第34話 降り注ぐ怒り
未結が撃った銃弾がアークデーモンへ届く直前。アークデーモンは青龍刀を銃弾の軌道へと持って来た。激しい音がして青龍刀と銃弾がぶつかった。銃弾の威力でアークデーモンは後ずさりし、青龍刀を持っていた腕は上に弾かる。青龍刀とぶつかった銃弾は弾かれ、近くの建物を斜めに貫通し地面へとめり込んでいった。
「また外れた…… いや…… 防がれたましたね」
悔しそうにつぶやく未結、アークデーモンはニヤリと笑って左手を未結に向けた。アークデーモンの目が、怪しく紫色に光りだす。
「キャアアアアアアアアア!」
未結の頭に何かがうごめく気持ち悪い感覚が襲う。悲鳴をあげて膝をつく彼女はスナイパーライフルから手を離す。スナイパーライフルはストックを下に向け銃口を上に向けた状態で床に落ちた。
「先輩!」
慌てて未結に駆けよろうとするレイだった。しかし、顔をあげ未結は右手を頭に置き、左手をレイに向け大丈夫だと返事する。
「させません! シンシアさん! エーテルファイアウォールを起動してください」
「ハイ」
「相手のメンタルポートを特定してエーテルパケットを発射! オーバーフローさせてください」
「リョウカイデス」
未結の目が青白く光り出す。番傘衆は異世界の魔物と対峙する彼らは多種多様な魔法を使う。中には人間の精神を利用し幻覚を見せたり体を乗っ取ったりする。エーテルファイアウォールは、パワードスーツの中の人間に作用する魔法を遮断するシンシアのプログラムの一つだ。エーテルパケットは精神魔法に対する対抗手段の一つで、魔法でつながろうとする相手の精神に、逆に多量の偽情報を投げることで精神を混乱させる。
激しく未結の目が青白く点滅する。アークデーモンは彼女の中に侵入し、再度、千里眼を利用して杏の元へ行こうと目論んだのだ。しかし、その計画は失敗に終わる。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
エーテルパケットの偽情報が大量にアークデーモンの精神に流れこんだ。混乱したアークデーモンは、叫び声をあげ首を何度も横に振るのだった。
「はぁはぁ。同じ手は使えませんよ」
膝に手をついた未結がゆっくりと立ち上がり満足そうにアークデーモンを見てつぶやく。レイは装甲車両の速度を落とし、チラッと彼女を見て声をかける。
「先輩。大丈夫か?」
「はい」
手を離し床に落ちたスナイパーライフルを拾い、未結は悔しそうにアークデーモンを見つめる。
「またかわされてしまいました……」
「きっと学習しているんだろ。なかなか狙撃されて生きてるやつもいないからな……」
レイは淡々と答える。アークデーモンは資材置き場で未結に狙撃されたことで、彼女の射撃パターンを学習し銃弾を回避しているのだとレイは推測していた。
「でも、未結ちゃんでも狙撃できないってなったらどうするの?」
車体の後部に居る甘菜が二人の会話に入って来る。レイは甘菜に顔を向けすぐに前を向く。左手で頭を押さえて苦しむアークデーモンを見つめ彼は真顔になった。
「だったら誰かがあいつを押さえればいい」
「押さえるって?」
「あいつを動けなくしたら絶対に当たるだろ」
視線を床に置かれた太刀へ向けるレイ、アークデーモンを自分が押さえ込み、そこを未結に狙撃してもらうつもりのようだ。
「レイさん!? ダメです。危険です!」
自らがアークデーモンの前に出て止めるという、レイの意図を察した未結が止めた。
「大丈夫…… 無理はしない。それに……」
未結に顔を向けるレイ、彼の視線を彼女が持つスナイパーライフルに向ける。
「先輩なら相手を少し止めたら仕留めてくれる…… だろ?」
「レイさん……」
二度狙撃を失敗した自分を信頼してくれるレイ、未結は持っていたスナイパーライフルを強く握る。
「わっわかりました。アークデーモンを押さえてください。私が決めます」
右手の親指を立て未結に向け返事をするレイだった。レイは操縦席から出て太刀を持って肩にかついだ。彼は甘菜の横へとやって来た。
「じゃあ姉ちゃんは先輩の護衛に……」
「いや。私はレイ君と一緒に行く。お姉ちゃんだもん。弟を守らないと!」
即、首を横に振ってレイの側に居ると宣言する甘菜だった。
「なっ!? でっでも…… 危ないし先輩に敵が近づいたら……」
甘菜の言葉にレイは未結に説得してもらおうと彼女に視線を向けた。しかし、レイの意図とは違い未結は大きく首を横に振った。
「私は一人で大丈夫です。私は二人の先輩ですから!」
胸を張って得意げに答える未結だった。甘菜は未結を見てにっこりとほほ笑んでレイに口を開く。
「だってさ。レイ君!」
「もう…… 勝手にしろ!」
あきれた様子のレイに、甘菜と未遊の二人は笑顔になるのだった。
「「「!!!!」」」
三人が顔をあげたとつじょとして周囲が赤い光に照らされたのだ。強烈に照らす赤い光はディスプレイ越しに見て目がくらむほどであった。
「あれって!? ファイアーボールか。すげえ数だな」
空を見上げ呆然つぶやくレイに未結が必死に叫ぶ。
「違います。あれはメテオインフェルノです!」
レイ達から数十メートル上空アークデーモンが両手を上にあげた状態で浮かんでいた。アークデーモンのさらに上空から、直径を十メートルを超える無数の巨大な火の玉が落下してきた。これはアークデーモンが使う最大の攻撃魔法メテオインフェルノ。呼び寄せた火の玉が流星となり半径一キロほどの範囲のすべての物を焼き尽くす。
「レイさん! すぐに後退をしてください!」
「無理だ。間に合わない! 視界の共有を!」
「リンクシステムはエーテルファイアウォール起動後の再起動中です。すぐには……」
「チッ!」
装甲車両を動かして逃げようと指示する未結だが、迫りくる火の玉から逃げるにはもう時間がなかった。
「身をかかがめてショックに備えてください!」
装甲車両の車体をつかみしゃがみように指示をする未結だった。だが、甘菜は一人で装甲車両を降り盾をかまえる。
「甘菜さん!? 何を!?」
「大丈夫! 二人ともそこに居て!!!!」
「いくら甘菜さんでもあれは……」
「なーに! お姉ちゃんに任せなさい!」
胸を張る甘菜だった。レイは太刀を装甲車両の床に置くと甘菜の隣に立った。隣に来たレイに甘菜は声をかける。
「レイ君? 危ないよ! 後ろに隠れて!」
「ちょっと行って来る。すぐに戻る」
「えっ!? なに!?」
右手をあげたレイの姿が消えた。すぐに彼は一体のパワードスーツと共に戻って来た。彼は装甲車両にパワードスーツを乗っけた。乗せられたパワードスーツを見て未結が口をひらく。
「これってヤマさん……」
「あぁ。後で回収するって約束だったからな……」
レイはヤマさんを回収をしに瞬間移動をしていた。
「姉ちゃん! あとは任せたぞ」
「うん!」
大きくうなずいた甘菜は前を向き盾を地面につける。空からはうなりあげて猛スピードで落下する火の玉が三人に迫って来ていた。
「大丈夫…… 私が二人を……」
震える手で必死に盾を持つ甘菜。年長者として強がっていたが、地獄の業火のように燃え盛る流星を自分の力で防げるか甘菜は不安だったのだ。
盾を持つ甘菜の手の上にそっと誰かの手が伸びてきた。驚いた甘菜が横に顔を向けた。
「レイ君!?」
「姉ちゃんはすぐに強がるからさ…… 一緒にいてやるよ」
「プク! 生意気! でも…… ありがとう」
「来るぞ!」
前を向いた甘菜の目が青白く光り出す。同時に彼女が持っていたタワーシールドの左右から、地面に青白い光の線が引かれていく。左右十メートルほど光の線が伸びると光の線はせり上がり光の壁プラズマシールドが現れた。プラズマシールドは空に伸びて行きながらゆっくりと曲がり、レイと甘菜と装甲車両を包みこんでいきドーム状の形になった。
「グっ!」
「「キャッ」」
メテオインフェルノの流星がプラズマシールドに直撃した。激しい爆発が起きて衝撃で地面が揺れる。何度も何度も激しく流星が三人へと降り注ぐのだった。




