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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「やあ二コラ」

「えっと……シャルル殿下ですか?」


 待ち合わせ場所に既に来ていた二コラにシャルルが声をかけると、二コラは戸惑いつつもシャルルの名前を呼んだ。

 二コラが戸惑うのも無理はない。目の前で声をかけて来た人物はブロンドの髪に焦げ茶色の瞳で、商人のような服を着ている。一緒にフィリップがいなければ気づかなかっただろう。


「あまり騒がせたくないからね。街を見る時は大体王子だとバレない恰好をしているんだ」


 シャルルの言葉に、二コラは納得し「成程」と頷いた。


「ところで、随分早いね」

「シャルル殿下を待たせる訳にはいきませんからね。本日はお時間をいただきありがとうございます」

「何で急にそんな改まった話し方?」

「平等なのは学園内だけでしょう? 他国とはいえしがない一貴族である私が殿下に気安く接するなんて有り得ません」

「『学園の生徒である間は』だよ、二コラ。だからいつも通りで構わない」


 いつもは敬語など使わない二コラが今日は随分と丁寧に話すのでそれをシャルルが指摘すると、二コラは苦笑しながらそう答えた。

 それがシャルルにはとても寂しく感じて考える前に思わずそう口にしてしまい、隣のフィリップから突き刺さるような視線をもらってしまったが、二コラが虚を突かれたような顔をした後嬉しそうに頷いたので後悔はなかった。


「さて、僕らのお勧めの場所に行きたいってリクエストだったけれど、これまでどこを見たの?」

「えぇと、噴水広場とか国立植物園とか、観光ガイドに載っているような場所は一通り見たかな? あ、あと博物館とか歴史資料館とかも行ったよ。なかなか興味深いものが多くて勉強になった」

「へぇ? この国の弱点でも見つかった?」

「そんな不穏なもの探してないよ。純粋に良い国だと思った」


(流石にそんな簡単にボロは出さないか……)


 シャルルの不意打ちで聞いた核心に触れる質問に対しても、二コラは全く動揺することなく笑いながらただの冗談だと受け取ったような返事を返した。


「ありがとう。観光地は大体巡ったのなら、今日はそういった場所以外に行こうか」


 いつもの無表情ではなくにこりと笑って言葉を返すと、二コラは信じられないものを見たというように目を丸くした。それに楽しくなってケラケラと笑っていると、フィリップからは呆れたような、諦めたようなため息をもらってしまった。


「ところで二コラ、朝食は食べた?」

「紅茶なら飲んだよ」

「そっか。じゃあまずは市場に行こう」

「うん、あの、それは良いんだけど……」

「うん? 何か食べられないものでもある?」

「や、そうじゃなくて……今日はなんだか雰囲気が違うね?」

「そうかな?」

「うん、だって普段は……いや、何でもない。僕の気のせいだったかも」

「そう?」

(普段は不愛想って言いたかったんだろうなぁ)


 言葉を濁した二コラに敢えて言及はせず、シャルルの案内で3人は朝の市場へと向かった。



 観光客向けの店が並ぶ中心地から離れ少し歩くと、だんだん賑やかな声が聞こえて来た。

 辿り着いたそこは新鮮な野菜や果物、取れたての魚介、鶏やたまごからちょっとした軽食までいろいろなものが売られており、店員も客も笑顔で活気に溢れていた。


「おばちゃん、久しぶり」

「あら、フィルじゃないの! 学校はサボりかい?」

「違うよ、もう夏季休暇!」

「あはは、分かってるって。そちらは学校の友達かい?」

「うん。おばちゃんの店のガレット美味しいから教えてあげようと思って」

「嬉しい事言ってくれるねぇ!」


 目の前で繰り広げられる会話に、今度は二コラだけでなくフィリップまで目を丸くしている。


 シャルルは実は誰にも内緒でよく王都内を散策している。それは瞬間移動が出来るようになってすぐの頃からで、最初はこっそりとゲームに登場した場所を確認する為だった。

 ある程度大きくなると、今度は王子として国民の生活を見てみたくなったのと、ブノワやバジルから聞くような市井のお店に行ってみたいという好奇心から、髪や瞳の色を変える魔法を覚え、偽名を使って買い物や食事をするようになった。最初はバレるのではないかとドキドキしていたが、今ではこうして偽名を覚えてもらい談笑出来るくらいには馴染んでいる。


「最近は何か面白い事あった?」


 せっかく来たのだからと、ガレットを待つ間ついでに情報収集をしようとシャルルは店主に尋ねた。

 フィリップが聞かれては不味い話が出るのではないかとチラチラと二コラの方を気にしているが、心配しなくてもただの子供と思われているシャルルに話してくれるのは市井であった面白い話や近所のゴシップ程度だ。

 誰かの息子が失恋しただの、誰と誰がちょっと派手な喧嘩をしただのの話を楽しそうに聞いているうちに完成したガレットを手渡され、シャルルは笑顔でお礼を言って店を離れた。


「シャルル殿下……」

「あ、言い忘れたけど今日は僕の事はフィルって呼んでね」


 怖い顔で名前を呼ぶフィリップに、シャルルはガレットを齧りつつわざと全く関係のない返事をした。


「…………フィル、随分と先程の店主と懇意だったようですが、どれだけ通われたのですか?」

「やだなぁ、バジルから話を聞いてただけだよ」

「向こうは『フィル』のことをよく知っているようでしたが? 商品の事もよくご存知だったようですし?」

「あ、そういえば前に一度来たんだったかな?」

「一度で名前を覚えられる程親しくなったと」

「商売人っていうのはそう言うものだよ、ねぇ二コラ?」


 シャルルが話を振ると、二コラは曖昧に笑って首を傾げた。

 そこでフィリップはシャルルへの不満で忘れていた二コラの存在を思い出したらしく、頭を抱えて項垂れた。

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