婚約者
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからしばらくは勉強や剣術の稽古などをこなしつつ、特にゲーム関係の進展はなく日々は過ぎて行った。攻略対象はあと3人いるのだが、今会ったとしても特に出来ることはないと思ったので放置している。
現在シャルルは12歳。最近はとあることに頭を悩ませている。
「婚約者かぁ。王子は大変だな」
そう、こんなでもシャルルは王子であり第一王位継承者。
本来ならばとっくに婚約者を決めて王妃教育を始めていなければならないのだが、シャルルが泣いて拒否し続けたため未だに決まっていない。
しかしもうじきシャルルも公務に参加し始める予定であり、「いい加減婚約者を決めなさい」と母であり王妃であるデルフィーヌから笑顔で圧をかけられた。
父であり王であるマクシミリアンからは「ある程度の教養のある娘であれば好きな子を選んでいいから」と優しく言われたが、基本的にデルフィーヌに頭が上がらない彼は「まだ決めなくていい」とは言ってくれなかった。
両親が正式に婚約したのは18歳の時だったらしいが、当時の社会情勢的問題等々でその歳まで婚約しなかっただけで実際は5歳の時からデルフィーヌが王妃になることは決まっていたらしい。
お互いに一目惚れだったらしく、今でも2人はシャルルがたまに困るほど仲が良い。
「そもそもシャルル殿下って女の子と会うことあるのか?」
「女の子どころか同年代はエリックとエルネストくらいしか会ったことない。そんな状態で好きな子選んで良いって言われてもねぇ」
「確かに」
剣術の稽古の後、元気のないシャルルにエリックが何かあったのか尋ねるとそんな返事が返ってきてエリックは苦笑した。
「じゃあ『誰』というのは一旦置いておいて、『どんな子が良いか』から考えてみれば? 可愛い子とか優しい子とか」
「可愛さも優しさもカロリーヌに勝てる子がいるとは思えない」
「まずカロリーヌ殿下と比べるのを止めろ。基準が高すぎる」
「え? 何? カロリーヌのこと好きなの?」
「違う。バカなこと言ってないで婚約者のこと考えろ」
「う゛う゛う゛……」
別にシャルルは結婚したくないわけではないし、自分の立場も理解している。それでもこれからの人生を共に生きる相手だ。「決めろ」と言われて「じゃあ」と言って決められたら苦労しない。
せめて唯一出された教養のある女の子という条件で絞ろうとデルフィーヌに候補を訪ねたところ、伯爵家以上の令嬢なら大丈夫だと言われ全く絞れなかった。
(それに万が一僕がゲーム通り死んでしまったら……ん? そういえば……)
いた。ちょうどいい相手が。
「オレが知ってる子何人か紹介してもいいけど」
「ありがとう! けどたぶん大丈夫!」
「お、おう? 急にどうした?」
「相手が見つかった」
「いやなんでだよ」
「んー、ちょっと上手く説明できないんだ。とりあえず母上のところに行かなきゃいけないからまたね!」
「よくわかんねーけど良かったな?」
「ありがとう!」
シャルルは困惑するエリックを置いて、すっきりした顔でデルフィーヌの下へと向かった。