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遭遇


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「「ぎゃーーー!!!!」」


 シャルルは無事自分でたてたフラグを回収し、エルネストと抱き合って目の前の魔物に怯えて泣き叫んでいた。


「な、なんでこんなところに魔物が……」


(うん! そういえばそんな回想シーンあったな! 今かよ!!)


 守るどころか抱き着いて泣いているエルネストの横で、シャルルはびえええと泣きじゃくりながらも冷静に状況を分析していた。

 ゲームの中で攻略対象から子供の頃の出来事として語られた話の中に、『王宮で魔物に襲われた』というものがあった。

 その攻略対象とは今シャルルと抱き合って泣いているエルネスト……ではない。騎士団長の息子のエリックだ。

 エリックは5歳の時に魔物に襲われ、騒ぎに気づいて駆けつけてくれた兵士のおかげで一命はとりとめたがそれがトラウマとなり魔物に相対することが出来なくなってしまった。

 そしてそんな状態では騎士になることなど出来ないと自暴自棄になり、放蕩しているうちに同じように遊び歩いていたディアマン辺境伯家の息子、ベルナデットの兄のジェレミーと仲良くなる。

 そこから隣国の暗部とも知り合いになり、スパイ紛いのことをやらされるようになり、転がるように取返しのつかないところまで堕ちていく。

 彼も攻略が進むとカロリーヌの誠実さに触れ自分の愚かさを反省し改心するのだが、攻略に失敗すると隣国の暗部に始末される。


(時期的にも場所的にも相手的にもこれそのイベントで間違いないよな? なんで横にいるのがエリックじゃなくてエルネストなんだ?? 『エ』しか合ってないじゃないか!)


「う゛う゛う゛……エッ、エルッ、ネスト、下がって」


 号泣しながらもシャルルはエルネストを背中に庇って目の前の魔物に向き合った。魔物は巨大な角を持つ山羊で、背中に大きな蝙蝠の翼が生えている。

 シャルルはエリックに関してはトラウマを作らなければ解決するだろうと考えていた。そのためゲームでは『コルヌ』という名前しか出てこなかった魔物について、それを手掛かりに見た目や弱点などを本で調べ対策を立てていたのだ。


 シャルルはポケットから手のひらサイズのカプセルを取り出すと、それをコルヌに向かって投げつけた。

 このカプセルは事前にシャルルが魔法を閉じ込めた魔道具で、護身用のためいつも持ち歩いているものだ。それはコルヌに当たると弾けて、中から強烈な光と破裂音、薬品ような匂いが溢れ出した。

 それにより一時的にではあるがコルヌの視覚と聴覚と嗅覚を麻痺させることに成功した。今のシャルルにはまだコルヌを倒すほどの攻撃魔法は使えない。しかし騒ぎを聞きつけて兵士が駆けつけてくれるはずなので、それまでの時間さえ稼げればいい。

 ちなみにシャルルがわざわざカプセルを用意したのは、魔物なんかに対峙したら絶対に泣いて魔法の詠唱なんて出来るわけがないという自分への信頼からであった。



「なんだ今の音は!」


 程なくして予定通り兵士が駆けつけてくれた。大きな音を出したのも功を奏したようだ。


「え!? シャルル殿下!? って、は!? なんでこんなところにコルヌが!?」

「びえええええええ」

「よしよし、怖かったですね。もう大丈夫ですから下がっていてくださいね」

「びえええええええ」


 シャルルは号泣しながらもエルネストを背中に張り付けて兵士に言われた通り後ろに下がった。

 その後その兵士は未だ感覚が戻ってきていないコルヌを拍子抜けするほどあっさりと倒してしまった。

 コルヌはそんなに強い魔物ではない。兵士からしたら赤子の手をひねるようなものだ。


「シャルル殿下、護衛はどうしたのですか?」


 コルヌを倒した兵士は真剣な顔でシャルルに問うたが、シャルルがすっと目を逸らしたことで彼が護衛を撒いてここに来たことを察した。


「シャルル殿下、いくら王宮内だからといって、護衛をつけないのは感心致しません。今回は無事だったから良かったものの、シャルル殿下の身に何かあったら両陛下や妹君をはじめ、皆が悲しむことを自覚くださいませ」

「ご、ごめんなさい……」


 シャルルはひっくひっくとしゃくりあげながら素直に謝った。

 その様子を見て厳しい顔をしていた兵士も表情を緩めてシャルルの頭を優しく撫でた。


「ただ、コルヌの感覚を奪ったのは良い判断でしたよ。しっかり魔法が身についていますね」


 優しく褒められたことでシャルルの涙はようやく止まり、えへへと嬉しそうに笑った。


「ところでそちらは?」


 シャルルの笑顔を見てほっこりしていた兵士がここでようやくシャルルの後ろの子供の存在を思い出し尋ねると、おずおずとエルネストが顔をのぞかせた。


「エルネスト様?」


 エルネストの顔を見て、兵士は目を丸くした。彼の知っているエルネストはいつも自信満々で堂々としていて、泣きながら同年代の子の後ろに隠れる子供がエルネストであるなど予想外だったのだ。

 シャルルもそういえばエルネストを背中に庇っていたのだったと思い出しエルネストを振り返ると、彼は頬を上気させ涙で濡れた瞳をキラキラと輝かせながらこちらを見ていた。


「えっと、大丈夫?」

「オレ、王族って血筋だけで甘やかされて育ってる奴らだと思ってた」

「お、おう……」


 なかなかに不敬な発言である。もしシャルルが気の短い王子であったなら処罰されているところだ。

 まあシャルルはゲーム知識があったので「エルネストだしな」くらいの感想しか抱かなかったのだが、後ろにいた兵士は咎めるように咳払いをした。


「だけどその考えは間違ってたんだな。さっきのお前…いや、シャルル殿下はとってもかっこよかったです! 甘ったれ王子に仕えるなんて反吐が出ると思ってたけど、シャルル殿下になら喜んで仕えさせてもらいます!」

「君ほんとに4歳?」


 暴言のクオリティが4歳児のものとは思えない。

 ただ王子を前にして堂々と言い切るところは子供らしいのかもしれない。

 シャルルの後ろの兵士が先ほどより大きな咳払いをしたが、エルネストには届いていない。


「ところでそういえばなんでエルネストはこんなところに1人でいるの?」

「はい! 父に連れられて来たのですが、はぐれました!」

「迷子かよ!」


 その後兵士に付き添われ、シャルルは彼を見失って青い顔をした護衛騎士の元へ、エルネストは全く心配していなかった父親の元へ無事に送り届けられた。

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