第36話 ベータ覚醒
迫ってきたアークデーモンを見つめるレイ、少し前には盾を構えて自分を守ろうとしてくれる甘菜の背中が見える。二歳年上で人生の先輩ではあるが、番傘衆としては後輩であるはずの彼女の背中が頼もしく見える。レイは左手を太刀から外し胸に持っていきつぶやく。
「信じろか…… やってみる! 姉ちゃん! あいつの相手よろしくな!」
「えっ!? ちょっと!?」
アークデーモンが目の前に到達し、青龍刀を振りかざした直後に瞬間移動を発動しレイの姿が消えた。一人取り残されてしまった甘菜だった。しかもアークデーモンの青龍刀は、彼女に向けて振り下ろされていた。彼女はとっさにタワーシールドを上に向け青龍刀を受け止める。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
雄たけびをあげ青龍刀を甘菜に叩きつけるアークデーモン。甘菜のタワーシールドとアークデーモンの青龍刀がぶつかり激しい音が響き衝撃で火花が散る。衝撃で甘菜の体がわずかに沈みディスプレイの画像がぶれる。足は地面にめり込むように沈んでいく。
「くぅ! ひどいよ! 置いていって! レイ君! 後でアイスおごらせてやるんだからあああああああああ!!!」
全身に力を込めてタワーシールドで青龍刀を押し返す甘菜だった。全身に力を込める甘菜の体が青白く光り出した。光はパワードスーツを一緒に光らせていく。アークデーモンは光り出した彼女の姿と自分の青龍刀があっさりと受け止められたのが、想定外なのか目を大きく開き驚いた顔をしていた。
青白く光り甘菜はタワーシールドを強く前に押し出した。アークデーモンの青龍刀は甘菜に押し返されてていく。
「ウリャアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ウガアアアア!?」
力強く押し出されたタワーシールドはアークデーモンの青龍刀を弾き返した。右手を上にあげた姿勢で後ずさりするデーモンの目の前にレイが姿を現した。
「姉ちゃん! ご苦労さん!」
前を向いたまま、甘菜に左手をあげレイは飛び上がった。太刀を横に構えたレイはアークデーモンに向かって水平に剣を振りぬく。彼に気付いたアークデーモンは必死に体をそらして太刀をかわそうとする。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
太刀はアークデーモンの胸を水平に斬りつけた。分厚い鎧のようなアークデーモンの筋肉をレイの太刀は、十センチほどの深さで切り裂いた。
「浅かったか。クソ!」
太刀を振りぬいたレイ、アークデーモンはすぐに姿勢を戻し、青龍刀で横から彼を薙ぎ払う。レイは太刀を縦にして左手を刀身にそえ青龍刀の軌道に持っていく。
「グゥ!!!」
激しい音がしてレイの太刀にアークデーモンの青龍刀がぶつかりあう。レイのパワードスーツのスラスターが激しく火を噴きだし、アークデーモンの青龍刀は受け止められた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
声をあげアークデーモンは、青龍刀を押し込む。必死に抵抗するレイだったが徐々に体が後ろの下がっていく。
「そう簡単にはいかねえな…… クソおおお!!」
レイは甘菜の助言に従い自分なりに自分を包む、ベータを信じてみたが結果は変わらなかった。アークデーモンの青龍刀は、振りぬかれレイは太刀を弾かれ地面に叩きつけられた。太刀は手から離れて回転して地面に突き刺さった。
「ちきしょうが…… はっ!?」
すぐに起き上がり太刀を探すレイのディスプレイがすぐに暗くなった、地面にはわずかな月明りに照らされた大きなが影が覆う。
顔を上げたレイに見えたのは、青龍刀を背中に届くほどに振り上げたアークデーモンだった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
レイが瞬間移動で逃げようとする間もなく、叫び声と同時に青龍刀がレイに向かって振り下ろされた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
呆然とするレイ、目の前で自分を見ていた、アークデーモンの顔が突如として歪んだのだ。巨大で棘とスラスターがついたモーニングスターがアークデーモンの顔に横からめり込んでいた。スラスターの火を噴きだし、アークデーモンは横から殴られたようにな顔を右横に向けよろめく。
「今だよ! こっちに来て!」
「ねっ姉ちゃん…… ありがとう」
レイの目に右腕をアークデーモンに、突き出したような姿勢の甘菜が見えた。彼女はモーニングスターをアークデーモンに投げつけレイを救ったのだ。レイはすぐに甘菜の元へと瞬間移動する。
「はぁはぁ」
甘菜の横に来て両膝に手をつき、激しく息をするレイに甘菜は心配そうにのぞきこむ。
「大丈夫?」
「あぁ。ありがとう…… 姉ちゃんみたいにうまく出来ねえな。やっぱり反応強度の差だな」
首を横に振るレイに、甘菜は顎に手を置き首をかしげるのだった。その仕草はレイの言葉を否定したいように見えた。
「うーん。違うかなぁ。反応強度じゃないよ。どれくらい信頼するかだよ。レイ君はまだ自分は信じてるけどベータちゃんを信頼してないよ」
「信頼してるさ……」
「どうだろう? もっと強くなれってお願いしなよ」
強くなりたいと願えと言う甘菜にレイは少し困惑した様子で答える。
「お願いってそんなことで強くなるわけ………」
「なんで? エーテルは意思の強さに反応するんだよ。レイ君が素直になっていっぱい強くなりたいって思えばなれんだよ。私はお願いしたよ…… だって…… 守りたいもん。自分の大事な……」
甘菜はジッとレイを見つめた。レイはうつむきジッと考えこんでいた。
「そうか…… わかったよ。相棒! 行こうぜ。俺にも守りたいもんがあるんだ」
顔を上げたレイはにっこりとほほえむと姿を消した。瞬間移動で太刀の元へと移動し、地面にささっていた太刀を素早く引き抜くと再び姿を消した。
直後にレイはアークデーモンの前に姿を現す。左手で甘菜のモーニングスタをぶつけられたほおを、押さえていたアークデーモンはレイに気づきにらみつける。
「よぉ! こんどこ負けねえぜ!」
レイは太刀を両手に持ち切っ先をアークデーモンに向けまっすぐに構えた。アークデーモンは左手を頬からはずすと青龍刀を右手でかるく回すと両手に持った。
「俺は守りたいんだ…… 姉ちゃんを…… 先輩を…… みんなを…… だから頼む。もうヤマさんや悟みたいに人が死ぬのはいやなんだ!」
レイがつぶやくとわずかに彼の全身が青白く光りだした。
五メートルほどの距離をあけレイとアークデーモンは対峙する。静まり返った住宅街にわずかに東京湾の波の音が届き二人の間を潮風が通り抜けていく。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
先に動いたのはアークデーモンだった。一歩前に出てレイとの距離を取ると、アークデーモンは彼に脳天に向けて青龍刀を振り下ろした。
鋭く伸びてくる青龍刀を見つめているレイのパワードスーツが青白く光を放つ。
「レイ君……」
心配そうにレイの名前をつぶやく甘菜……
振り下ろされた青龍刀が、叩きつけられた衝撃が周囲へと広がっていく。彼女の足元の地面が震え、巻きあがった砂埃が目の前のディスプレイの視界を遮っていく。
アークデーモンは手ごたえがあったのか口元を緩ませる。甘菜は目を潤ませジッとレイが居る方を見つめていた。
「ふふ」
ディスプレイを涙目で見つめていた甘菜が口元を緩ませる。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!?」
声をあげるアークデーモン。青白く光り輝くレイは、右手を上に掲げ太刀を水平にして青龍刀を簡単に受け止めていた。光は徐々に強くなり青龍刀によって巻き起こった砂埃を振り払う。
「うん。大丈夫そうだね。はぁ…… お姉ちゃんにももっと素直になってくれると嬉しいんだけど……」
青龍刀を受け止めて立つ、青白く光るレイの姿を見て嬉しそうにほほ笑む甘菜だった。




