真相
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とりあえずいつまでもこんな場所で話すのもなんだからと場所をいつもカロリーヌとお茶会をしている部屋へと移動して、イザベルにお茶の用意をしてもらってから話を聞いた。
まず、シャルルを殺したのはやはりフィリップだったらしい。それは彼が二コラと繋がっていた訳ではなく、今朝部屋の前に置かれていた例の手紙が原因だ。
見せてもらうと手紙の内容は卑猥なラブレターなどではなく、イザベルを預かったこと、無事に返して欲しければ放課後裏庭に誘導するのでそこでシャルルを殺すこと、という指示が書かれていた。
フィリップは手紙を読んですぐにイザベルと連絡を取ろうとしたが繋がらず、カロリーヌの話を聞いてこれが悪戯や狂言ではないと確信した。
そしてカロリーヌに、『放課後1人で裏庭に来て欲しい』というメモを渡し、放課後シャルルを殺し、イザベルを救出した後カロリーヌに聖女の力を使ってもらったというのが一連の流れだ。
「1人で来させるとか、カロリーヌに何かあったらどうするつもりだったのさ!」
「シャルル殿下、貴方は自分が殺されかけたことの方をもっと気にしてください」
「そうですわお兄様! もし私の力が未熟だったなら今頃どうなっていたことか」
「カロリーヌが未熟な筈ないじゃない。だからそこは気にしなくて良いんだよ。フィリップにやらせたのは、僕が警戒していたからでしょ?」
お茶も飲まず体を硬くしていた二コラに尋ねると彼は素直に頷いた。
「下手な暗殺者ではすぐにバレて失敗すると思った。だから君が信用している彼を利用した」
「流石だね。だけどフィリップを甘く見過ぎだよ。そういえばイザベルはどうやって攫ったの? イザベルも甘くはないと思うんだけど」
シャルルが疑問に思って尋ねると、それに答えたのは二コラの後ろに控えていたジョゼットだった。
「宰相様の手の者に協力いただきました。彼らに女子寮の近くで不穏な魔法の気配を発してもらい、それを警戒して確認に来たイザベル様を近くに隠れていた私が眠らせました。私の魔力は弱すぎて気づかれにくいようで、隠密に使えると宰相様が言っていたものですから。以前階段でカロリーヌ様の意識を奪ったのも私です」
「成程ねぇ」
「面目次第もございません」
先程からイザベルはずっと落ち込んでいる。
まんまと騙されてしまったのが相当ショックだったようだ。
「さて、じゃあ本題だ。僕を殺そうとしたのは誰の指示?」
「…………宰相様です」
答えたのはジョゼットで、二コラはその答えに驚いている。恐らく彼は王の指示だと聞いていたのだろう。
同じように皆一様に驚いているが、シャルルだけはその予想通りの答えに安堵のため息をついた。
「ジョゼット、だっけ? 何か彼からの指示だという証拠はある?」
「彼の方から頂いた手紙があります。ただ……」
「ただ?」
「これには暫くすると朽ちて消える魔法がかけられており、早ければ今日にでも無くなってしまいます」
「ああ、成程ね。その手紙、今持ってるかな?」
「はい、こちらに」
そう言ってジョゼットはスカートのポケットから真っ白の何も書かれていない封筒を取り出した。
シャルルはそれを受け取ると、その手紙にかけられた魔法を解析する。
「そんな複雑なものじゃないね。ああ、朽ちるのと同時にその魔法が発動したか本人に伝わるようにもなってるのか。なら伝達の方はダミーを飛ばして、朽ちる方は消してしまうより魔法の痕跡を残すためにロックをかけて残した方がいいかな」
目の前でシャルルが手紙にかけられた魔法を淡々と処理していくのを見て、ジョゼットは困惑した。
「え、あの、その魔法ってそんなに簡単にダミーとかロックとか出来るようなものなんですか?」
「え? よくある魔法だよ?」
「この方は少々基準がおかしいので気にしないでください」
「えー? 王族的には必須だと思うんだけど……ねぇ、二コラ?」
「いや、僕には出来ないし、少なくとも僕はそんな必須技能聞いたことないけど……」
「二コラ様、安心なさって? うちにもそんな必須技能ございませんわ」
カロリーヌにまでそんなことを言われてシャルルは納得いかない顔をしていたが、「話が逸れています」というフィリップの言葉で渋々本題に戻ることにした。
「じゃあ消えなくなったこの手紙は証拠としてもらっていいよね?」
「勿論です」
「因みにこれ以外に今までもらった手紙とかって……」
「脅迫や指示の手紙は全て同じ魔法がかけられていたので……」
「まあそうだよねぇ」
シャルルは念のため確認したが、思っていた通りの答えに特に落胆はなく、軽く相槌を打った。
「なら今回の件についてだけど」
シャルルがそう言うと、二コラとジョゼット、それにフィリップが覚悟を決めた顔をしてその目を真っ直ぐに見つめ返してきた。
カロリーヌとイザベルは不安そうにその様子を見守っている。
一拍置いてから、シャルルがにこりと微笑んで口を開いた。
「僕はジョゼットから相談を受けた二コラからこの手紙を見せられた。何とも不穏な手紙の内容に僕はジョゼットから直接話を聞くと、その宰相は我が国にとって良からぬ企みをしているらしい。彼女の勇気ある行動と二コラの良心によって僕は彼の人の悪事が実行に移される前に気づくことが出来てとても助かった。これが真相だ。いいね?」
シャルルの言葉に二コラとジョゼットは信じられないというように目を見開いた。
声を上げたのはフィリップだった。
「待ってください!! 自分はシャルル殿下の御身を危険に晒しました! それを無かったことにするなど許されません! 死罪も覚悟の上です!」
「うるさい。僕はそれを望んでいないよ」
「ですが!!」
尚も言い募るフィリップをシャルルが強い目で見つめると、フィリップはグッと押し黙った。
「シャルル殿下は甘すぎます」
「僕が甘いのは信用に足る相手にだけだよ。君もよく知ってるでしょ?」
「妹が人質に取られたからといって主に手をかけるような相手が信用に足ると?」
「ちゃんと僕が苦しまないように一瞬で止めを刺してくれたし、ちゃんと死なないようにアフターケアもしてくれたんだから問題ないよ。それにそこで妹を見捨てる選択をした方が僕は失望したかな」
「しかし……」
「いいんだよ。僕は一番信頼できる侍従を手放したくないの。償いがしたいなら一生僕の為に生きてよ。まあそっちの方が死罪より大変だろうけど」
最後に冗談のようにそう付け足せば、その様子を見守っていたカロリーヌが目に涙を溜めながら「たしかにそうですわね」と笑った。
フィリップは目元が赤くなっていたが泣きはせずに、深々と頭を下げた。
「さて、これで一件落着、かな?」
まだガルデニアの宰相の断罪という大仕事が残ってはいるが、それももう時間の問題だ。
その後のガルデニアとの関係については、きっと宰相断罪後に二コラが上手くやってくれることだろう。
恐らくこれでシャルルが死ぬ運命は回避出来た。
今日はきっとよく眠れるだろうとシャルルはそっと息を吐いた。




