婚約の行方
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ベルナデットに謝罪をした翌日、シャルルは偶然エリックに出会ったので星祭りのことを聞くと案の定ベルナデットを誘う予定だと言われたので、せめてもの謝罪として彼が誘って断られてしまう前にベルナデットはアランと行くらしいという事を伝えた。
あまりにもエリックが落ち込んでしまったのでシャルルは自分のせいかもしれないことは言い出せず、とりあえず黙って彼を慰めておいた。
そして更にその翌日、シャルルはクロエから「星祭りに参加しないか」という予想外のお誘いを受けた。
「けどそうすると……」
「私が貴方の婚約者だと公になると言うのでしょう?」
クロエの言葉にシャルルは複雑な顔をして頷いた。
現状シャルルは婚約者はいるがそれが誰かは隠している。学園内でクロエと話すこともあるがそこまで親密な感じで接しているわけではないし、クロエがカロリーヌの友人だということは隠していない為、周囲は『妹の友人だからある程度は親しいのだろう』という認識だ。
隠している理由は『いつでも婚約解消出来るように』というクロエへの配慮だった訳で、更に言うとその根底はシャルルはゲーム通りに進むと死ぬ可能性が高く、クロエは女性が好きなのでお互いに下手な婚約者を宛がわれないように、という利害の一致であった。
しかし先日、シャルルが死ぬ筈だったイベントは無事に終わり彼は生き残った。今後命を狙われる可能性が無いとは言えないが、取り敢えず懸念していた『ゲームシナリオ通りの未来』は回避出来た筈だ。
シャルル自身はクロエのことは好ましく思うし、これまで一緒に過ごして情もあるので彼女と結婚するのは全然構わない。後は彼女の問題だ。
クロエは女性が好き。そして当然シャルルは女性ではないし、今後女性になる予定もない。
「昨日、貴方が死にかけたとカロリーヌから聞いたわ」
クロエの言葉に、シャルルは頷いた。
シャルル自身はそのことをクロエに言う気は無かったが、それを分かっているカロリーヌがクロエに伝えるだろうことは想定内だった。
「シャルルが死んでいたかもしれないって思って、心臓が止まるかと思った。ちょっと落ち着いてから、それを貴方から教えてもらえないだろうことが悲しいと思った」
「……ごめん。もう解決したことだし、君に不安を与えたくなかったんだ」
「分かってるわ。責めてるわけじゃないの。ただ、私が『本当の婚約者』だったら教えてもらえたのかなって……ちょっと思った」
「それは……」
シャルルが反論しようとすると、クロエが首を振って遮った。
「確かにそれがきっかけではあったけれど、それだけじゃないわ。少し前からシャルルとの関係について考えていたの。ねぇ、学園に入ってから、私シャルルに恋愛相談ってしてないと思わない?」
クロエに言われて、シャルルはそういえば最後にクロエとそういう話をしたのは学園に入る半年くらい前だったことに気が付いた。
「そういえばそうだね。けどそれは前みたいに気軽に会えないからじゃないの?」
「そうではなくて、単純に最近好きな子がいなかったのよ」
「ベルナデット嬢やリディ嬢は?」
「ベルナデットもリディも可愛いとは思うし、仲良くなれたら嬉しいとは思うわ。けど、それだけ。他にもね、何人かいいなって思う子はいたの。けど、つい比べちゃうのよね。『シャルルの方が可愛い』『シャルルの方が優しい』『シャルルだったらこう言ってくれるのに』って」
「まるで昔の恋人と今の恋人を比べてるみたいだね」
わざとらしく感情たっぷりに言うクロエが可笑しくて、シャルルも笑いながら相槌を打った。
そんなシャルルを見て、クロエもくすりと笑いながら口を開く。
「そう。『前の彼の方が素敵だった!』ってね。けどそれって大体もう過去になった人を美化して言うことだと思うの。私とシャルルは今でもこうして一緒にいるのに、不思議よね?」
「不思議だね。よっぽど僕が欠点を隠すのが上手いのか、それとも僕にクロエが思う欠点がないのかな?」
「あら? シャルルの欠点なんていくらでも挙げられるわよ?」
悪戯っぽく笑いながら言うクロエにシャルルは苦笑した。
「それが分かった上で、きっと私はシャルルがいいの」
「僕は女性じゃないよ?」
シャルルの答えに、クロエはムッとした。
「分かってるわよ。それでもシャルルがいいの! まあシャルルは本当はエリックがいいんでしょうけど……」
拗ねて目を逸らしながらそんなことを言い出すクロエに、シャルルはそういえばそういうことになってたんだったと思い出した。
「クロエ、君に返事をする前に、僕は君に謝らなければいけない」
真剣な顔でそう言うシャルルに、クロエが怪訝な顔を向ける。
「あのね? 僕がエリックをっていうそれ。えーと、その……嘘、なんだよね」
「…………えっ!?」
クロエはシャルルの言葉を理解して目を見開いた。
「僕としては仮の婚約者が欲しい口実になるなら何でも良かったんだけど、クロエが良い感じに誤解してくれたからそれに乗らせてもらうことにしたんだ」
そう言われて、クロエはこれまで一度もシャルルが『エリックのことが好き』だと言っていないことに気が付いた。それがずっと照れ隠しだと思っていたが、全てクロエの妄想で勘違いでことに恥ずかしくなり、赤くなった顔を両手で隠した。
「えと、結果的に騙してしまってごめん」
「……何で?」
「うん?」
「仮の婚約者が欲しかった本当の理由。何で?」
「……昨日死ぬ予感があったから」
クロエに真剣な顔で聞かれ、一瞬だけ悩んだ後シャルルは本当のことを口にした。
クロエはその真偽を図るように暫くジッと見つめていたが、やがて本音だと判断したらしく「そう」と複雑そうな顔で小さく呟いた。
「突然そんなこと言われてもふざけてるとか馬鹿にしてるとしか思われないと思って」
「そうね。私もきっとそう思ったと思うわ」
「まあ実際僕は今生きてるから予感は外れた訳だけど」
「なら、もう『本当の』婚約者を作っても問題はないんじゃない?」
クロエの問いに、シャルルは少し考えて、今度こそクロエに返事をするべく口を開いた。
「そうだね。君は気づいていないかもしれないけれど、僕は君と結婚したいと思うくらいには君の事が好きなんだ」
「クロエ、僕と一緒に星祭りに行ってくれる?」
シャルルの言葉に、クロエは泣きそうな顔で嬉しそうに頷いた。




