってた……」
「そうなの。よしよし」
嬉しそうにおにぎりを食べながら愛生に一生懸命に話すレイルだった。愛生は彼女の頭を優しく撫でながら話を聞いている。レイたちはその様子を微笑ましく見ていた。杏だけはなぜか悔しそうにレイルを睨むのだった。




