第46話 おかしな時代に生きる
食堂の前で待機していたレイに黒田が合流した。食堂は半開きで灯りがなく真っ暗で中は見えない。食堂は最下層にある船を横断する通路の中央付近にあり、二人は食堂の扉の左右に分かれ壁に背をつけ立って居る。レイは扉に近づき右手を扉に当てた。
「俺が扉を開けますから飛び込んでください」
「僕が先でいいのかい?」
「はい。狭い場所なら拳銃の方が有利だからな」
「わかりました」
黒田は手に持った二丁の拳銃を天井に向けた。レイは黒田を見て小さくうなずき口を開く。
「行きますよ。イチ、ニ、サン!」
掛け声と同時にレイは食堂の扉を開けた。黒田は両手に持った拳銃を前に向けたまま室内へと飛び込んだ。黒田は銃身の下についたライトで食堂を照らす。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「そこ!」
照明の灯りの中に突如サハギンが現れた。距離を詰めて来たサハギンが槍を黒田に突き出す。しかし、黒田は素早く反応し、左手に持った拳銃で槍が届く前にサハギンの頭を撃ちぬいた。銃声が轟き、突き出された槍が黒田の鼻先に届く直前にサハギンは膝をついてゆっくりと倒れた。
「えっ!? あっあぁ……」
倒れたサハギンの後ろに冬羽がしゃがんでいた。彼女は制服のスカートを破かれた状態で、中に履いた短パンをずり下され白い下着が丸見えだった。黒田を見た冬羽は怯えた様子で言葉がうまくでないようだった。
「あっあぁ……」
「後ろ!?」
必死な様子で冬羽が背後を指した、敵がいるのかと慌てて黒田が拳銃を持ったまま振り向く。しかし、彼の背後にはサハギンはおらず、彼のライトは、腹を膨らませ寝かされた春奈の側に、寄り添うようにして座る美里を照らす。
「なんだ……」
銃を下ろす黒田だった。直後にレイが打刀に手をかけた姿勢で部屋の中へと入って来た。
「こりゃあひでえな」
食われた英翔と男子生徒の死体を見つめつぶやくレイだった。彼はゆっくりと美里の元へと歩く。
「大丈夫か?」
レイは床に座り込んでいた美里に向かって手を出して声をかける。必死に声を出そうとしていた冬羽の声がようやく出るようになった。
「ダメ!!! 違う! そいつは違う! そいつよ! 私たちをこんな目に合わせたの!!」
冬羽の言葉にレイはすぐに手をひっこめた。苦々しい表情を冬羽に向ける美里。黒田は美里の表情の変化を見て小さく息を吐いた。
「どういうことだ? 彼女の言うことは本当か?」
「違いますよ。うちの生徒は混乱しているんですよ」
ほほ笑み冬羽に優しい目を向け答える美里だった。レイはジッと美里の全身を見つめていた。特に首のまわりを彼は見つめていた。
「レイさん! 上ですよ!」
「はっ!?」
顔をあげ天井へ目を向けるレイ、そこにはサハギンが一体トカゲのように張り付いていた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
声をあげサハギンは槍を突き出した姿勢で、レイへと向かって飛んで来た。
「さよならだ!」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
レイは体が消え、黒田に迫って来たサハギンの横へ来た。打刀を素早く抜いて右腕を引き切っ先をサハギンの腹へ向け突き出した。サハギンの腹を打刀は貫いた。レイはスラスターを点火してサハギンを貫いたまま壁まで飛び、壁にサハギンを打ち付けたのだった。レイは打刀から手をはなし着地する。
「そうですか…… 彼女は……」
「ふぅ…… あんた……」
腰の後ろに手を回し、美里に体を向けコンバットナイフに手をかけるレイ、黒田は銃口を美里に向けた。
「ユースフルアンブレラだな」
「ユースフルアンブレラですね」
二人の声がそろった。美里は笑ったまま静かに立ち上がった。
「ふふふ…… 私は聖獣様の御子を宿した選ばれ者…… うッ……」
腹を押さえてうずくまる美里だった。
「ううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!」
口に手を当て悶え苦しむ美里、彼女の腹がどんどんと膨らんでいく。必死に苦しいのか彼女は自分の服を引っ張る張り出した腹に圧迫されていた服は彼女の力でも簡単に破けた。
銃を構えたまま黒田は冬羽の前に立つ、彼女を守ろうというよりは視界を塞ぐのが目的だった。服の下で膨らんだ美里の腹は皮膚が薄くなり青い線のような物が浮き出て来た。腹の上には傘と十字架が交差するペンダントが乗っていた。
浮き出た線は徐々にはっきりとなっていく、それは小さなサハギンだった。産みつけられたサハギンの卵は生物の体内で孵化し共食いを繰り返し最後に生き残った一体がとある方法で外へ出て来る。
「うっ生まれる…… 私の中から聖獣様の力が目覚め…… グバアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
小さなサハギンが美里の腹を食い破って飛び出してきた。美里は後ろにのけぞった姿勢で倒れた。地面へと落ちた小さなサハギンは血だらけ青いうろこが真っ赤に染まっていた。何かを探すように動いたサハギンは食い残された英翔へと向かって走り出す。
「チッ!」
「僕に任せてください。あなたは彼女を!」
小さなサハギンを追いかけようとしたレイを黒田は止めた。レイはサハギンを追うのを止め美里の元へと駆け寄る。直後に銃声がして小さなサハギンは銃弾によって頭を吹き飛ばされたのだった。
レイの目の前は恍惚な表情を浮かべ口から血を流す美里の姿だった。膨らんでいた腹はへこみ、縦に裂かれたように破れた皮膚から大量の血が流れている。レイは自分の右手を彼女の手に当て傷を押さえ止血する。
「姉ちゃん! 救命道具を持って食堂に来てくれ!」
必死に美里の腹を押さえるレイ、黒田が彼の元へと駆け寄る。
「なっなんでそんなやつを助けるんですか!」
座ったままレイたちに向かって叫ぶ冬羽だった。レイは淡々と彼女に声たる。
「決まってるだろ! こいつをここで殺したら動機も何も解明できねえ。生かして話を聞くんだ! ユースフルアンブレラの……」
「そっそんな……」
レイの話を聞いて頭を押さえて首を横に振る冬羽。彼らの行動が理解できないといったようすだ。
「おかしいですよねぇ。あなた達を辱めたやつを最優先で救うなんて…… でも残念ですけど…… 今は少しおかしい時代なんです」
黒田が冬羽の後ろへとやってきて肩に手をかけた。少しして甘菜が食堂へと飛び込んで来て必死の救命作業が続いたのだった。
しばらくして…… ビューティアプリコット号の甲板には一機のV428が着陸していた。四台のストレッチャーに春奈と女子生徒と女性作業員と…… 美里が乗せられている。
「異世界生物による強制産卵です。処置をお願いします」
「わかりました……」
四台のストレッチャーの前で、戦闘服を着て左腕に赤い十字の腕章を付けた男性と甘菜が、言葉をかわしていた。腕章をつけた男性は番傘衆の特殊医療班の班員だ。特殊医療班は通常の怪我ではなく、レインデビルズからの魔法による状態異常や強姦や産卵などの、特別な処置が必要な治療を担当する医療班だ。
春奈たちはV428へと運ばれていった。閉まるハッチを見つめる冬羽だった。彼女は毛布をかけられ、少し前にレイと黒田の二人が護衛として立って居る。
「はっ春奈さんたちと先生はどうなるんですか?」
「先生は救命処置だな。他の子たちは卵の死滅処置が間に合わなければ手術して卵を取り出す。処置後に社会復帰できても名前は変えることになるだろうな…… それだけだ」
「まぁそれも全てうまくいけばです…… 特に先生は生き残れても終身刑か極刑でしょう。あと…… 子宮に卵を産み付けられた彼女はおそらくもう妊娠は……」
冬羽の問いかけにレイと黒田が答える。目を大きく冬羽の顔が青ざめていく。
「そっそんな…… なんでこんなことに……」
両手で口を覆い悲しそうに目に涙を浮かべる。
「さっきも言いましたが…… 少しおかしい時代なんですよ。あっ!! でも彼女たちの犠牲でまた船の警備体制が見直されますね……」
「そっそんな…… なんですか! 他人事みたいに!」
黒田に向かって叫ぶ冬羽、レイは振り向き彼女に顔を近づけた。
「他人事じゃねえ!!!! 俺たちは戦って必死に正常に戻そうとしてる!! お前こそ何をやってきたんだよ!!!」
「ヒッ!」
冬羽はレイに怒鳴りつけられて涙を流す。レイの後ろから甘菜がやってきて彼の肩に手をかけた。
「レイ君…… ダメだよ」
「あぁ。ガキに言ってもしょうがねえな。わるかったよ」
適当にレイは冬羽に謝っていた。彼女は怯えた様子でレイを見つめていた。
「もう…… ガキって私たちと年はあまり変わらないでしょう……」
「フン」
「ごめんねぇ。レイ君は素直じゃないけど本当は優しい人なんだよぉ」
「うるせえな!」
腕を組みそっぽを向くレイだった。甘菜は泣きそうな冬羽をなぐさめるのだった。ビューティアプリコット号で起きたサハギンによる襲撃事件はこうして幕を下ろしたのだった。




