夏季休暇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
無事にテストが終了し、結果が貼りだされた。
シャルルはいつも通り学年1位をキープし、カロリーヌも無事に1年の中で1位になれたようだ。
何となくベルナデットの名前も探してみたが、侍従のアランの名前は見つけたが本人は上位には見当たらなかった。カロリーヌ達の勉強会に参加していた筈なのだが、どうやら勉強はあまり得意ではないらしい。
「流石だね」
後ろから最近よく聞く声に話しかけられ、振り向くと案の定二コラがにこにこしながら立っていた。
「僕も結構頑張ったんだけどなぁ」
そう言う二コラの順位は3位だ。自国でもないのにこの成績は十分凄いだろとシャルルは内心で称賛を贈った。ちなみに2位はフィリップである。
「そういえばもう夏季休暇なんだね。僕は来たばかりだし今回はこちらに滞在して王都を見て回ろうと思っているのだけれど、もしどこか空いている日があれば会えないかな? 君たちのお勧めの場所を一緒に見てみたいなと思うのだけれど」
二コラのお願いにシャルルはふむ、と顎に手を当てて思案した。
隣のフィリップは無言で「断れ」と圧をかけてくるが、シャルルが断れば二コラに1人で王都の情報収集をされてしまう。
当然普通に王都を見て回っても大した情報は得られない筈だが――
(ゲーム上で『優秀なスパイ』設定だったしなぁ……なら)
「いいよ」
「「えっ」」
二コラとフィリップの声が重なった。
フィリップはともかく、二コラにも断られると思われていたんだと思うと、シャルルはいつもの自らの態度への罪悪感に苛まれた。
「とはいえ、僕も予定があるから。この日かこの日以外は空いてないよ」
夏季休暇の内確実に空いている日にちを示せば、二コラは嬉しそうに「2日も会ってくれるなんてありがとう。楽しみにしてるね」と返してきた。シャルルとしてはどちらかの日を選べという意味で言ったのだが、まあいいかと予定を追加する。
待ち合わせの時間と場所を決めて二コラと別れ、人気のない場所にさしかかるとすぐにフィリップに詰め寄られた。
「何を考えてるんですか!?」
「ちょ、ちょっとフィリップ落ち着いて? そんなに騒いだら人が来ちゃうよ?」
「認識疎外をかけてるから問題ありません」
「流石僕の侍従」
「誤魔化さないで質問に答えてください」
シャルルの軽口にも乗らず真剣な顔で問いただしてくるフィリップに苦笑して、どう言えば納得してくれるか考えつつ口を開いた。
「フィリップは何で二コラと会うのに反対なの?」
「そんなの彼にスパイの疑惑があるからに決まっているでしょう?」
「けどガルデニアも馬鹿じゃないよね? スパイが捕まった直後にこんな堂々と次のスパイを送るかな?」
「ガルデニア国内でも当然派閥があるでしょう。この間捕まった男と別の派閥から送られて来たという可能性も考えられます」
「成程。そういう考え方もあるんだね」
(僕の侍従が優秀で喜ばしい限りだけどこういう時困るなー。ゲーム知識無いのにほぼ正解じゃん)
シャルルは表面上で感心しながら内心で冷や汗をかく。
「まあ二コラがスパイであってもそうでなくても、友好の為に留学に来てるガルデニアの貴族の誘いを断って放置する方が問題でしょう?」
「そうだとしても、シャルル殿下が直接相手をする必要は無いかと。エリック様かミカエル様あたりに頼めば……それも心配ですね」
「それはどっちの意味の心配かな? まあとにかく、もう約束しちゃったし。それにそろそろこのモヤモヤした状況をスッキリさせたいと思わない? だから、ね? こちらから探るのも悪くないんじゃないかな?」
「だからシャルル殿下がやる必要は無いと……はぁー、その日は絶対に自分から離れないでくださいよ?」
「善処するよ」
シャルルの意見には概ね同意だが、シャルル本人が動くのは承服しかねる。護衛としてそう主張したが、ひたすら笑顔で諾と言わないシャルルに最終的にはフィリップが折れた。
こういう時のシャルルは何を言っても聞かないことは長年の付き合いで嫌と言う程知っている。仕方がないので最低限の安全の確保と引き換えに許可を出せば、ご機嫌で諾とも否とも取れる返事を返された。
頭が痛いと言うように額に手を当て目を閉じるフィリップを見て、シャルルも申し訳ないとは思っている。全てを話せないのをもどかしく思いながらも、少しでも安心させてあげようと苦笑しつつ口を開いた。
「そんなに心配しなくても悪いようにはならないよ」
「ならそう思う根拠を教えてください」
「えー、説明するの難しいな……何となく……雰囲気……勘?」
「根拠としては0点ですね」
「そんなこと言われてもさぁ。上手く説明出来ないんだよ。ほら、僕の侍従なら以心伝心で分かって?」
「無茶言わないでください。全く、侍従1人説得出来ないでどうするんですか」
「急に母上みたいなこと言うじゃん。違うよ? 僕の事を良く知るフィリップだからこそ説得出来ないんだからね? 対外的な顔しか知らない二コラとかなら楽勝だよ」
「それが本当ならこんな事態には陥ってないと思うのですが」
「はいはいはい、この話は終わり! 夏季休暇楽しみだね!」
「シャルル殿下はほぼ公務ですけどね」
「それでもカロリーヌに会える時間は増える!」
無理やり話を終わらせて、シャルルは寮の自室へと歩き出した。フィリップも大人しくそれに従う。
フィリップにはああ言ったが、シャルルとて今回の事は思いつきと勢いで決めてしまった為どう立ち回るべきかまだ全くのノープランである。
けれど直感的にこれが重要な分岐点になるだろうと感じているシャルルは、気合を入れ直して二コラへの対応を考え始めた。




