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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

side:ミカエル


 いつものようにミカエルがエムロード家の書斎で勉強をしていると、執事が来客を告げた。

 誰が来たのか聞くと、エリックとその友人だと言う。ミカエルはエリックと距離を取るために追い返すべきか迷ったが、結局内心では兄のように慕っている彼のことを無碍にすることが出来ず応接室へ向かった。もう1人の来訪者が気になったのもある。

 ミカエルが応接室に入ると、エリックと一緒に彼より少し背の低いローブを着た少年が居た。顔はフードを目深に被っていてよく見えない。


「よぉミカエル。急に押しかけて悪かったな」

「いえ、大丈夫です。あの、そちらは?」


 ミカエルがおずおずと尋ねると、その人物はパッとフードを脱いだ。予想外の人物の登場にミカエルは蒼くなって震えた。


「シャルル殿下!?」


 突然の王子の来訪にクラクラしながら、追い返さなくて良かったとミカエルは心底安堵した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「君がミカエル?」

「ははははいっ! お初にお目にかかります。エムロード侯爵家が嫡男、ミカエルでございます」

「まぁまぁ。そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ」

「いいいいいいえ! そういう訳には!!」

「真面目だなぁ。エリックとは大違いだ」

「否定はしないが納得できねぇ。オレの態度はお前の希望だろーが」

「ははは。確かに」


 目の前で繰り広げられる2人の遠慮のないやり取りを、ミカエルは口を挟むことも出来ずに黙って見ていた。その表情には突然の来訪の理由が分からないことへの不安と、シャルルと対等に話すことが許されているエリックに対する尊敬が浮かんでいる。


「ミカエル、ちょっと僕たちについてきてくれない?」

「はい! 勿論です!」

「う~ん、硬いなぁ。まあエルネストよりマシか?」

「あいつはただのお前の信者だろ。オレにはめちゃくちゃ上から目線だぞ」

「そりゃあエルネストだから。まあいいか。慣れたら軽い感じで話して良いからね?」

「そそそんな僕なんかが恐れ多いです!」


 予想通りのミカエルの反応に苦笑しながら、シャルルは2人を連れて王宮へと向かった。



「あの、どこに向かってるんですか?」

「や、オレも聞いてないんだよな。聞いても教えてくれねーし」

「まぁまぁ、すぐ分かるから」


 そう言って前を歩くシャルルにエリックは肩をすくめてついて行き、ミカエルも不安そうな顔でその後に続く。

 ずんずん王宮の奥へと進んでいくシャルルに、どんどんミカエルの顔色が悪くなる。3人が今歩いているのは王宮の中でも王族のプライベート空間であり、気軽に入れるような場所ではない。

 一方エリックは既に何度かシャルルに連れられて入ったことがあるため、多少緊張はしているが慣れたものだ。


「ちょっとここから静かにしてね」


 2人がこくりと頷いたのを確認し、シャルルはまた少し歩くととある扉の前で止まった。

 扉は僅かに開いており、中から声が聞こえてくる。シャルルはジェスチャーで中の会話を聞くように2人を促した。

 ミカエルはそんなことして良いのかとエリックの様子を伺ったが、エリックは既に言われた通りに聞き耳をたてていたのでミカエルも2人に倣って耳をそばだてた。


「その話はもう5回目だぞ?」

「おや、そうでしたか? いやしかし本当に優秀で。陛下もそうお思いになられませんか?」


 部屋の中から聞こえてきた声にミカエルは思わず悲鳴を上げそうになり、慌ててその口を両手で塞いだ。扉の隙間から中を覗くと、そこにはミカエルの予想通り王と宰相――自分の父親が居た。

 一瞬こちらを向いて座る王の目が自分を捉えたような気がしてミカエルはヒヤリとしたが、そのまま続く会話に気のせいだったかとほっとして中から見えない位置に静かに移動して再び聞き耳をたてた。


「本当にお前は息子が好きだな」


 突然聞こえてきた王の有り得ない言葉にミカエルが固まっていると、続いて更に信じられない父の言葉が続いた。


「好きなんてものじゃないです。ミカエルは賢くて思いやりがあって気が利いて可愛くて向上心があって芯が強くて私なんかの子供とは思えないくらい素晴らしい息子です。あの子は絶対に私などより優秀な宰相になることでしょう。この前だって私が帰った時に……」


 止まらない息子自慢にシャルルはわかってはいたがやはり少し遠い目をしてしまう。


 シャルルは以前休憩中だという父の元へ話をしに向かった時、今日と同じように僅かに扉が開いていて偶然これを聞いてしまった。その時は何となく中に入るのが躊躇われて、後日マクシミリアンにその時のことを聞くとウンザリした顔で教えてくれた。

 曰く、宰相はものすごい親バカらしい。

 以前何かの拍子にミカエルのことを褒めたところ、怒涛の息子自慢が始まったという。我に返って恐縮する宰相につい「気持ちは分かる」と言ってしまったせいで、ことある毎に息子が如何に素晴らしいかを聞かされるようになってしまったのだ。

 しかし最近は「最近以前より笑ってくれない。厳しく接しているせいで嫌われてしまったかもしれない」ということを言い出したらしく、どうしたものかと思っていたところにシャルルに今回の話を持ち掛けられた。マクシミリアンはそれなら目下の悩みも解決することだろうと快諾したという訳だ。


 ばっちりミカエルの存在に気づいたマクシミリアンが自然に誘導したことにより、無事にミカエルに聞かせたかったことを聞かせることができシャルルは清々しい気分で隣のエリックを見た。

 エリックは何とも言えない顔でシャルルを見返した。それにシャルルは「気持ちは分かる」という思いを込めて神妙な顔で頷いた。

 2人がそんなやり取りをしていると、シャルルの視界の端でミカエルがくらりと傾いてバタンと倒れた。慌ててその顔を確認すると、真っ赤な顔で目を回していた。キャパオーバーを起こしたようだ。


「何が……ミカエル!?」


 物音を聞いて様子を見に来た宰相が部屋の前で倒れるミカエルを見つけ慌てて駆け寄った。


「どうしてここに……」

「私がシャルルに頼まれて許可したんだ」


 マクシミリアンの言葉に宰相はわけがわからないという顔でマクシミリアンとシャルルを交互に見た。


「お前と同じように息子も悩んでいたということだ。厳しくするなとは言わんが、ちゃんと話をして、たまには褒めてやれ」


 今日はそのまま息子を連れて帰れと言われ、宰相は深々と頭を下げてミカエルを抱えて帰って行った。


 2人の姿が見えなくなると、マクシミリアンはポンと残った2人の頭を撫でて「やっと面倒事から解放された」と清々しい顔で笑い、それに苦笑しながらエリックは友人がこれで少しは前向きになるだろうと、シャルルはこれでミカエルの犯罪者堕ちフラグが折れただろうとそれぞれに安堵した。

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