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エルネスト


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「そもそも完璧王子ってなんだよ」


 前世の記憶を思い出してから数週間、シャルルはひとり中庭に座り込んでべしょべしょと泣いていた。

 あれからシャルルはゲームのことを出来るだけ思い出した後、今後どうしようかと考えた。


 シャルルの思い出した『オルタンシアの乙女』にはラスボス的な相手が存在し、それは隣国ガルデニア王国の宰相だった。

 ガルデニア王国はオルタンシア王国を侵略しようと計画していた。しかし武力も経済力もオルタンシア王国の方が数段上。宰相はそれならばと国の為に隣国を探るフリをしつつ、自身がオルタンシア王国を乗っ取り攻めてきたガルデニア王国を支配下に置くという野心のため様々な画策を行う。

 手駒は秘密裏に乗っ取ったオルタンシア王国のディアマン辺境伯家の娘ベルナデットで、ゲームの舞台である学園では彼女が悪役令嬢として暗躍する。


 シャルルはまず隣国の宰相について調べようとした。

 しかしシャルルは現在5歳。城からもろくに出たことがないのに友好国でもない隣国など行ける筈もなく、かと言って誰かに聞こうにも隣国の宰相の情報など不自然じゃなく聞く理由が思いつかない。

 そのためとりあえず宰相のことは一旦保留にして、今度はディアマン辺境伯家について調べることにした。

 ディアマン辺境伯家は国境にほど近く防衛の砦としての役割を持つ。

 また、広大な領地には森や山、湖に荒野など自然も多く、それらの場所には大抵魔物が住んでおり、更にその魔物が年に数回は人々の生活圏内に入ってきてしまうこともある。

 そのため当主であるランベール・ディアマンは日夜訓練を欠かさない武人として有名だ。

 そこで強さに憧れる無邪気な少年を装いさり気なく会いに行きたいと言ってみたのだが、危ないからと却下されてしまった。魔物や隣国が危険なのかと思ったが、脳筋がどうとか言っていたのでどうやらそれが原因ではないらしい。


 よって結局何も出来ていない上、ランベールに憧れていることにしてしまったため剣術の稽古の時間が増えた。

 実際は別に憧れていないし、剣術の稽古は痛いし怖いから毎回泣いている。


「こんなんじゃ誰も助けられない……」


 そして今、自分の不甲斐なさが嫌になり、最近出来るようになった瞬間移動の魔法で王宮の中庭に飛んでシャルルはひとり泣いているのだ。

 そこは渡り廊下の間に作られた小さな庭で、繊細に手入れされた緑が陽の光を浴びてキラキラと輝く綺麗な場所でシャルルのお気に入りだった。


「大丈夫?」

「ぴゃっ!?」


 べしょべしょしていたところに突然後ろから声をかけられて、シャルルは飛び上がった。

 慌てて振り向くと、そこには自分と同じくらいの歳の空色の髪にブルートパーズのような瞳の、気の強そうな美少年がいた。

 シャルルはその男の子の顔に見覚えがあった。


「エルネスト?」

「なんでオレの名前知ってるんだ?」


 シャルルが名前を呼ぶと、相手は怪訝な顔をした。

 エルネスト・サフィール。王宮付医師の息子であり、ゲームの攻略対象。

 親からはしっかりしているからと信用され、周りからは天才と持て囃されて育ったため、ゲーム開始時のエルネストは自分以外の全てを見下している。

 それは王族に対しても同じで、自分より格下の相手に仕えるなんて我慢ならず、利用しようと近づいてきたベルナデットを逆に利用しようとする。

 攻略が進むとカロリーヌの聡明さに気づき自分の愚かさを反省し改心するのだが、攻略に失敗すると魔物に喰われて死ぬ。


(カロリーヌと同じ歳だったはずだから今はまだ4歳。流石にまだ自惚れては……)

「まあオレはすごいからな! お前同じくらいの歳だし知ってて当然か」

(自惚れてたー! めっちゃ傲慢だったー!)


 驚きすぎてシャルルの涙が止まった。


「ええと……僕が君の名前を知ってるのは、王子として臣下の名前を知っていないといけないからだよ」


 シャルルがそう言うと、エルネストが目を丸くした。


「王子って、お前男なのか!?」

「え? 驚くのそこ?」


 確かにシャルルの容姿は零れ落ちそうなほど大きな琥珀色の瞳に白い肌、肩まで伸ばした藤色の髪はサラサラで一見美少女だ。しかしシャルルは自分が彼を知っている理由の方を伝えたかったのであって、そんなところに食いついてほしかったわけではない。

 ちなみにカロリーヌも同じ色を持っているが、シャルルがつり目なのに対しカロリーヌはたれ目のため、美少女ではあるが印象はだいぶ違う。

 二人並ぶと一対のビスクドールのようだとメイドたちの間で密かに尊ばれている。


「ってかその王子がなんでこんなとこでひとりで泣いてるんだよ? 護衛もつけないなんて不用心だぞ」

「お、おぉ」

(しっかりしてんな? 本当に4歳か??)


 舌ったらずな口調で一生懸命に話すカロリーヌとはとても同じ歳とは思えない。これはしっかりしていると言われる筈だ。


「仕方ないから護衛が来るまでオレが守ってやるよ」

「え? 守るって、君攻撃魔法とか使えたり?」

「オレは天才だからな!」


(え、えぇー? 流石に4歳で攻撃魔法は教えてもらえないだろ。まあ王宮の中庭なんて危険なんてないだろうしいいか)


 フラグである。

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