第48話 希望を乗せた銃弾
早朝、甘菜とレイが事務所に出勤していた。二人が到着した時にすでに黒田はおり、自席で本を静かに読んでいた。最後に未結が事務所へとやって来た。
「おっおはようございます」
「おはよー!」
「おはよう」
「おはようございます。如月くん……」
未結が出勤してきて全員がそろう。最後に来た未結は、慌ただしく席に着く。少しして石川が部屋に戻って来た。ちなみに石川は彼らより先に出勤し早朝の会議を終えたばかりである。自分の席についた石川が静かにうなずいた。
「よし…… お前さんたち。ちょっと来てくれるか」
全員を自席に呼ぶ石川、彼が自席に隊員を呼ぶときは新たな任務がある時だ。レイ、未結、甘菜は少し緊張した面持ちで石川の元へと向かう。黒田はにこにこと笑って静かに笑っていた。四人が石川の机のまわりに集まった。
「これを見てくれ」
石川は机の上に一枚の紙を置いて、机の端へ滑らして皆が見えるようにした。四人は体を傾け紙をのぞきこむ。紙はチラシで盆踊りの櫓と提灯と屋台が描かれていた。
「えっと…… ツマサキ市開港夜祭り…… なんだよ。これ?」
チラシの上部にはツマサキ市開港夜祭という文字と、そのわきに二週間後の日付が記載されていた。チラシは祭りの案内のチラシだった。レイは顔をあげ石川にたずねる。
「見てのとおり夜祭だよ。港の開港記念日を祝ってのな……」
手を前にだしてレイに答える石川だった。レイの横に立つ黒田が顎に手を当て考えながらしゃべる。
「夜祭…… なるほど…… 今の桜木市長さんは野心家ですからねぇ。実績を作ってさらなる出世を狙ってるのでしょう」
「まぁそんなとこだろう」
椅子に座ったまま黒田を見上げ会話をする石川、二人の会話を聞いたレイが割り込んでくる。
「いやいや。何を納得してるんだよ。二人は! 夜行性のレインデビルズは意外と多いじゃないか? 祭りなんかしたらウジャウジャ町によってくることになるに決まってる!」
暗闇を好み夜に活動をするレインデビルズは多く、オーガやドラゴンなどの強力な魔物も夜行性だ。その為、ツマサキ市では夜の活動を制限しており、レインデビルズが近くに巣をつくった場合は、緊急事態宣言が発動され夜間外出を制限したりする。
「そうなんだけどな。市長がアークデーモンを討伐したんだから町の夜を取り戻した宣言をしたいんだそうだ」
「はぁ!? 夜を取り戻したって…… 結局は新しい魔の巣が発生するようになっただけじゃないか……」
市長の言い分にあきれるレイだった。房総半島の王アークデーモンは人類によって倒れされた。レインデビルズに負け続けてきた人類にとって、大きな一歩だったことは確かだ。しかし、現状はさしてかわらず町への襲撃頻度こそ下がっていたが、壁の外では新たな王になるべくレインデビルズたちは激しく争い危険度はより高くなっている。
「レイ、お前さんの気持ちは分かるが。万が一の事態にならないように我々が居るんだ。それに市長の言うことも一理はある」
「なんだよそれ……」
不服そうにするレイに石川は真顔で口を開く。
「とにかくもう決まったことだ。しっかり夜祭の警備してくれよ」
「わかりました。やればいいんだろ」
納得いかないという顔をするレイだったが、命令は素直に受ける。石川は彼を見て笑っていた。
「しっかりってことは私たちは……」
甘菜が自分を指さして寂しそうにする。石川は小さくうなずいた。
「うん。もちろん我々は開催中の三日間準夜勤で警備だ」
「そっか……」
うつむき残念そうにする甘菜だった。石川は残念そうにする甘菜、彼女がよっぽと祭りに参加したのかったのかと思い思わずほほ笑む。
「なんだい。甘菜ちゃんはそんなに祭りに参加したかったのかい?」
「えっ!? あっはい……」
「まぁ若者は浴衣とか着てはしゃぎたいよなぁ。すまんなぁ」
「いやぁ。ははは……」
少し驚いた顔で頬を赤くして返事をする甘菜だった。彼女をよく知っているレイが石川に声をかける。
「隊長。気にしなくていいですよ。どうせ姉ちゃんは屋台のメシを食えないのを残念がってるだけだから」
「なっなんで分かるの!?」
「ほらな。この食いしん坊!」
「レイ君!!!!」
顔を恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、両手をあげレイに向かって行く甘菜、レイは舌をだし彼女に背を向け逃げ出した。二人は狭い事務所で追いかけっこを始めるのだった。
「元気ですねぇ」
にこにこ笑いながら黒田は二人を見ていた。額を手で押さえて石川はため息をつく。
「はぁ…… それじゃあ、話は終わりだ。今日は…… なんだっけ未結ちゃん」
「はっはい。武器開発部に呼ばれてます」
「あぁ。そうだったな。みんな杏ちゃんのとこへ行ってくれ! 甘菜ちゃんとレイももう終わりにしろ」
「「はーい」」
レイと甘菜は立ち止まり石川に返事をした。今日の任務のため、四人は杏の元へと向かうのだった。
基地の地下に杏の部屋の前へとやってきた四人。鍵のかかった頑丈の扉の前で、レイが慣れた様子で扉の横のインターホンのボタンを押し杏を呼び出す。
「いらっしゃーい。いま開けるねぇ」
杏が返事をすると同時に扉が開く。四人は部屋の中に入った。部屋に入るとすぐに杏が立っていてレイの手を引っ張る。
「こっちだよ!」
「はいはい」
レイを引っ張っていく杏。彼女はレイを壁際に並んだ机の前に連れて来た。三人は二人の後に続く。
「はい。これの試験をしてほしいの!」
机の上を指した杏だった。彼女が指した机の上に弾薬ケースと、先端が尖った大きな円筒の一発の銃弾が立っておかれていた。机の上に置かれた銃弾は、未結が使うライフル弾と同型の銃弾だ。なんの変哲もない銃弾を見た、レイはいぶかしげに眉間にシワを寄せた。
「なんだ…… ただのライフル弾じゃないか?」
「違うわよ! これは魔の巣消滅弾!!! 発生した魔の巣を消すための銃弾なの!」
怒り気味にレイに向かって答える杏だった。二人の後ろで様子を見ていた黒田が口を開く。
「消滅弾…… 確か以前にも雨雲を消そうと試みたことがあったはずね。エーテルの炎を使って蒸発させて水蒸気に戻そうとして失敗したはずです」
「あぁ。それは普通の雨雲の対応だからね。魔の巣は違うのよ。魔の巣はエーテルが混じった大気だからね。エーテルの炎を使うとエーテルに反応して逆に魔の巣が発達しちゃうのよ」
「これは違うと?」
黒田の言葉を聞いた杏が彼の方を向いて小さくうなずいた。
「うん。東京湾第三ゲートから運んだ。アウルベア…… あれはエーテルがアウルベアの体を保存してたわ。同じように魔の巣もエーテルが作ってるなら」
「つまり保存の逆を行えば魔の巣は消滅するってことですか……」
「そうなの。魔の巣からエーテルを抜けば魔の巣は消えるはず……」
「抜くってどうやってですか?」
白衣のポケットに手をいれた杏、彼女はポケットから何かを取り出した机に置いた。彼女が取り出したのは、磨かれたように光る小さな黒い石だった。
「魔石ですか……」
「そう魔石よ。魔石はエーテルを付着させ他の異物を透過させるでしょ。この弾の中には魔石を一ミリ以下まで砕いた粒にしていれてあるの」
「魔石を核にして強制的に雨を降らせてエーテルを抜くと」
「そう! 黒田のおじさんはやっぱり理解が良いわね」
笑顔で黒田を指して笑う杏だった。しかし、杏の笑顔はすぐに消え真剣な表情に変わる。
「ただ…… 問題がね。雨が降るともちろん……」
「レインデビルズも一緒に降ると」
「確証はないけど多分ね……」
レインデビルズは雨とともに現れる魔物。雨が降らせて雨雲を消滅させようとすれば、雨と一緒に魔物が降って来るだろうと杏は予想していた。
「でも、雨が降って結局レインデビルズは出て来るんだろ? 弾の意味はあるのか?」
「あるわ。魔の巣は台風みたいなもの。大きく成長すれば巨大な魔物が小さいうちは小型の魔物が降って来るの。大きく成長する前に消滅させられれば被害は当然小さくなる。それに……」
うつむいて杏は少し寂しそうな表情をした。
「魔の巣が町に近づく前に消せれば桃も…… 本当に必要な時以外は結界を張らずに済む……」
桃とは杏の妹で、魔の巣の侵入を防ぐ結界を張れる巫女だ。彼女は魔の巣が発生し町に近づけば、どのような状況であっても結界を張ることを強制される。幼い彼女の体には相当な負担がかかっており、杏は姉として妹の負担を減らしてあげたかったのだ。
「わかったよ」
レイは杏の頭を撫でるのだった。うつむいたまま杏はバレないようにニヤリと笑った。杏の頭から手を離したレイは首をかしげる。
「でも…… なんで俺たちなんだ? 桃ちゃんの負担を減らすなら担当の第一師団とかを使えばいいのに……」
「えっと…… それはレイお兄ちゃんたちは優秀だから! 私が指名したの!なんせアークデーモンを討伐した町一番の部隊だよぉ」
作った笑顔で必死に、レイたちを褒める杏だった。彼女の態度を見ていた、黒田は納得したように力強くうなずく。
「いやぁ。レイくん。おそらく他の部隊はこの実験を受けてくれなかったんですよ。自らレインデビルズを発生させるなんて危険な試験ですしね。実験の許可がよく下りたものですよ。もしくは強引に……」
「えっ!? いや。さっさぁ……」
とぼけた表情をする杏だった。冷めた目で彼女を見つめるレイが口を開く。
「そっか…… クソ! 隊長か! 杏ちゃんに泣きつかれるといっつも言いなりになるからな」
「もっもしくは私の兄ですね」
レイに続いて未結が口を開く。特務第十小隊の隊長と武瑠は、杏に泣かれるとわがままを簡単に許すのだ。
「ほほぉ。それはそれは二人とも後で締めときましょう」
黒田は二人にうなずいてにやりと笑う。杏は気まずそうに口を開く。
「まぁ…… そういうことで…… よろしく!」
ごまかすような笑顔で、杏は四人に手を振るのだった。レイたちは魔の巣消滅弾の試験へと向かうのだった。




