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代替イベント?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 訓練場の片隅で、シャルルとエリックは模擬剣を構えて向き合った。


「では始め!」


 ドナシアンの号令で、まずエリックが動いた。エリックはシャルルに駆け寄り剣を振りかぶる。シャルルはその頭上に振り下ろされた剣を難なく往なし、そのまま一回転してエリックの脇腹を狙う。エリックもそれを読んでおり、危なげなくそれを受け止めた。

 5歳児らしくたどたどしくはあるが、ちゃんと教えたことが身についている2人を見てドナシアンの顔が緩む。周りの騎士達も小さな2人の打ち合いを微笑ましく見守っている。


 しばらく打ち合いが続いたが、子供の集中力などそう長く持つはずもなく。エリックに隙ができた瞬間をシャルルは見逃さず大きく振りかぶった。

 しまったと思った時には既に剣は目の前に迫っており、やられるとエリックが覚悟した瞬間、何故かシャルルの動きがピタリと止まった。エリックはそれを不思議に思う余裕もなく、夢中で剣を振り払いシャルルを横なぎに弾き飛ばした。


「そこまで!」

「ぴゃあああぁぁい゛たいぃぃぃ!!」


 号泣するシャルルにエリックは焦っておろおろとしているし、周りの騎士達はシャルルを宥めるべきかと迷っていたが、シャルルをよく知るドナシアンや護衛騎士たちは特に慌てることはない。

 ドナシアンは慣れた様子でハンカチを取り出すとエリックに渡して目で促した。エリックは戸惑いながらも受け取ったハンカチでぐしぐしとシャルルの顔を拭く。

 驚いて泣いてしまったシャルルだが、ちょっと払われて転んだだけなので痛みはもうない。目の前で心配そうに自分を覗き込むエリックを見て、シャルルはハッとした。


(これ、下手したら僕がトラウマになるやつじゃない!?)


 恐らく初めて同じくらいの歳の子と打ち合いをしたら、その子を吹っ飛ばして泣かせてしまった。更にプラスその相手が実は王子だったという嬉しくないオマケ付き。


(それは不味い!!)


 シャルルは最悪の事態を想像して蒼褪めた。せっかくコルヌイベントをクリアしたのに自分が新たなトラウマになってしまったら本末転倒だ。


「ひっく……えと、ぐすっ、お、驚かせて、ごめんね」


 シャルルは泣きながらもなんとかエリックに話しかける。


「まだ痛い?」

「ううん、ちょっと、すん、驚いただけだから、もう平気」


 シャルルの返事にエリックはほっとした顔をした。それを見てシャルルもとりあえず危機は脱したと安堵した。


「相手をしてくれてありがとう。エリックは強いね」


 笑顔でそう言われてエリックの顔が赤く染まる。周りの大人達が微笑ましく見守る中、ドナシアンだけがため息をついた。


「最後エリックに隙が出来た時、振りかぶった後動きを止めましたね?」


 ドナシアンの言葉にシャルルはぎくりとし、そろそろと見上げる姿にドナシアンは再度大きくため息をつく。


「悪い癖ですね。最近は無かったので治ったと思っていたのですが」

「う、先生相手なら思いっきり打ち込んでも平気だから出来るけど、エリックはわからなかったから。頭狙っちゃったし」

「狙いは良いですが、そこで躊躇ってしまえばそれが命取りになるんですよ?」

「う゛ぅぅ、でも、叩かれたら痛いし……」

「叩かなければ逆に叩かれますよ? それに相手も覚悟して挑んでるのですから、躊躇うのは逆に失礼です」

「う゛ぅぅ」

「頑張って慣れていきましょうね」


 シャルルもそれは分かっているのだが、反射的に躊躇ってしまう。ドナシアンもそれは分かっているので、注意はしつつもあまり強くは言わず、素直に頷くシャルルの頭を優しく撫でた。

 撫でられて嬉しそうにふにゃりと笑ったシャルルの手を突然エリックがぎゅっと握ったため、シャルルはぱちりとひとつ瞬いて不思議に思いながらエリックを見つめた。


「オレがシャルルを守るから、オレのお嫁さんになってください!!」


 エリックの発言に辺りがシンと静まり返った。シャルルの涙も止まった。

 次いでそれを聞いていた周りの騎士達から「やるじゃねーかエリック」やら「青春だねぇ」やら囃し立てるような言葉と口笛の音が溢れた。

 それを聞いて正気に戻ったドナシアンが蒼い顔をして思いっきり息子の頭を殴った。


「い゛っっ」

「馬鹿か!! この方はシャルル殿下! この国の第一王子だぞ!?」


 ドナシアンに殴られて頭を押さえて涙目になっていたエリックは、一瞬ポカンとした後、父の言った言葉を理解し目を見開いてシャルルを見た。


「女の子じゃねーの!?」


 思わず指を指して叫んだエリックにドナシアンはもう一発拳骨を入れ、護衛騎士たちは震えながら笑いをこらえ、シャルルは諦めた顔で乾いた笑い声をあげた。

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