本当の理由
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翌日放課後。
突然の頼みに苦笑しながらも快く引き受けてくれたエリックと共にシャルルが訓練場に向かうと、既に来ていたベルナデットとアランがエリックを見てピシリと固まった。
シャルルはそれを不思議に思いながらも、エリックを連れて2人に近づいていく。
2人の前で足を止めると、エリックはキョトンとしてシャルルを見た。
(分かる。頼まれたのはベルナデット嬢との手合わせだもんな)
エリックはディアマン領には行ったことはないらしく、ベルナデットとはまだ顔を会わせてないと言う。
一見男子生徒2人なので戸惑っているのだろうと思い、シャルルはエリックに説明した。
「エリック、こちらベルナデット·ディアマン嬢だ」
シャルルの言葉に正気を取り戻したベルナデットは慌ててエリックに頭を下げた。それは淑女の礼ではなく、謝罪のそれだったので今度はシャルルが困惑する。
「嘘をついて申し訳ありませんでした! この事はお母様には内緒にしてください!」
「ああ、やっぱそうだったのか」
「あれ? 君たち面識あったの?」
ベルナデットの謝罪に心当たりがあるらしく、エリックはくつくつと笑っている。
シャルルが首を傾げていると、エリックが「入学式の日に偶然会ったんだ」と教えてくれた。
「マティアスってのは……ああ、マティアス先生か」
「はい……」
その会話でシャルルは察した。
(ああ、入学式の日に会った時に「マティアスです」とでも言われたんだろうな。こんな格好だし単純なエリックじゃなくても騙されるよなぁ)
ゲーム知識で顔が分かってた僕でも騙されたしなぁと考えたところで、ふとシャルルが初めてベルナデットに会った時の会話を思い出した。
「家庭の事情じゃなかったのか?」
思わず呟いたシャルルの言葉に成り行きを見守っていたアランがサッと顔色を変えた。恐らくベルナデットがシャルルにも嘘をついていたことを思い出したのだろう。
「シャルル殿下、お嬢様が虚偽の申告をしたこと、お詫び申し上げます。お許しいただけるのであれば私から説明させてもらいたいのですが」
「いいよ。聞こう」
(そんな蒼い顔しなくていいし、そんなへりくだらなくていいよって言いたい! すごい言いたい!)
未だに王子という扱いに慣れないシャルルは内心で悶えたが、それを言うとフィリップの怒りを買うのは確実なのは分かっているので、それらを一切表には出さないように平坦な声でアランに返した。
アランの話によると。
ベルナデットが学園に向かう途中、王都の近くで魔物が出たので立ち往生してしまったらしい。
その際いろいろあって、ベルナデットの髪が切れてしまい、制服も着られる状態じゃなくなってしまったと言う。
「事情は分かったけど、なんで男子制服?」
「こっちの方が動きやすいからですわ。あの時はスカートが邪魔で魔物に遅れをとってしまいましたもの。この格好なら次は完勝してみせますわ!」
エリックの疑問にベルナデットが元気に答え、その横でアランが頭を抱えている。アランがせっかく『いろいろ』で誤魔化したところを、ベルナデット自身が『魔物と戦った結果』と暴露してしまった為だろう。
シャルルはアランも大変だなと密かに同情すると同時に、ふととある推論が浮かんでベルナデットに尋ねた。
「ところで、何の魔物だったの?」
「え? ええと、イタチのような姿で、尾の部分が鎌のようになっている……」
「『フオ』か?」
「そう! フオですわ!」
(やっぱりか!!)
シャルルは無表情を貫きながらも内心盛大に混乱していた。『フオ』は最初の事件で隣国のスパイがけしかけてくる筈だった魔物だ。
(これはもうクロ判定でいいのか? それとも偶然か?? そんな偶然あるか??? あーー誰かに相談したいぃぃぃ……!!)
考え込むシャルルの横で、エリックがベルナデットが怪我をしなかったか心配している。それに対しベルナデットが大丈夫だと笑顔で答えているが、イザベルでさえ怪我をする筈だった魔物を無傷で倒せるものだろうかと更に訳が分からなくなった。
「事情は分かった。家族には黙っといてやるよ」
「ありがとうございます!」
「にしても、上手く化けてるなー」
「うちの優秀な侍女のお陰ですわ!」
「へぇ、今日はその侍女は一緒じゃねーの?」
「……リディには今日のことは内緒ですの」
それまで元気だったベルナデットが急に口ごもって視線を反らしながらボソボソと告げた内容に、シャルルとエリックは「ああ、ベルナデットの奇行に喜んで手を貸してる訳じゃないんだな」と彼女の周りに常識人がいるらしいことに安心した。
アランもそうなのだろうが、彼では彼女を止めることは出来ないことは昨日今日の短い間に十分分かったので。
「ベルナデット嬢のことはジェレミーから聞いてるよ。面白い戦い方をするんだって? 彼に勝ったこともあるって聞いた時からいつか手合わせしてみたいと思ってたんだ」
「女だからと言って手を抜かないでくださいね」
エリックの言葉にベルナデットは好戦的に瞳を輝かせた。




