第50話 池に潜む者
「すごいねぇ」
「あぁ。大きな何かがここを横切ったんだ……」
声をあげる甘菜とレイ。扉を開けた先は屋根が崩れ落ち、壁とわずかな窓枠を残し破壊し尽くされていた。何かの巨大な物がその巨体で横切ったようで、床に押しつぶされたがれきが散らばっていた。わずかに分かるソファとテーブルの残骸からここはラウンジだったことが分かる。
銃を構えたままレイは床をジッと見つめている。
「どうしたの?」
「いや…… 足跡が…… 右から来て左へ……」
床には三本の指を持つ足跡が右から左へ移動しているのが見えた。レイが左に視線を向けるとそこには。
「池…… 水棲のレインデビルズか」
巨体な魔物が横切った先は、二人が脇を通って来た池だった。池は静かで波一つたっていなく、逆にそれが不気味にみえた。
「レイ君。池を調べよう」
「あぁ」
甘菜は盾を構えレイは彼女の後ろで、水面に銃口を向け二人はゆっくりと池に近づく。二人の足元のがれきを踏みつぶす音が廃墟なったクラブハウスに響く。破壊された建物の端へとやって来た二人は立ち止まり池を見つめる。相変わらず静かに波一つたたずに不気味だった。
「レイさん。甘菜さん。状況はどうですか?」
「はい。建物内部にレインデビルズはいません」
「こっちも異常はありません。今、合流するために建物に向かっています……」
「えっ!? あっ!」
声をあげたレイの視界の端に、池のほとりを歩いて自分達の方へ歩いてくる黒田と未結の姿が見えた。
「ダメだ! 池から離れて!!」
「えっ!?」
不気味に池が泡立った池、小さい黒い影が池の底から現れ徐々に大きくなっていった。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
唸るような鳴き声をあげ池から真っ黒な巨大なワニが飛び出してきた。ワニの大きさは二十メートル近くある巨大なワニだった。ワニは濡れて輝く真っ黒な体をして、感情の無い瞳孔が開いた目で黒田と未結を見て口を開けた。大きく開いた口を斜めにし、ワニは黒田と未結に横から挟むようにし、噛みつこうとした。未結は動けずに目をつむった。
ワニの口がとじられると同時に大きな音が響くのだった。
「ふぅ! おっきなワニさんだねぇ」
ゆっくりと目を開ける未結、彼女の前にレイと甘菜が立っていた。甘菜はタワーシールドを地面につけ全員をプラズマシールドで包み込んでいた。プラズマシールドの青白い光に照らされ二人を呆然と見つめる未結だった。
レイは黒田と未結を守るために、甘菜と一緒に瞬間移動をしてきたのだ。
「こいつはダークデイノスクスだ。ワニさんなんてもんじゃないぞ」
ワニを見て叫ぶレイだった。ダークデイノスクスは巨大なワニの魔物で、黒い皮膚は石のように硬く巨大な顎繰り出す噛みつきは頑丈な戦車なども簡単に破壊する。また、魔法も使いこなしヒールウォーターをという魔法を使ってただの水を癒しの水に変え自分自身を回復したりする。
「たっ助かった……」
「先輩。ごめん。俺がすぐに連絡してこっちに来るなって言わなかったから……」
「いっいえ…… 私こそ軽率でした」
警戒せずに池に近づいたことを、少し落ち込む未結だった。
「レイ君! ワニさんの噛むの強いよ」
「えっ!?」
ダークデイノスクスの咬合力はすさまじく、突き立てられた丸太のように太く三十センチはあろうかという巨大な牙がプラズマシールドをめり込んでいた。牙が突き立てられた青白い光の壁に、ヒビが入り蜘蛛の巣のような白い線が入っていく。
「レイくん。僕と一緒に射撃を」
「あぁ! 任せろ!」
黒田が二丁の拳銃を抜き、銃口をダークデイノスクスに向けた。レイはアサルトライフルを構える。
「皮膚は硬いですが口の中なら銃撃がとおります。レイ君は口の中を狙ってください」
「わかった。黒田さんは?」
「僕はこっちです」
黒田が飛び上がった。レイは黒田の指示通りに、ダークデイノスクスの顎の裏側を射撃する。彼が放った銃弾はダークデイノスクスの口内に穴をあけていく。
「そこ!」
二丁の銃を持った黒田は、飛び上がり両手を前に突き出した。彼の数十メートル先には、薄黄色の瞳孔が開いたダークデイノスクスの目があった。両手に持った拳銃の引き金を引く黒田、二発の銃声が同時に鳴り響く。彼が撃った銃弾はダークデイノスクスの左の瞳へ命中した。ダークデイノスクスのは目から血を流し、まぶたを閉じた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
声をあげダークデイノスクスはプラズマシールドから顎を離し、尻尾を巻いて振り向いて池の中へと逃げて行った。着地した黒田はレイの横へとやってきた。
「池の中に逃げましたね」
「きっと池の水をヒールウォーターで癒しの水に変えて治療するんだろう」
レイはアサルトライフルを、池に向かたまま黒田に答える。
「甘菜くん。如月くんを連れて少し下がってもらっていいですか?」
「はーい」
黒田は自分の前にいて盾を構える甘菜に指示を出した。返事をした甘菜はプラズマシールドを消す。
「先輩は弾を入れ替えて狙撃の準備をお願いします」
「わっわかりました」
甘菜と未結は下がり、池のほとりレイと黒田だけが残った。二人はジッと池を見つめていた。
「僕がエーテル反応弾で電撃を食らわせましょうか?」
黒田が顔を横に向けレイに提案をした。彼は首を横に振った。
「いやあいつは皮膚は電気に強かったはず…… ここは俺に任せください。準備が出来るまで池を警戒してください」
「わかりました」
アサルトライフルを構えるのをやめ、銃口の下に装備されているグレネードランチャーに装填の準備をする。彼が使うグレネードランチャーは前方の支点にした銃身を、横にスイングさせ銃尾から弾をこめる。レイは銃身をスイングさせると左手を太ももの装甲へと持っていく。
「シンシア。音響弾をくれ」
「ワカリマシタ」
装甲が割れたグレネード弾が出て来た。レイは左手でグレネード弾を持って装填する。装填したグレネードランチャーを構えるレイ。銃口を斜め上にむけ照準を池の中心の上に合わせる。
「ヤマさん…… いつもこうやって俺達を…… さぁ行きますよ」
レイはつぶやくとアサルトライフルの弾倉の前に取りけられた、グレネードランチャー用の引き金をひく。音がして弾が飛び出して行く。弾は池の中央で破裂した。
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンという甲高い音が響く。激しい音の振動でわずかに周囲の草木が震える。直後に……
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
口を開けて鳴き声を上げながら、池の中からダークデイノスクスが姿を現した。頭を空に向け尻尾を下にして池の中央に立つような姿をするダークデイノスクスはそのまま前に倒れてきた。
「逃げますよ!」
「えっ!? レッレイ君!? 瞬間移動を…… あぁ! もう!」
スラスターを点火していの一番に逃げ出してから、黒田に声をかけるレイだった。黒田も慌てて彼の後を追うのだった。二人がいなくなったところにダークデイノスクスは倒れて来て大きな音がした。
倒れたダークデイノスクスを上から黒田とレイは眺めている。
「音響弾ですか…… なるほどねぇ」
「あぁ。こいつらは聴覚が人間よりも優れてますからな」
「如月君に狙撃してもらいますか?」
「いや。先輩に動かない標的を撃ってもらうのは無駄遣いだよ。だから……」
アサルトライフルを腰にしまうとレイは、スラスターを止めダークデイノスクスへと向かって降下していく。
「悪いな俺の試験に使わせてもらうぜ!」
右手を空に向かって伸ばすレイ、彼の右手がわずかに青く光った。直後にレイの右手に太刀が握られた。レイは太刀を両手にもって切っ先が背中につくほど大きく振りかぶった。レイの視線に黒く光るダークデイノスクスの大きな体が迫って来る。
「はああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
レイは勢いよく太刀を振り下ろした。振りぬかれた太刀はダークデイノスクスの胴体を切り裂いていく。血が吹き出し、ダークデイノスクスの四本の足がわずかにけいれんした。ダークデイノスクスは中央で二つに切り裂かれた。
「ふぅ……」
地面についた太刀をレイは持ち上げる。大きく振って太刀の血を拭うのだった。
「お見事…… まったくすごい若者たちですよ」
真っ二つにされたダークデイノスクスを、見下ろしながら黒田はつぶやくのだった。




