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エリック


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「う~~~ん……」


 シャルルは自室でゴロゴロしながら悩んでいた。

 コルヌと遭遇して(兵士が)退治した後、心配して真っ青になった護衛に2度と彼らを撒かないと約束させられた。シャルルは彼らの顔を見て罪悪感を感じたため神妙な顔で頷いたが、常に護衛につかれるとゲームのシナリオ改変作業上都合が悪い。


「あれから王宮の警備も強化されたって言ってたしエリックのトラウマイベントは潰せたと思うんだけど……代わりのイベントが起きたりするんだろうか?」


 シャルルが自室にいるときは護衛は部屋の外で待機している。

 そのためシャルルの大きな独り言も自室でなら聞き咎められることもない。


「エルネストはあれから大げさに尊敬の眼差しを向けてくるからあっちはたぶんよっぽどのことをやらかさない限り大丈夫だと思うんだよなー。となるとやっぱりエリックが気になるなー」


 ひとしきりゴロゴロした後、腕を組んでひとつ頷いた後、足を上げ勢いをつけて起き上がった。


「よし、エリックに会いに行こう!」


 不本意ながらランベールに憧れていることになっているシャルルなので、騎士団長の息子に会いに行く理由は考える必要はないのだ。



「騎士団長の息子さんに会ってみたいんだけど」


 シャルルが部屋を出て待機していた護衛騎士に伝えると、彼はエリックに会いに来るように手配すると言い出したので慌てて自分が会いに行くと言った。


「騎士団長の息子って僕と同じ歳なんでしょ? どんな訓練してるか見てみたいんだ」

「成程。シャルル殿下はディアマン卿に憧れているんでしたな。訓練の予定を聞いてきますので、少々お待ちください」


 否定したいのをぐっと堪えて、シャルルは護衛騎士の1人が確認しに行くのをもう1人の騎士の横で手を振りながら見送った。

 程なくして戻って来た彼からちょうど今訓練中らしいということを聞き、彼らと共に騎士団の訓練場へ向かった。

 シャルルの訓練は騎士団長がシャルル専用の訓練場へ足を運びマンツーマンで行っている。そのためシャルルが騎士団の訓練場に行くのは初めてだ。


 護衛騎士に連れられてやってきたそこにはたくさんの騎士達がいて、気合の入った掛け声や剣の打ち合う音で溢れていた。その雰囲気だけでシャルルは既に涙目だ。戦場怖い。

 来訪を事前に聞かされていた騎士団長のドナシアンは、シャルル達が入ってきたことにすぐに気づき打ち合っていた相手に断りを入れてから駆け寄って来た。

 周りの騎士達は突然やって来たシャルルに怪訝な顔を向けている。まだ小さいシャルルは公の場に出ることがないため、その顔はほとんど知られていない。


(身分の高そうな子供が興味本位で見学に来たとか思われてるんだろうなぁ。何人かは女の子と思ってる人もいそうだ)


 服装や髪型から男の子とわかりそうなものだが、あまりにも顔が可愛いため名乗った後も「王子……ですよね?」と疑わしそうに確認されるのはよくあることだ。

 実際は何人かどころか8割に女の子と思われていた。


「シャルル殿下、ようこそお越しくださいました。我が愚息のためにわざわざ足をお運びさせてしまい申し訳ございません」


 そう言って膝をついて頭を下げるドナシアンに、近くで聞いていた騎士達がぎょっとして動きを止めた。


「顔を上げてください、先生。会いたいと我儘を言ったのは僕です。だったらこちらから出向くのが筋でしょう?」

「その理屈は殿下には当てはまりませんよ」

「そんなことないと思うけどなぁ」


(そもそも人に上から目線で話すことからして未だに慣れないのに)


 シャルルがそんなことを考えながら返事をすると、ドナシアンは苦笑して立ち上がった。そして後ろを向くと、「エリック!」と遠くで素振りをしていた息子を大声で呼んだ。

 父親に呼ばれて駆け寄って来た少年は赤褐色の髪にガーネットのような赤い瞳。将来爽やかなイケメンになる予定ではあるが、今はまだ幼く可愛らしい。


「どうしたの?」

「エリック、この方は……」

「初めまして。シャルルです」

「あ、初めまして。エリックです」


 シャルルは自分を紹介しようとするドナシアンの言葉を遮って、あえて名前のみを名乗った。それはまだシャルルのことを知らないであろうエリックと対等な立場で話してみたかった、あわよくば友達になりたかったからだ。

 せっかくの同年代の少年なのだ。エルネスト? 彼はシャルルを崇めているから友達ではない。

 しかしそんなシャルルの思惑は思いもよらない展開をもたらした。


「ははぁ。グルナ団長、見学をという話でしたが、もしよろしければ2人に手合わせをさせていただけないでしょうか?」


 突然の護衛騎士の申し出にシャルルは勢いよく振り向いて彼を見上げた。まだ20代前半だろう若い彼は、愕然とするシャルルを見て笑顔で頷いた。その顔は「わかっていますよ」と言っている。

 あの顔はシャルルが身分を隠したのは、対等に手合わせをしてほしいからだと誤解している顔である。もちろんシャルルはそんなこと望んでいないし、今すぐ取り消してほしい。


「オレはいいけど、シャルルは剣なんてできるのか?」


 エリックの言葉にドナシアンはピクリと反応したが、眉間に皺を寄せただけで何も言わなかった。息子の不敬が気になるが、シャルルが身分を隠している以上注意することは出来ない為もどかしいのだろう。


「僕も一応騎士団長に教えてもらってるから、少しは出来る……と、思う。たぶん」

「ご謙遜を。エリックよりよほど筋がいいと思いますよ」


 ドナシアンはお世辞や謙遜ではなく本心でそう言った。

 実際シャルルのポテンシャルは素晴らしく、教えられたことをすぐに理解できる頭とそれを実行に移せる身体能力を持っていた。

 ドナシアンの言葉を聞いて、面白くないのはエリックだ。彼は明らかに対抗心のこもった目でシャルルを見てから、「模擬剣取ってくる」と言って走って行ってしまった。

 どんどん嫌な方向に転がっていく展開に情けない顔で大人たちを見上げたのだが、若い護衛騎士からは「良かったですね」と、ドナシアンからは「遠慮なく叩きのめしてやってください」とにこにこしながら言われてシャルルは逃げられないことを悟った。

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