勝負の後
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「ベルナデット嬢、強かったね」
「ん? ああ、そうだな」
訓練場を出た後、先程の光景を思い出しながらシャルルがエリックに話しかけたのだが、エリックはどこか上の空だ。
ディアマン家の人間とは言え、年下の、しかもご令嬢に負けたとあって落ち込んでいるのかとも思ったが、どうもそんな様子でもない。
「どうかした? エリック」
訝しげにシャルルが尋ねると、エリックが真剣な顔でシャルルを見たので、シャルルも一体何を言われるのか緊張した面持ちでエリックを見つめ返した。
「シャルル殿下、オレ……」
「うん」
「オレ、ベルナデットのこと好きになっちまったかも」
「…………うん?」
シャルルは一瞬エリックの言葉が理解出来なかった。
聞き間違いでなければ、エリックは今しがた自分が負けた女の子のことを好きだと言っただろうか?
「知らなかった。エリックってマゾだったんだな」
「違ぇよ」
シャルルの素直な感想に、エリックは顔をしかめて否定した。
「強い女の子って格好よくね?」
「いや、まあそうだけど……自分より強いと嫌じゃない?」
「あれはちょっと油断しただけだ。次の約束も取りつけたし、次は勝つ。そして告白する」
「まあ確かにあのスピードと変則的な動きには驚いたよね。ジェレミーの身内贔屓かと思ってたんだけど、言った通りだった」
「だよな。それに、それ抜きにしてもめちゃくちゃ可愛かったし」
エリックの最後の言葉に、シャルルはエリックと初めて会った時のことを思い出した。
そういえばエリックは面食いだった。
「……まぁ、応援するよ。頑張って」
「おう!」
エリックの眩しい笑顔を見ながら、彼があの時のように突然プロポーズしなくて良かったなとシャルルは変なところでホッとしていた。
「ところで、『オルタンシアの乙女』って何だ?」
エリックの質問に、シャルルは何と答えるべきか頭を捻った。
シャルルは訓練場を出る間際、当初の目的を忘れていたことを思い出してベルナデットにひとつの質問をした。
何と聞くべきか少し考えたが、無難に作品タイトルを聞いて反応を見ることにした。
「ベルナデット嬢、『オルタンシアの乙女』って知ってる?」
「オルタンシアの乙女?」
ベルナデットは少し記憶を辿るように視線を中空に彷徨わせたが、結局何も思い当たらなかったらしい。
「すみません、ちょっと分かりかねますわ。武器の名前か何かでしょうか?」
「いや、分からないならいいんだ。忘れて」
その時のベルナデットには嘘をついている感じも動揺した様子も見られなかったから、恐らく本心だろう。
ついでに『宝石の名前』とかではなく『武器の名前』と言ったベルナデットに対し微妙な顔をしていたアランについても何も知らない様子だった。
だとしたら怪しいのはリディという侍女だろうか? ゲームに登場しない妹のコレットだろうか?
見たこともない人物について考えても分からないし、それこそベルナデットに影響を与えられる人物など他にも沢山いるだろう。いつか機会があればディアマン辺境伯家に行ってみようかなと思い、シャルルはそれ以上の考察は一旦保留にした。
「ちょっと夢を見てね」
「夢? 予知夢か?」
「どうかな? そうじゃないと良いんだけど」
意味が分からないという顔をするエリックに、シャルルは「気にしないで」と言って曖昧に笑った。




