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「カロリーヌ!」
「お兄様!」
こちらに歩いてくるカロリーヌの姿を見つけて満面の笑みで手を振るシャルルに周りの生徒たちがざわついた。
シャルルは頼りない自分の本質がバレないように、入学してから人目のあるところでは常に気を張って笑うことさえほとんどなかった。そのため図らずも周りからはゲームと同じように『氷冷の完璧王子』と思われていたのだが、そのシャルルが本当に嬉しそうに笑っているのである。
それを目撃した女子生徒は一様に顔を赤く染め、男子生徒はほんの僅か、針の先ほどではあるが近寄り難いという認識を改めた。
「カロリーヌ、学園までの移動は大変だっただろう? 何事もなかったかい?」
「いいえ、イザベルと一緒だったので楽しい旅でしたわ。それにここまで30分もかからないのですから、お兄様は心配しすぎです」
「そうやってカロリーヌ殿下を心配するのと同じようにご自身の身も心配していただけると助かるのですが」
シャルルがカロリーヌと幸せな気分で話していると、やっと追いついたフィリップがそんなことを言うものだから笑顔だったカロリーヌがぎゅっと眉をひそめてシャルルではなくフィリップに向かって尋ねた。
「フィリップ、お兄様は今度は何をしたの?」
「はい、カロリーヌ殿下に早く会いたいあまり、自分を置いて瞬間移動でここまで来ました。護衛である自分を置いて」
「まあ、またですの?」
「う……悪かった。カロリーヌに会えると思ったらつい」
可愛いカロリーヌに険しい表情で責められ、シャルルはフィリップに素直に謝った。
シャルルは事もなげに瞬間移動を行うが、瞬間移動は高等魔法であり、通常の人間であれば大量の魔力を消費する上補助具がないと座標指定が非常に難しい。フィリップも使えないことはないが、使えば魔力がほとんど空になってしまうし、そもそも補助具なしでは『学園のどこか』くらいのアバウトな指定しか出来ない。
シャルルはこの瞬間移動を小さい頃から使い続けている為、今では考え事をしながらでも最小限の魔力で正確な位置に飛ぶことが出来る。それは怖がりなシャルルがいざという時逃げられるようにと努力を重ねた賜物だった。
シャルルはゲームで『完璧』と言われている通りとてもハイスペックに成長した。しかし本人にいまいちその自覚がない上、なまじ強くなってしまったため学園ではよくふらっとフィリップを置いてどこかに行ってしまう。その度に自室に帰った後でフィリップから叱られるのだが、シャルルはその行動を改めることはなかった。
そのどこかというのは大抵ゲームのイベント発生場所の確認であったり攻略対象たちの様子見だったりするので、不審な行動をしているという自覚のあるシャルルにとってはフィリップに着いてこられると都合が悪かったのだ。
「今度からシャルル殿下が何かした場合はカロリーヌ殿下に叱ってもらいましょう」
「そんな!」
いつもと違って神妙な顔をする主にフィリップがにっこりと笑ってそう告げたので、それを聞いたシャルルは悲壮な顔で悲鳴を上げた。
「シャルル殿下がきちんと守られてくれれば何の問題もないんですよ」
苦悶の表情で項垂れるシャルルにフィリップは呆れてため息をつき、カロリーヌとイザベルは困ったように笑った。
なお、このやり取りはフィリップが到着した時に発動した認識疎外の魔法により周りの生徒に目撃されたりはしていない。お陰でシャルルの威厳は今日も保たれている。
ちなみに認識疎外の魔法は学園に入ってからフィリップの得意魔法になった。つまりはそういうことである。




