聖女
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その日、学園中、そして王国中に衝撃のニュースが駆け抜けた。遂にカロリーヌが聖女であると判明したのだ。
魔力制御の授業にて適正診断を行った結果、聖女のみが使用できる聖属性に強い反応があったらしい。
ゲームでそのことを知っていたシャルルは感慨深く思ったが、ゲームと違いまだ聖女の力を使っていないカロリーヌはさぞ驚いたことだろう。
けれど昔から聖女の話が大好きだったカロリーヌだからきっと喜んでいるだろうと思っていたシャルルは、いつものお茶の時間に泣きそうな顔でやって来た彼女に目を丸くした。
「どうしたの? カロリーヌ。何か嫌な事でもあった?」
「お兄様……」
カロリーヌはシャルルの下に駆け寄るとその胸にギュッと抱き着いた。それは不安な時の彼女の昔からの癖だった為、伊達にシスコンではないシャルルはカロリーヌが何を思っているのか何となくだが察することが出来た。
「あの噂のこと?」
シャルルの問いかけに、カロリーヌは顔を上げずに頷いた。
『今代の聖女が現れた』
『しかも王女らしい』
『きっと国を良くしてくれるに違いない』
シャルルが聞いた噂はそんな期待に満ちたもので、悪意のあるものでは全くない。
しかし自分が聖女なんて思ってもなかったカロリーヌは今、期待にこたえなければならないというプレッシャーと、本当に自分が聖女などという素晴らしい存在なのだろうかという不安でいっぱいになっているのだろう。
「大丈夫だよ。カロリーヌだもの」
「理由になってませんわ」
「理由なんて僕にとってはカロリーヌだからってだけで十分なんだけど、そうだなぁ……」
シャルルはカロリーヌが納得できる理由を思案して、安心させるようにその髪を撫でながらゆっくりと続けた。
「僕はカロリーヌが頑張り屋さんなのを知ってる。いつも皆の幸せを願っている優しい子なのを知ってる。怖い事、不安な事、辛い事があってもそれに立ち向かう強さを持ってることを知ってる」
「けれど、今まで私が聖女だと思えるようなことなんてありませんでしたわ。そんな私で、歴代の方々のような立派な聖女が務められるのでしょうか……」
(本当は聖女覚醒イベントがあった筈なんだよ……)
あのイベントがあればもう少しカロリーヌも自信が持てたかもしれないと思うと、シナリオを変えようといろいろ動いた影響がないとも言い切れない為シャルルは申し訳ない気持ちになった。
「僕はカロリーヌ以上に聖女に相応しい人なんて思いつかないよ」
「それはお兄様だからです」
「そんなことないよ。フィリップもイザベルもそう思うよね?」
「「勿論です」」
間髪入れず同時に返事を返され、やっと顔を上げたカロリーヌと僕は目を合わせて笑い合った。少し元気が出たようだとシャルルはその顔を見て安堵した。
「前の聖女様も王族の方だった筈だ。お父様に聞いたら何か教えてくれるかもしれない。今度帰ったら聞いてみよう」
「そうね。お兄様、ありがとう。私、頑張ってみますわ」
「どういたしまして。けど絶対に無理をしちゃ駄目だよ? 悲しい事や辛い事があったら我慢しちゃ駄目だよ? 何かあったら僕に言うんだよ?」
「分かってますわ、お兄様。フィリップとイザベルもありがとう」
いつもの明るい笑顔に戻ったカロリーヌに、フィリップとイザベルも安心して笑顔を返した。




